ゆじび

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9/28/2025, 2:06:29 AM

「涙の理由」


僕が泣かせてしまったあの娘は今は僕の近くにいない。

中学三年生の夏頃。
去年まではお手本となる先輩がいたけれど今年からは
自分達が学校の代表。
受験とか進路とか恋人との遠距離恋愛の始まりだとか
模試とか悩むことがたくさんで、恋人との時間はあまりなかった。
来年の今頃は何をしているのか分からずに少し不安で
心臓に重く、深くなにかが乗っかっているような感じがする。

大好きな彼女も友達も家族も何もかも自分を支えてくれていることは分かっている。
それでも少しプレッシャーがかかる。
全て投げ出して逃げてしまいたい。

学校からの放課後。
少し。本当に少しだけど恋人とコンビニに行って駐車場でアイスを食べた。
少し溶けていたけど心がひんやりするように。
心が少し楽になった。



中学三年生の冬。
いよいよ受験間近。
不安なこともたくさんあって。
苦しいこともたくさんあって。
今までの事を振り返るにはまだまだ早いと分かっているけれどやっぱり考え深い。
少し前まで高校生に早くなりたいと思っていたのに
今はもう少しだけ中学生でいたい。

恋人の近くにずっといたい。

恋人と神社に行った。
お守りを買って家に帰ってまた勉強。
早くこの生活が終わればいいのに。





受験が終わった。
疲れた。眠ってしまいたい。
けれど今は恋人に逢いたい。

恋人にあった。
彼女は僕に言った。
「別れよう」って。
なんでか聞く前に彼女はなぜか泣き出した。
僕を支えてくれた彼女が泣いている。
強くて立派な彼女が。
「なんで泣いているの?」
と僕が聞いても彼女は
「女の子に泣いてる理由は聞いちゃだめだよ。」
というだけだった。
僕はなにも言えずに泣いてる彼女を抱き締めることしかできなかった。


彼女の家族は遠くへ引っ越したらしい。
どうやら僕の恋人はビルの屋上から飛び降りたらしい。もう死んでしまったらしい。
彼女はきっと僕に別れを切り出したときにはもう
死のうと思っていたのだろう。

なんとも言えない重みが心に響き広がっていく事を実感した。

9/20/2025, 11:28:26 AM

「既読のつかないメッセージ」 


「好きです。」
そう言った。
でも、貴方を目の前にしたら緊張できっと私は
「好き」なんて言葉に出来ないから。
だから私はLINEを送った。
思っていたよりもすぐに既読がついて貴方は私に
「会いたい。」と送ってきたね。
断られるんじゃないかと思って私は会いに行くのが怖くてしかたがなかった。

そんなことも色々あってもう付き合ってから3年。
長いようで短い時間だった。
私は逆プロポーズでもしようと思ったの。
だから私は貴方にLINEで送ったよ。
「会いたい。」ってあの日の貴方のLINEと同じように
勇気が必要だったけど。
あの日の貴方もきっとこんな気持ちだった。
私のために振り絞ってくれた勇気が確かにあった。
それだけで私に幸せな気持ちが身体いっぱいに暖かく広がった。。

既読がついて。
貴方から「了解」と送られてきた。
きっと貴方は私がプロポーズをするって思ってもないでしょうね。
貴方の驚く顔がとても楽しみ。

待ち合わせの公園。
昔私が住んでいた家の近く。
よくここで話したな。あの日もここで告白をした。

おかしい。
待ち合わせ時間から1時間以上経ってもまだ貴方は
来ない。
貴方はこんなに遅刻することなかったでしょう?
なのにどうして。
胸が騒ぐ。嫌な予感が心を締め付ける。
彼は大丈夫なのかしら。
....遅刻したって怒らないから。無事ならばすぐにここに来て欲しい。

電話がかかってきた。
もしかして貴方からかと思ってすぐにスマホを取り出した。
貴方ではなかった。貴方のお母さんからだった。
あぁ。嫌な予感とは本当に当たるのね。



彼はもういない。
涙も枯れ果ててなにも出てこない。
目が痛くて開きにくい。
そもそもあまり寝れていないから眠くて瞼が重たい。
なにも喉を通らなくて。
お腹が空いた。
いつ貴方が遊びに来ても大丈夫なようにいつも綺麗に保っていた私の家もすっかり汚れている。
息を吸うことも吐くことも億劫だ。




「逢いたい。」
LINEで送った。
既読がつかないメッセージ。
既読などつくはずもないメッセージ。
このメッセージは誰にも知られずに消えていって
しまうだろう。
それも良いのかもしれない。
誰にも知られずに消えていったこのメッセージが
きっと天国にいる貴方に届くといいなぁ。

逢いたい。
会いたい。
置いていかないで。

貴方だけが死んでいく。
私はどうしてこうなってしまったのかも分からない。


いつか貴方に逢えますように。
それだけを私は願うのです。


瞼が重たいようやく眠りにつけそうだ。





『ピコン。』
スマホがなった。
誰からなのか分からない。
だって私はもう眠たくて指一つ動かないから。
でも、視界の片隅になんだか貴方からLINEが来たと
写し出された気がする。
私は少し安心してそっと瞳を閉じた。














『貴女にもう一度逢いたかった。』





9/16/2025, 9:59:42 AM

「感傷旅行」


ふと考える。
もしも私が貴方と出会っていなくて、故郷から都会へ行くことがなかったら。
故郷を出てからの悲しみも嬉しみもなかったら。
きっといまの私はいなかった。

山の匂いが立ち込める故郷。
海なんて遠出しないと到底見られない所。
秋は鈴虫 夏は蝉。
風鈴が風に撫でられる音がして、自転車の音が鳴り響く。秋の田んぼは金色で美しい。
お米の匂いが鼻をくすぐる。
美しくて自由な私の故郷。

幼馴染みの貴方。
短く切った髪に汗が滲む。
自転車をこいで、たまには2人乗りもしちゃったり。
廊下を走って怒られてすぐに怒られたことも忘れて
走り出す。
先生から見たらきっとすごくてのかかる悪ガキ。
でも私はそんな彼が好きだった。

卒業式で泣く私をどうしたら良いのか分からずに
おろおろする貴方。
転んだ私に一番に駆け寄ってくる。
地域の夏祭りでヨーヨー釣りをした。
私は黄色で貴方は赤色のヨーヨーをつった。

二人で夢を追いかけて上京して。
同じマンションの同じ階で。
ご飯のお裾分けをして。
一緒に息抜きをして。
楽しい思い出をつくったね。



でもね、そんな彼はもういない。
遊んだ貴方も頑張った貴方も。
みんな、一瞬で居なくなっちゃった。
事故だった。
車が壁に衝突して、それに巻き込まれたみたい。
こんな一瞬で人は死んでしまうのだと私は新しい知識を手に入れたよ。
貴方はもういないのに。


だから私は故郷に少しの間帰ることにしたの。
鼻をくすぐる故郷の香りがあの頃を思い出させるの。
上京して彼が死んですごく帰りたかった故郷なのに
彼がいない故郷はなんだか味気ないの。
私はこの故郷に帰りたかった。
あの頃となにも変わらない故郷に帰ってきたかった。
貴方との思い出の中に帰りたかった。




だからこれは私にとっての感傷旅行なんだ。
彼にもう逢えない私の感傷旅行。




9/14/2025, 1:30:26 PM

「あの日の月」


晴天の星空と月。
「月が綺麗ですね。」
ふと口から零れ堕ちた1つの言葉。
この言葉はきっと貴女の耳に届かなかった。



煙草の煙が立ち込めるベランダ。
マンションの十二階。
1人で酒と煙草を手に空を見上げる自分。
今日は天気予報では満月だと言っていた。
実際は曇っていてなにも見えない。
輝く満月などなにも見えない。
少し月明かりが雲が透けて見える程度で街中を歩く人達のことも見えやしない。
星も風も全てが姿を消したかのよう。
確か貴女が空を舞い、自由になったのはこんな星空の日だった。

「貴方が私を愛してくれなかった。」
「ずっと1人だった。」
「貴方の瞳に写ることが申し訳ない。」
「私は貴方の理想になれない。」
「私を1人にした貴方のことを、私は。」
「貴方なんて大嫌い。」
次々に貴方の口から溢れでてくる。
どうしてこうなってしまったのか分からなかった。
もう少しだけ貴女への愛の言葉を伝えていたら。
もう少し側にいたら。
後悔とは少し違う。なにか分からない感情が溢れる。
目の前で飛び降りた貴女が地面に叩きつけられる音がするまでここは夢なのだと本気で思っていた。

こんな月。雲に煙に隠れてしまえば良いのに。
貴方以上に美しいものはないのに。
愛しているものはないのに。
この瞳に写すことを躊躇わないのは貴女だけなのに。
愛していたのに。
理想は貴女だったのに。
貴女が逝ってしまったのは僕のせい。

あぁ。この感情がなにか分かった気がする。
きっと僕に対しての「呆れ」なんだろう。
僕にはもうなにも出来ない。
愛する人を守ることも愛すこともなにもできなかった。ごめんなさい。ごめんね。愛せなくてごめんね。
今さら遅いけどごめんなさい。
ずっと寂しい想いをさせていてごめんね。
でも我が儘を言えるなら生きていて欲しかった。
僕を殴っても良い。僕が嫌いでもいいから。
この世界のどこかで命を紡いでいて欲しかった。



この想いも全て、全て。
月のように煙のように消えていけば良いのに。

いつか貴女の命が。
月のように星のように
空から僕を探してくれますように。


貴女が生まれ変わった時。
また僕とすれ違うだけでもいいから。
貴女の瞳に。
僕が写りますように。





9/13/2025, 3:06:36 PM

「空白」



「          」

貴方はなにも言わない。
そうなったのはいつからなのだろう。
気がついたときには。貴方はもう。

なにも聴こえなくなっていた。

貴方の夢は絵本の作家さん。
いつか子供たちに自分の絵本の読み聞かせをするんだって言っていたわ。
そしていつか耳の聴こえない人達にも読み聞かせをして声を届けたいっていつも言っていたわね。
今の貴方はストレスによる難聴になってしまった。
今はもう叶わない夢なのかしら。

「ずっと前から貴方のことが好きだった。」
愛していた。
今さら私がそう言っても貴方はなにも聴こえない。
虚しいけれど。悔しいけれど。寂しいけれど。 
今さらどうにもならない。
もう一度。もう一度だけ。私に笑いかけて欲しい。
あの日のような笑顔を。私の好きだった笑顔をまた見せて欲しい。
聴こえなくなってからの貴方のなにも感じていないよな顔が私は少し苦手なの。

私は子供が苦手だった。
いつもうるさくて言うことをきかない。
でもいま思うとうるさいと感じたのも全て私には音が聴こえていたからで、聴こえない人にとってはうるさいとも感じることが出来ない。
私はきっと恵まれていたんだわ。

貴方との出会いは職業体験の時だった。
保育園の体験で私はめんどくさいと思っていた。
でも貴方は楽しそうに本の読み聞かせをしていたね。
聞いている子供たちも読んでいる貴方もとても楽しそうだった。
子供と貴方の笑顔をみて私まで楽しくなっちゃったもの。
私はきっとそこで貴方に恋に堕ちたのね。

耳が聴こえなくなったら貴方はきっと読み聞かせをしなくなる。そういう人だって私はよく知っている。
でもね私が読めば貴方も楽しめるのではないかしら。
貴方が本を書いて私が読む。
貴方のためなら私は子供のことを好きになれそう。
こんな私でも貴方のためにできることがあるなら喜んでするわ。
だって私は貴方に心底惚れているんだもの。

下を向くのはもうお仕舞い。
上を向いて歩けなくても前を向いて歩くの。
貴方の世界にはまだ私がいてあげるから。

私が貴方に愛を告げるのは前を向けるようになってから。


まだ焦らなくても良いよ。
ゆっくりで良い。
私と貴方の世界はまだまだ続いていくんだから。



「空白」はきっといまからでも埋めていける。

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