お題「光と闇の狭間で」
「貴方とずっと一緒にいたい!」
光と闇の狭間で揺れていた私は、闇に堕ちた。
もう二度と天国には戻れない。
彼とお揃いの黒色の翼。
さっきまで覚えていた筈の天使の記憶は、霧で覆われているかのように思い出せない。
ライアー、そう私の名前を呼んでいたのは一体誰だったか…。
「これでずっと一緒にいられるね、ライアー。」
私の手をぎゅっと握った彼は、嬉しいのか声が弾んでいる。
この選択が正しかったのかは分からない。
“堕天使”の私は、もう悪魔の彼を頼ることしか出来ないのだ。
彼の手を離さないように、私もぎゅっと握り締めるのだった…。
お題「距離」
君に手を伸ばしても、届かない。
彼女の周りには、いつも人が散る。
僕達は何万kmの距離が離れている星のようなものだ。
見てるだけでも満足してしまう存在。
「ふふっ、面白いね。」
図書委員の僕の元に訪れた彼女は、星についての本を持っていた。
星が好きだと思った僕はペラペラと色々話してしまった。
普段は暗いくせに、空の事だけは流暢に語る僕を見て彼女が笑う。
その時、初めて太陽に照らされる月の気持ちが分かった。
「何で星の本を借りようと思ったの?」
突然、静かになった図書室。
僕と彼女のたった二人だけの図書室。
彼女の顔を見れば、頬が紅く染まっていた。
そ、それはね?なんて言葉が詰まってしまっている。
「貴方が好きって聞いたから…見てみようと思って。」
「そ、そっか…。」
彼女は僕のことが好きなのかもしれない。
そんな期待をしてしまい、気まずくなって言葉が詰まる。
僕は、オススメの本を貸すことしか出来ないのだった。
彼女から告白されるまで、あと…。
お題「泣かないで」
⚠️死ぬ要素あり
部屋で目から水を零すももかちゃんに寄り添う。
さっき、お母さんに大きな声で何か言われていたから、それが原因かもしれない。
バッグに荷物を入れたももかちゃんは、家を飛び出してしまった。
「にゃー。」
ボクも、ももかちゃんの背中を追い掛けて走る。
外の世界なんて初めてで、彼女について行くことしか出来ない。
ないても、ボクの声が彼女に届くことは無かった。
どんっ!
体が痛い。ぼんやりとする視界。
この時、ボクは死ぬんだって分かった。
音で振り向いたももかちゃんがボクだと気付いて近寄ってくる。
目には涙が溜まっていた。
「レイ…!」
ももかちゃんがボクをぎゅっと抱きしめる。
ボクよりも暖かい体は、ココロを幸せな気持ちにさせた。
ズキズキと痛む体が意識を遠のかせようとしてくる。
(泣かないで。キミには笑って欲しいから。)
「にゃー…。」
最期の力を振り絞って出した声は、彼女に届いたかな。
ボクは暗闇に身を預けた…。
お題「冬の始まり」
はー…と息を吐けば空に白色の息が浮かび上がる。
寒がりの俺は、手袋にマフラーと完全装備しなければ外に出られなくなっていた。
マフラーをしている筈なのに首に冷たい感覚。
後ろを振り向けば、指先が真っ赤になっている彼女が首に触れていた。
「手袋忘れたー…。」
俺が上げたマフラーを着けている彼女が寒そうに手を擦る。
どうやら朝に持っていたカイロは凍えていた友達に上げてしまったようだ。
優し過ぎる彼女らしい行動である。
俺は、左手に着けていた手袋を貸してあげることにした。
「右手、ん。」
彼女の右手をぎゅっと握り、ポケットに突っ込む。
嬉しいようで、強く握り返してくれる。
どんどん暖かくなっていく彼女の手。
「ありがと。」
彼女の耳が赤くなっていたのが、寒さゆえか、恥ずかしさゆえか分からないのだった。
いつも明るい彼女が寒さで弱々しくなっていると、冬の始まりを感じる。
お題「終わらせないで」
俺は知っている。
教室の隅でずっと俺の事を見つめる彼女が、俺の事を好きなことを。
気付いたら俺も意識していて、彼女が気になるようになっていた。
「なぁ、またあの子見てるよ。」
俺の友達が小声で耳に囁いてきた。
ちらり、と視線を変えれば、バレたとでも言うように目を逸らされる。
行動がいちいち小動物のようで、からかいたくなってしまうのだ。
(どんだけ俺の事好きなんだよ。)
思わず、くすりと笑いが零れてしまう。
友達と喋り、何も無かったかのような態度を取る彼女。
しかし、ちらちらとこちらの様子を伺っている。
「いいよ、別に。」
きっと、俺が彼女に一歩でも近づいたら、この関係は終わってしまうかもしれない。
だから、俺は彼女と視線を合わせるだけで終わらせる。
誰もこの関係を邪魔しないでくれ、終わらせないで。と思うのだった…。