お題「夫婦」
11月22日、今日は良い夫婦の日だ。
いつも彼は、この日に必ず私にプレゼントをくれる。
ガチャと扉が開く音が聞こえて、玄関に向かえば1輪のお花を持っている彼がいた。
「ただいま」
「おかえり」
この言葉だけでも、心が幸せで満ちていく。
ん、と何も言わずに渡されたけど、後ろからでも分かるくらいに彼は真っ赤になっていた。
アングレカムの花をいつも1輪渡してくれる彼。
私が花言葉を知らないとでも思っているのだろうか。
花言葉は…、いつまでもあなたといっしょ。
「ありがとう、いつも。」
自分は不器用だとよく言うけれど、貴方の愛情は伝わっているよ。
貴方が伝えられなくても、私が沢山伝えるから。
月日が経つ度に彼が好きになっていく。
私は、彼を後ろからぎゅっと抱き締めた。
「これからもよろしくね!」
私は抱き締めたまま、彼の大好物が沢山置かれたテーブルまで向かうのだった。
いつまでも、この幸せが続きますように。
お題「どうすればいいの?」
「別れよう。」
その時、私の全てが色褪せていく感じがした。
時が止まったかのような感覚に至る。
何かしたっけ、なんて記憶を探るけど、何も思いつかない。
ただひとつだけ分かるのは、もう彼は私なんて見ていないということだけ。
「そっか…。ありがとう、今まで。」
私は、未練があっても彼を突き放すことしか出来なかった。
引き止めたいけれど、もう私にそんな権利は無い。
早くこの場から立ち去って、ひとりで泣き喚きたかった。
零れそうな涙を必死に抑える。
「うん、こちらこそ。じゃあね。」
遠ざかっていく好きだった筈の彼の背中が、虚しく思える。
“またね”といつもの言葉も、“じゃあね”という言葉に変わってしまった。
もう、二度と彼と会うことは無いのだ。と気付かされてしまう。
「私は、どうすればいいの…?」
貴方のお陰で彩っていた世界じゃないと、楽しくない。
ぽつりと呟いた言葉は誰かに届くことなく、空に溶けて言った。
お題「宝物」
「きゅるるるる…。」
鳴き声が聞こえた気がして、岩陰に行けば美しい人魚がいた。
太陽に反射して、髪がキラキラと輝いて見える。
ぱっちりとした瞳は澄んだ海のような、何処までも広がる青空のような蒼色だ。
「君は海の底で暮らしているの?」
こくりと頷いたから、人間の言葉は分かるのだろう。
そうだ、と思い出してポケットを漁る。
僕は、ラムネの中に入っていた透明のビー玉を取り出した。
宝物にしようと思っていたけど、お土産として持ち帰って欲しい。
「これ、あげる。キラキラしてて綺麗でしょ。」
-まるで君みたいだ。なんて口から零れそうになったけど、何とか抑えた。
嬉しそうにくるる…と鳴いた人魚が僕に尾びれで水を掛けてくる。
ぱしゃっ、と潜ってしまったと思えば、また現れた人魚。
「くれるの…?」
何処から取ってきたのか分からないけど、見た事ない貝殻を手渡しされる。
彼女の手は、ひんやりとしてとても心地よい。
貝殻を太陽に照らせば、宝石のように輝きを持ち始めた。
「ありがとう、僕の宝物にするよ!」
遠くで僕の名前が呼ばれた。
じゃあね、と手を振りながらお母さんたちの元に向かう。
また会えたらいいな…なんて、心臓がどきどきと騒ぎ始めるのだった。
お題「キャンドル」
今日、彼女の命のキャンドルの灯火が消えた。
いつかは、こうなると分かっていた。
ずっと、お医者様に言われていた事だったから。
日に日に太陽みたいな笑顔だった彼女が、夜の月のような静かさになってしまう所を見る度に、ズキリと心が痛んだ。
この人生の中で一番愛した彼女が弱っていく所を見ることしか出来ないのが悔しかった。
でも、その感情を感じることは二度と無いのだ。
暖かく柔らかかった手は、冷たく硬くなってしまった。
その手に縋るように擦り寄り、涙を零す。
僕の灯火を渡せたら、どんなにも良かっただろうか。
何度も神様に祈ったと言うのに、この願いは届かなかった。
彼女は天使に連れ去られてしまった。
「おやすみ、辛かっただろう?」
ずっと病気と戦い続け、ゆっくりと眠れなくなっていた筈だ。
どうか、僕が逢いに行くまでは眠っていて欲しい。
また元気な彼女に僕は照らされたいのだ。
左手の薬指に口付けをして、病室を出る。
空を見上げれば、そこには満天の星空が僕の事を見つめていた。