お題「愛情」
掬っても掬っても幸せが零れ落ちていく。
それが、私の心の箱だった。
「俺の傍にずっといて欲しい。」
貴方にそう言われたあの日から、愛情という名の底が出来た。
どんどんと幸せが溜まっていき、私の心は満たされていく。
今、私がここにいられるのは貴方のおかげ。
しかし、その事を言うのはとても恥ずかしかった。
「私を好きでいてくれてありがとう。」
当たり前じゃん、なんて回答は彼にとっては当たり前だったのかもしれない。
でも、その言葉は私を笑顔にさせた。
一日一日の幸せを貴方と噛み締める。
ずっと続いて欲しいと願うのだった…。
お題「微熱」
熱になって数日、やっと熱が引いて学校に来ることが出来た。
けほ、と乾いた咳が口から零れる。
自分の席に座った時、彼女が僕に近寄ってきた。
「体調、大丈夫?」
僕が風邪を引いている間、ずっとLINEで体調を心配してくれていた彼女。
会いたかったのか、心做しかそわそわしているように見える。
しかし、それは僕も同じなのだった。
「平気、心配してくれてありがとう。」
久しぶりに彼女に触れれば、びっくりしたのか肩が少し上がる。
その愛しさに、つい口角が上がってしまうのだった。
それにむっとした彼女が、僕の頬にキスをした。
「え…。」
驚きのあまり、言葉が溢れてしまう。
また熱が上がって、微熱になってしまったかもしれない。
やけに顔が熱いのだった…。
お題 「太陽の下で」
はぁ…、はぁ…、
たとえ息が切れても、走らなければいけない。
彼女の手を離さないように力強く握る。
後ろから聞こえる幾つもの足音は、俺たちの恐怖を唆った。
「もう…限界っ!」
彼女が辛そうに言葉を発する。
裸足で走っているから、足はボロボロだ。
しかし、止まったら捕まって永遠に太陽を拝むことは出来ないだろう。
指切りげんまんした約束を彼女の為に叶えてあげたい。
「やっと、外に出れる…!」
上を見上げれば、太陽が僕達のことを照らしていた。
初めて見た太陽は、暖かくて包み込んでくれているようだ。
見ている場合じゃなく、走ろうとした時彼女が座り込んでいる事に気付いた。
「何故か力が入らないの。先に行って?」
悲しそうに笑う彼女を、僕が置いていける訳が無かった。
彼女に手を貸そうとした時、囲まれていることに気付いた。
もう、僕達は鳥籠の中に戻ることしか出来ないのだろうか。
「君達は太陽の下では生きられない。」
彼女は、何故か意識を失ってしまっていた。
僕もくらり、と目眩がして、力が抜けていく。
最後に聞いたその言葉の意味が分からなかった。
僕達が“吸血鬼”と知ってしまうまで、あと…。
お題「セーター」
「さむ〜…」
そう言う君は、少し大きめのセーターを着ていて萌え袖になっている所が可愛らしい。
写真に残したいと考えてしまう僕は、思っているよりも彼女の事が好きなようだ。
「暖めてよ。」
ほら、なんて手を広げた彼女を真似して、僕も手を広げた。
ぽすりと収まった彼女は、ぬくぬくと僕の子供体温で暖まっている。
きっと、夏は暑くて僕から離れるんだろうな…と考えたら悲しくなってきた。
「帰りさ、手繋いで帰ろ。」
恥ずかしそうに頬を染めた彼女が、上目遣いで僕に言った。
もし、僕が雪だるまだとしたらもう溶けてしまっているに違いない。
彼女に釣られて、僕の顔まで熱持っていくのが分かる。
「いいよ。」
昼休みの終わりを告げるチャイムが流れる。
授業は全く頭に入って来ることはなく、右から左へと流れて行った。
もちろん、彼女と帰ることで頭がいっぱいだったのだ。
僕は、体温を分け合った今日のことを忘れないだろう。
お題「落ちていく」
※自殺注意
『天使』と呼ばれていた私は、もうここにはいない。
アイドル界の天使、なんて言葉が懐かしい。
付き合ってもいないのに雑誌に載せられた熱愛報道。
どのSNSを見ても、炎上していて救いの手などひとつも差し伸べられることは無かった。
みんなが私を『堕天使』と言った。
熱愛報道が出た数日後、私は自分の翼をもいだ。
翼をもがれた天使は、二度と天国には帰れない。
これでただの人間だ。そう思った私が甘かった。
家を特定されてしまい、ずっと怯える日々。
日に日に私の心はすり減っていた。
「天国に帰りたい。」
帰れないとは分かっているけれど、みんなに愛されていた日々が恋しいのだ。
ふわり、と空に身を預ける。
あぁ、羽ばたけずに落ちていく。
どんどんと近付く地面を見つめながら、私は意識を暗闇に落とした。