お題「部屋の片隅で」
「あーぁ、せっかくの流星群が…。」
幼馴染の晴香が、残念そうに肩を下げる。
今日は何年に一度かの流星群の日だった。
しかし、外を見れば真っ黒な雲が空一面を覆っている。
「ちょっと目を瞑って待ってて。」
目を瞑ったのを確認して、押し入れを開ける。
ゴソゴソと探れば、僕が探していた物が見つかる。
僕は部屋の真ん中にそれを置いて、電源を付けた。
「え、星だー!」
部屋の片隅で、僕の隣で嬉しそうに目を輝かせる晴香。
前にクリスマスプレゼントで貰ったプラネタリウムを使ったのだ。
凄い!凄い!なんて彼女が笑う。
良かった、元気になって…。
「ありがとう!」
照れ臭くなった僕は、うん…と小さな声で言うことしか出来ないのだった…。
お題「逆さま」
逆さまの世界で生きてみたい。
呟いた言葉は、誰にも届く事無いまま部屋に溶けた。
あぁ、またつまらない夜を過ごすことになるのかと夢に落ちていった。
「ここ…どこ?」
明らかに私の部屋では無い。
夢…なのだろうか。
頬を抓っても意識を目覚めることが出来ない。
「迷い込んでしまったのかな?」
少年にしては、やけに大人びた口調。
怪しい、そう思った私は一歩後ろに後退った。
彼の紫色の瞳が私を捉える。
「僕はア・ダルト。皆からはダルって呼ばれてる。」
「ダル、ここは何処なの?」
見渡す限り、黒色と白色しか無い。
まるで、他の色が無いみたいだ。
コツコツと彼の革靴の音が響き渡る。
「ここは逆さまな世界。僕だって子供の姿でも大人だ。」
どうやら呟いた言葉が本当になってしまったらしい。
元の世界に帰れるのだろうか。
「夜が来たら帰れるさ。それまでは逆さまな世界を楽しんでよ!」
私の手を取ったダルが手の甲に口付けをする。
朝が来るまで…か、何処か違和感を感じながら歩き始めた彼を追いかけるのだった。
お題「眠れないほど」
隣で眠っている彼の背中を見つめる。
初めてのお泊まり会で、私らしくも無く、心臓が騒がしい。
彼の背中に、ぴとりと額をくっつける。
「んー…、どした?」
どうやら、私と同じようにまだ眠っていなかったらしい。
こちらを向いた彼が、今すぐにでも夢の中に入りそうな声で私に声をかける。
それだけの事のはずなのに、やけに嬉しい。
「ううん、なんでもない。」
明日の朝になったら、また暫く会えないなんて寂しい。
今のうちに沢山彼のことを堪能しておきたいのだ。
ぎゅっと彼の胸に顔を埋める。
私と同じ匂いに心を弾ませた。
ねぇ、眠れないほどに君を愛しているんだよ。
お題「夢と現実」
⚠️死ぬ要素あり
「愛してるよ。」
そう言ってくれた貴方のことを思い出す度に、夢と現実の区別がつかなくなる。
遠くの何処かで生きているんじゃないかって微かな期待をしてしまうのだった。
そう考えても、もうこの世にあなたはいないのに。
「来世で会えるのかな…。」
彼が好きだった未来の話。
私はあまりそういう話を信じなかったけれど、今なら来世があると信じられる。
彼のお墓で線香の煙がゆらりと揺れた。
空は碧天で、あの人の澄んだ心を表しているみたいだ。
「私も愛してるよ。」
恥ずかしくて貴方に言えなかった言葉。
たったの五文字なのに伝えられなかったなぁ…。
ねぇ、あと何十年掛かるか分からないけど。
もし、貴方の元に行けたらもう一度抱き締めさせて。
恥ずかしくて言えなかった言葉も沢山伝えたいから。
見上げれば一筋のひこうき雲が、太陽の方を目指して伸びていた。
お題「さよならは言わないで」
時森 奈々 17歳。私は時を繰り返している。
そう気付いたのは、彼と出会った時だった。
「じゃあね。」
いつも「またね」という彼がさようならと別れを告げた時、必ず翌日に彼はこの世からいなくなっている。
私は彼に好意を抱いていた。
『恋』という呪いが、彼の死を引き止めているのかもしれない。
もう何度も繰り返している。
しかし、この運命が変わることは無いのだった。
「あのさ…、好きになっちゃった。」
今まで彼に告白をした事が無かった。
運命が変わるなら…と、初めて思いを明かしてみる。
友達としか見ていなかったのだろう。
目をぱちくりとさせた彼が私を見つめる。
「ありがとう。でも、ごめん。」
その日、私と彼は別々に帰った。
私の心を表すように、空は涙を流していた。
翌日、いつもと同じように彼は学校に訪れなかった。
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「じゃあね。」
もう何度も聞いた彼からの別れの言葉。
どんなに繰り返しても繰り返しても、彼の未来が変わることは無い。
神様にお願いしても叶うことは無かった。
「お願いだからまたねと言ってよ…。」
私の願いは、誰にも届くこと無いまま溶けていった。
また同じ日の朝、今日こそは…さよならは言わないで。