お題「逆さま」
逆さまの世界で生きてみたい。
呟いた言葉は、誰にも届く事無いまま部屋に溶けた。
あぁ、またつまらない夜を過ごすことになるのかと夢に落ちていった。
「ここ…どこ?」
明らかに私の部屋では無い。
夢…なのだろうか。
頬を抓っても意識を目覚めることが出来ない。
「迷い込んでしまったのかな?」
少年にしては、やけに大人びた口調。
怪しい、そう思った私は一歩後ろに後退った。
彼の紫色の瞳が私を捉える。
「僕はア・ダルト。皆からはダルって呼ばれてる。」
「ダル、ここは何処なの?」
見渡す限り、黒色と白色しか無い。
まるで、他の色が無いみたいだ。
コツコツと彼の革靴の音が響き渡る。
「ここは逆さまな世界。僕だって子供の姿でも大人だ。」
どうやら呟いた言葉が本当になってしまったらしい。
元の世界に帰れるのだろうか。
「夜が来たら帰れるさ。それまでは逆さまな世界を楽しんでよ!」
私の手を取ったダルが手の甲に口付けをする。
朝が来るまで…か、何処か違和感を感じながら歩き始めた彼を追いかけるのだった。
12/6/2022, 11:23:13 AM