ゆじび

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5/4/2026, 12:21:58 PM

「願いを叶えて。」


「リリー」
「ん?」
「今日の晩飯何がええ?」
「唐揚げ!!」
「昨日も唐揚げやったやろ。うーん。
しゃあないなぁ。今日も唐揚げパーティーや」
「やった!ありがと。流星」
「よっしゃ。決まったら買い出し行くでー」

リリーと流星は足を早めて近くのスーパーへ歩いていった。
格安のシールがついた唐揚げをいつもは一パックのところを2つ買った。
嬉しそうに頬を緩めて袋を持つリリーの横で穏やかな目をした流星が歩く。
すっかり暗くなった空の下を歩いた。
流れ星が流れていった。
それを見つけたリリーは密かに願うのだ。

「どうか夢よ覚めないで。」



「――リリー?大丈夫か」
「――春来先輩。」
リリーの目から涙がそっと溢れていた。
「はい。大丈夫です」
「ならいいが。」
春来は心配そうに眉を下げた。
今は戦場へ移動する車のなか。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
リリーは窓の外を静かに眺めた。
今から怪物を殺しに行く。
あぁ。おかしな話だ。私だって怪物なのに。

流星がいなくなった私の世界はずっと夜。
空は暗く私の姿を消してしまう。


「リリー。今日の夜ごはんどうする?」
「――御幸先輩。」
今度は野宿する施設の前で声をかけられた。
「――唐揚げ。」
「ははっ。また唐揚げかぁ。分かった買ってくる。」
「ありがとうございます。」
御幸は春来に報告し、近くのスーパーに行った。
愛奪還組の食料は基本的に食べたいものを買いに行く。少しおかしいとは思うが死ぬかもしれないのだ。
後悔を残さないためないためなのかもしれない。


「リリー先輩。」
「晴流也。」
「すっかり夜ですね。俺、夜好きなんですよね」
「へぇ。――私は別に」
「そうすか。――あっ流れ星。ほら願い事!」
「願い事。」

リリーは心のなかでそっと唱えた。

「これが夢ならさっさと覚めればええのに。」

「先輩なんて願いました?」
「――内緒。」
「えー?ケチ」
「願い事は言ったら叶わへんから。晴流也は?」
「俺は早く戦いが終わりますように。です。
あっ。言ったら駄目だったんでしたっけ。」
「まぁ。別にええんちゃう。」

晴流也もみんなもきっと戦いが終わることを夢見てる。私もそうなんだけどなぁ。
完全に戦いを終えるには私も――。

ふぅ。とリリーは思考を払うように息を吐いた。
いま考えても仕方ないか。

こういうときは嫌でもあの頃のことを思い出す。
瞼が重くなる。あぁ。御幸先輩が唐揚げ買いに行ってくれたのに。その前に寝ちゃう。
リリーの身体は支えを失ったように静かに横たわった。


「――流星。あれってなんなん」
幼いリリーは流星に尋ねた。
指の先にはテレビに写る夫婦。リリーは夫婦の指にある指輪に目を止めた。
「あれか。あれは結婚指輪やな。家族になった男女がつけんねん。」
「へぇ。じゃあ私らもつけようや。」
「あ?なんでやねん。」
「だって家族やん。その印はいるやろ。」
「いや。違っ―。うーん。まぁえっか。明日買いに行くか。」
リリーは目を輝かせて言った。
「うんっ。しゃあないから着いていったる!」


翌日。
二人はいつもより少し遠出をした。
少し大きなショッピングモールのおもちゃ屋さん。
指輪屋さんは高くて手を出せない。
だからおもちゃ屋さん。
指輪のあるコーナーで指輪を選ぶ。
「よし。どれがええ?」
「うーん。なぁ流星が選んでや。私は流星の選ぶ」
「よっしゃ。任せとき」
30分ほどたった。
2人とも手に一つずつ指輪を握りしめ発表会をする。
「行くで。せーのっ。」
2人は手を開いた。
リリーの手のひらの上には青色の宝石のついた指輪。
流星の手のひらの上にはピンク色の宝石がついた指輪。
「なかなかにセンスあるやん。」
リリーがいった。
「そちらさんもな」
2人で笑いレジへ言った。
さすがにおもちゃ用の指輪は流星の指には会あわなかった。だから100均で2つ入りのチェーンをかってネックレスにした。

帰り道。
流星がリリーに言った。
「いつか本物の宝石ついた指輪買ったるからな。」
「――ほんま?約束な。楽しみにしとるわ」
2人は笑ったいつもの暖かい温度で。
一つの約束が結ばれた。
その約束が流星とリリーを繋ぎ、紡ぎほどけていけていくのはこの少し後のおはなし。


リリーは重たい目を開けた。
辛く幸せな夢だった。




戦いが始まった。
銃弾が放たれる音。鈍い打撃音。爆発の音。
火薬の匂い。毒の匂い。薬の匂い。
乱れる髪は白く美しく、怪物から命を奪う。
華奢な身体から放たれる強烈な剣筋も、怪力も
聴覚も嗅覚も。仲間の死をとらえる視覚も。
全て怪物だという証拠のよう。
怪物の腹をさく度。怪物の声を聞くたび。
「あぁ。私もそちら側か。」
そう思う。
視界の端で御幸に怪物が向かうのを捉えた。
「危なっ――」
言い終わる前に身体が動いていた。
助ける動作でも叫ぶ動作でもなく。
諦め目を伏せまた前の敵に向かう体勢。
御幸先輩が死ぬかもしれないのに。

私はやはり怪物だ。

御幸先輩の声が聴こえた。
「ぁぶなっ!」
御幸先輩の足が人間か?と思うほど早く骨を感じないほどの柔軟性で曲がり強烈な蹴りを与える。
御幸先輩は生粋の毒使いだ。人間型への勝率は春来先輩を軽く越して一番。
靴の底に仕込まれた毒たっぷりのナイフが怪物の首を深々とさす。
「よかった。」
リリーが御幸先輩の方を見つめ思わず呟いた。
そのときだった。
「リリーっ!」
いきなり御幸先輩が私の方を向いて叫ぶ。
その時リリーの肩を後ろから怪物が突く。
痛っ。
そう思ったときには身体が動き、持っていた刃が怪物の口から入り脳を貫き頭蓋骨にぶつかった。
「大丈夫っ?」
御幸先輩が尋ねた。
「はい。怪我はないです。」
それもそのはず。
リリーは怪物だから例え大怪我をしても一瞬で完治する。
一瞬紫の泥のようなものが傷口から溢れたが
だれもみていないだろう。

戦いは続いた。


無事に愛奪還組は待機場所へと帰還した。
何人も死んだが別に仲もよくないやつらだったからなにも思わない。
春来先輩は酒をたくさん抱え共同墓地へ。
御幸先輩はそんなに春来先輩を見送り訓練場へ。

私は愛奪還組の休養室へ行った。
この時間帯はあまり人がいない。

ソファに座り息をついた。
その時だった。

「――リリー先輩。」
「――晴流也。どうしたの」
「俺。見ちゃったんです。」
流星は分かりやすく目線を外した。
「何を?」
「――言いたくなかったら、構いません。
もしかして先輩って――怪物。なんですか」
「は?」
リリーは目を開いた。
なんだか涙がでそうだった。
あぁ。バレてしまった。あぁ。殺されてしまう。
なによりも。――嫌われてしまう。

流星の愛もなにもわからなかったよ。


沈黙の時間が流れた。
はい。ともいいえ。とも言わない。
でも沈黙は肯定のようなものだ。

晴流也は口を開いて言い出した。
「リリー先輩の傷が治るのを見てしまったんです。」
「――へぇ。」
リリーはなんだか腹が立った。
八つ当たりだとは分かっている。
でも死ぬ前に爪痕を残したかった。
少しでも愛を知れるチャンスを逃したくなかった。
リリーは声を荒々しく絞り出した。

「怪物だったら。なに?
私が悪いん?なんでなん。
分からへんねん。人間ってなんなん。
生まれたときから怪物な私はどうしたらやかったんよ。」
晴流也はなにも言わない。
「大体私は中途半端やねん。
大好きな私をあの頃の私を。流星と一緒にいた私を
怪物だって認めたくなくて。ワンピースも埋めたし見た目も変えた。でも失くせんかった。
夢の中の幸せもあの頃の約束も。指輪も。
好きなもんだって変わらへん。

気付いたら言葉やってあの頃のに戻る」

リリーは言った。

「愛しかたやって分からん。
愛されてたって言えん。
私も怪物もホンマはなんも悪くない。
生きてるだけ。
ホンマに悪いのは。――――なんなんやろか」

目から気付いたら涙が零れた。
子供のように泣いた。
晴流也の前なのに。
身体は制御を失ったように少しずつ形を変えた。
少し大きな私から紫色の泥が溶け落ち、あの頃の幼いリリーが姿を現した。

「ねぇ。ねぇ。流星。――晴流也。私を許してや。
消えたいって願う私を許してやぁ。」

晴流也は優しくリリーを胸のなかに包み込んだ。
幼子をあやすように。
「リリー先輩。俺は別に責めてるんじゃないんですよ。貴方に怪我がないか聞きたかったんです。
痛くないか。聞きたかったんです。 

だから。消えたいなんて言わないで下さい。ね?」

リリーは涙が止まらなかった。


晴流也。私は痛いよ。胸も今まで泣いて赤く腫れて治ってそれを見てまた泣いて。繰り返してきた瞳も。
今日の傷だって痛かったんだよ。
無事なんかじゃない。大丈夫なんかじゃない。

リリーは晴流也の背に腕を回し背中の服をがっちりつかんだ。戦闘中では考えられないほど弱々しく、払うとすぐに離れてしまいそうだ。
でも離れたくないとそう伝わる。
しばらくそうしていた。

ねぇ流星。私はいま晴流也を失いたくないと思うの。
ねぇ。流星。貴方の名前が願いを叶えるものならば
私のこの微かな願いを叶えて。
ねぇ。お願い。

いつか晴流也に大丈夫なんかじゃない。って目を見て言えるまで。私が消えられないように見張っていて。


泣きつかれるまで泣いた。
ずっと晴流也の胸のなかにいた。
泣きつかれて泣いて子供のようだった。
そんな私を晴流也は私が目を覚ますまで側で頭を撫でてくれた。




私は「愛」をしるよ。
過去の愛をしるために。
未来の。晴流也に心から愛してると言うために。
新しい約束を守るために。


私の夜空は真っ暗だ。
でもそのお陰で微かな光が、流れ星が見える。
私にはぴったりだ。
愛を見逃してしまう私が愛に気付けるような。

そんな私だけの、晴れ渡った世界だ。


4/29/2026, 11:22:17 AM

「名無しの子」


真っ白な世界が広がった。
このままこの場所に閉じ籠っていたら。
どうにか未来が、過去が消えて変わっていかないだろうか。


「おまえさぁ。いい加減にしてよっ」
そういって女がまだ幼い女の子を叩いた。
「そういうとこが嫌いなの。あんたを拾ってやったのはだれ?私でしょ。なんでそんなに生意気なの。
私がいなきゃ死んでたくせにっ」
女の子は考えた。
私のなにが駄目だったの?
「そういうとこ」ってなに?
教えてよ。
「まぁまぁ。落ち着いてよ。このガキ死んじゃうよ。
――っね。いいホテル見つけたんだよね。」
心配してる風の金髪の男がやってきた。
「っ。分かったわ」
瞳に光を写さない少女は少しだけ唇を噛み締めた。

あぁ。あの日この人たちから逃げていれば。
愛してくれると考えなければ。
あのまま死んでいたら。

女の子は深い眠りについた。
実際はわからない。
気絶かもしれないし短い眠りかもしれない。
このまま目が開かなければ。そう考える。


怪物がこの世界に蔓延るようになり、孤児がふえた。
いつどこで現れるのかわからない怪物。
それに何人もの人間が殺された。
親だってそう。
孤児が溢れるこの世界では子供の命は軽い。
まぁ。人によるけど。
きっと愛される養子だっている。
私は違うかっただけ。
名前はない。
つけてくれなかった。
そう。私はペット以下だろう。

あいつらが死んだ。
どうやら女の旦那が殴り込んできたようだ。
浮気。不倫。好きかってやっていた女だったそうだ。
女も金髪の男も殴り殺された。
あぁ。よかった。あいつらが死んで。
あぁ。よかった。私は閉じ込められていて。
あいつらが私の部屋に鍵を閉めていたから。
旦那にばれなかった。

数日後。
お腹がすいた。喉が乾いた。
玄関が開く音がした。
「――――っ」
何人かの男が話す声がする。
ご飯くれたりしないかな。
私は重たい身体を引きずって扉を引っ掻いた。
ガリガリっガリッ
微かな音だった。
だけどその後すぐに扉が開いた。
「御幸さんの娘さん発見しました。」
帽子を被った男の人。
警察だった。
そこで私は知った。
私の名前は「御幸」だと。
したの名前はない。だけど家族の絆を表す名字だけは。
(名前だけは縁起がいいな)
幼いながらそう考えたのを思い出した。


目が覚めると知らない家。
孤児院だと。
海の匂いが鼻をかすめる。
あぁ。知らない町にやってきたんだ。
海の見える町。
知り合いなんてもとからいなかったから離れた悲しみもない。

この頃の私はまだ思っていた。

「愛」とはきっと素晴らしいものだと。


高校生になって高校に入学した。
知らない学校。見慣れない人。
緊張で目の前が真っ暗になった。
「あんたすんごくかわいいなぁ。」
女の子の声がした。
「―っ」
当たり前に知らない女の子。
「あんた名前何て言うん?」
「―御幸。」
御幸は下を向いて言った。
「長い髪。憧れるわぁ」
この頃の御幸の髪の毛は長くいわゆるロングヘアー。
前髪は長く目にかかっている。
「――ありがとう」
満更でもなかった。
はじめていわれた。
かわいいって。
「うちは海って言うんよ。これから友達よろしくね」
「うんっ。」
戸惑いはあったもののはじめての友達に心が踊った。
これが「愛」なのだと。

海との学校生活が始まった。
肩で切り揃えた彼女の髪は彼女の性格にぴったりだった。
いつでもかっこよくて。
でも好きな人には甘えん坊。
だいすきな人だった。

ある日海の席で話していた。
海の見える教室。
そこでいろんなことを海から教えてもらった。
アザレアの花の花言葉。
海の話。
ハナミズキの花言葉。
大好きな先生のはなし。
そして大好きな男の子の話。

海の見える町。
中学校から4つ先の駅から海の方へ歩く。
しばらく歩くとカニと猿の石像がある。
そこを左に行く。
すると不思議なことにだれにも知られていない崖がある。下を見ると海。後ろを振り向くと森。
そこで「流星」とタイムカプセルを埋めた。

その話をするときはいつも幸せそうで。
でもどこか寂しそうだった。



そしてあの日。

海が死んだ。

怪物に殺された。

初めてだった。
この世界で一番醜いのは人間だと思っていた。
でも私の大切を奪ったのは怪物だった。
今思えば私を地獄から救ったのは人間の海だった。

それでも一番醜いのは。
海が怪物に殺されて愛奪還組がきて救われたくせに
「あいつが死んでよかった。」
「俺の変わりになってくれてありがとう。」
「最後に正義ぶるんだぁ。」
なんて言ったあいつらだ。
そして何もできず見ていたこの「私」だ。


ねぇ。海。
私に愛をありがとう。
私はあなたに愛されて幸せだった。
でもね。私にはその愛は重くて眩しすぎたみたい。
背負いきれないの。
海。どうして私を愛したの?
今の私は。
あなたに愛されて苦しい。

ねぇ。海。
貴方にもらった愛は無駄にはしないよ。

でもいつかだれかに愛を受け継いで。
私が軽くなるように。
ごめん。ごめんなさい。海。

海の愛を素直を抱き締められなくてごめん。
私は。正面から貴方の愛を見つめられなかった。

私は。
海と同じようにだれかを救って愛を与えて。

いつか。愛を捨てられるように。

そしていつか。軽くなった胸を張って世界をみてみたい。

それまでどうか許して。

満開のアザレアが泣くように、花弁を散らした。



「私は愛奪還組にいく」

涙をはらんだ目を光示先生が丸くした。
「どうして?御幸さん」
「私は借りを返したいんです」
「何に対しての?」
「――海にもらった暖かい感情への」
「――どうしてもというのなら止めはしないよ。
でも海のことだから心配するだろうね。それでも自分の正義を突き通して生きるというのなら
行ってらっしゃい」

海が恋したのもわかる優しい人だ。
でも私は。

「はい。いってきます。」

海の為に死ねなかったこの先生に暖かい目を向けることはできなかった。

先生の左の薬指に付けられた新品の指輪が目に入る。
あぁ。それは先生。
海に嘘をついていたと言うこと?
彼女はいないっていってたのに。

あの日学校を休んだのは式を挙げていたの?

あぁ。海は。いや私はこの人の幸せを許すことはできるのだろうか。




愛奪還組。

思っていたよりも子供が多かった。

私は17歳。もう戦いにでる。
その愛奪還組のエース。春来がいた。

19歳。お酒をガブガブ飲むが銃の腕前はぴかいち。

私は戦ったことなどない。
でも私には力があった。

死んだ人間が見えるのだ。
そしてその人間の声が聴こえる。
私の声は届かないけど。
文通ならできる。
声が届かないのがやけにリアルで嫌みったらしい。
海が死んでから海を探したけど見つからなかった。
叫んでも届かないから。

その力を使い、死んだ愛奪還組の隊員に格闘技を教わった。
愛奪還組の隊員たちはここでしか愛を知らない。
だから大抵の隊員はここに残っているのだ。

私は毒と格闘技を巧みに使いたくさんの怪物を殺した。人間に形がにている怪物には負ける気がしない。
今なら海を守れたのに。
後悔は募るばかりだ。


私が入隊して半年がたった。

リリーという少女が入隊してきた。

人間離れした美しさを放った少女でどこか警戒している。人間とは馴れ合うつもりがない。というようだ。
どうやら14歳。まだまだ子供だった。
でも隣でリリーの手にそっと触れる男の幽霊がいた。
「頑張れよ」
そうとだけ言って心配そうな目を閉じら去っていった。
それだけで私にとってリリーは信頼できる人間になった。
少し関西弁がでていて懐かしく感じた。
想像とは違い、バズーカを片手に大剣を持ち戦う。
初めて見たときは「えぇ。」と声がでた。

そしてまた半年後の春。
春来先輩が20歳。
私が18歳。
リリーが15歳になった頃。
16歳の男の子。晴流也がやってきた。

晴流也はどうかヤンキーっぽかった。
「晴れちゃん」
と呼ぶと。
「あ?俺は晴流也だ。」
でもどこか悪くなれきれていないところが可愛くて
仕方がなかった。
しばらくすると気があったようでリリーといつも一緒にいた。
羨ましく思いつつ見つめていると春来先輩に頭を小突かれる。小突かれるとはいっても馬鹿力の先輩だ。
すごくいたい。
晴流也は意外と科学で勝負する。
爆弾などの科学現象をおこし短剣でうまく戦う。
さすがっ!とからかうとすごく可愛い反応をする。
頬をかきながら耳を赤く染めるのだ。
可愛い。


でも。海の匂いが鼻を掠める度にあの頃の記憶がよみがえる。
海が笑ったあの声を目を口を動きを香りを。
おかしいものだとは思いつつ。


ねぇ。海。
私は愛すべき人を見つけたよ。
私がこの人たちを愛する姿を見ていてよ。

ごめんね。
海の愛から逃げるために愛を捨てるために愛させて。
そしていつか軽い身体になったら空を飛んで海に
逢わせて。


海の匂いが鼻を掠める。
まだまだ背中が重い。
いつかだれかを愛せたのならこの背中は軽くなるのだろうか。


ずっと抗い続ける。
戦い続ける。

それがだれかを愛すことになるのなら。


「海。いつか会いに行くからね。」

いつしか御幸の大切は「海」だけになっていた。
何を捨てても。自分を失っても。
海に会いに行く。

御幸の友情が執着に変わっていく。

会いに行けるのなら。それでいい。




「私の本当の愛は海だけでいい。」

それが、だれかに嘘をつくことになろうとも。


海風が短くなった御幸の髪を優しく撫でた。




4/18/2026, 1:41:56 PM

「桜流し」

ちぃちゃん。せいちゃん。そして僕。
僕らはずぅっと仲良しだよ。


桜の花が晴れた空を飾る頃。
とある公園で小さな子供が楽しそうに笑っていた。
3人の子供の横にはお父さんとお母さん。
恐らく一つの家族がお花見をしているのだろう。

少女の声が響く。
「晴流也!タッチ!」
「あっ…――う..うえーん」
晴流也と呼ばれた少年が泣いた。
「おいおい。こんなんで普通泣くかよ。」
晴流也と呼ばれた少年を馬鹿にするような他の少年の声がした。
「――ちぃちゃんも。せいちゃんも、もう嫌い!!」
晴流也が言った。
「「――は?」」
2人の声が重なった。
その瞬間2人の子供が晴流也にかけよった。
「ご…ごめんね」
少女と少年が申し訳なさそうに言った。
「――」
しばらく沈黙が続いた。
「――で?本当は?」
晴流也ではない少年が言った。
「――。嘘…。ちぃちゃんもせいちゃんも――大好き。」
晴流也が言った。
すると申し訳なさそうにしてたのが嘘のように2人の顔がいたずらっ子のようになった。
「ふーん」
照れたような少年と少女。

そのようすを少し離れた場所で両親がみていた。
「ふふっ。本当にかわいいわね。私たちの子たち」
「そうだね。ママ。」
「ね。パパ」 
おしどり夫婦とはこのことだ。


とある小さな町の仲良し家族。桜坂家。
2人のおしどり夫婦と。
長男の晴佳(せいか)
長女の千晴(ちはる)
次男の晴流也(はれるや)
仲良しの五人家族。
町では顔が知れ渡っている。



ある日。
桜が空と大地を埋め尽くす頃小学校が始まった。
晴流也は入学。
千晴は2年生。
晴佳は3年生。
はじめての学校は晴流也にとって少し怖いもので、
玄関の前で体よりも大きく見えるランドセルを背負い
泣き出していた。
「晴流也。学校いかないの?」
お母さんが言った。
「――。だって学校誰もいないもん。」
泣き声混じりに言った。
お母さんはすっかり困ってしまった。
すると家の中から千晴と晴佳がランドセルを背負いやってきた。
「晴流也。行くぞ。」
「せいちゃん?」
「晴流也。相変わらず遅いなぁ。遅刻しちゃうよー」
「ちぃちゃん?」
「晴流也。んっ」
晴佳が小さな手を差し出した。
「うんっ」
晴流也が手を握った。
「ずるいっ。私も!」さ
千晴が晴佳のもう片方の手を握った。
「もう仕方ねぇなぁ。晴流也。千晴行くぞ。」
「うんっ」

そんな日常が続いた。


晴流也が中学3年生になったある春。
両親が死んだ。
「怪物」
この世界に蔓延る生き物。
人間離れした容姿で生き物を殺してまわる。
そんな怪物に両親は殺された。

両親が死んだ日。
空に浮かんだ月を見つめながら。
2人が家に帰ってこないと3人で話していた。
すると手紙が届いた。
『桜坂ご夫妻。死亡。』
少し大きく書かれた文字は僕らの目を釘付けにした。
「は?」
3人の声が重なった。
死亡。と書いた文のしたには
『怪物による襲撃により。男性頭を潰され即死。
女性足を切られ出血多量で死亡。
ご子息が望むのならば「愛奪還組」に入隊可能。
入隊希望の際は市役所にてご連絡をお入れください』

冷たい文だった。

それでも僕らの心を冷たく叩くのにはちょうどよかった。

沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは――千晴だった。

「私。愛奪還組に入隊したい。」
「――なに行ってんだ。お前。」
「だってこのまま怪物に大切なものを奪われるのはや。泣き寝入りなんてしたくないっ!」
「――ちぃちゃん。」
千晴と晴流也の目には涙が浮かんだ。
「なぁ千晴。」
優しく子をなだめるような声で晴佳が言った。
「お前は俺が死んでもいいか?」
「な、なに?急に」
晴佳は千晴の目をじっとみた。
千晴は目をそらして言った。
「そりゃ。――やだよ。」 
「そうか。なぁ千晴。俺もお前と同じだ。」
「っ――」
千晴は幼い子供のように涙を目一杯にためた。
「千晴。頼む。危険なことはするな。 な?」
「――うん。せいちゃんも晴流也も、ごめん。」
千晴が「ごめん。」といった瞬間。
僕ら3人は一気に安堵した。
そして、両親が死んだという事実に肩を揺らし、肩を並べて泣きじゃくった。
この瞬間だけは僕らは小さかったあの頃に戻った気がした。


「ねぇ。晴流也。」
「どーしたの?ちぃちゃん。」
何週間かたった日の昼。その日は土曜日で、学校が休みだった。
晴佳はバスケ部で練習に行っているため、今日は2人きりだ。
「晴流也はせいちゃんのこと好き?」
「ん?だいすきだよ。」
「へへ私も。――ねぇ。
私と晴流也、せいちゃんはずぅっと仲良しだよね。」
「そうだね。せいちゃんとちぃちゃん。そして僕。
僕らはずぅっと仲良しだよ。」
「へへ。ありがとっ」
「――?なにが?」
「別にー?」

今思えばこの日の千晴は怖かったんだろう。
親が死んで、一人になってしまうとなってしまうと思ったのだろう。
大丈夫だよ。僕らは一人じゃないよ。
僕ら3人はその事実を確めあいたかったんだ。



僕が高校1年生になった春の日。
桜が雨に濡れていた。
大雨が桜を打ち、華やかさを奪っていく。
どこか桜が泣いているようだった。


午後五時頃。
手紙が届いた。
冷えた空気に身を震わせながら震えた手でポストから手紙を取り出した。
数年前のあの日のように桜が咲いていた。

あぁ。嫌な予感は当たるらしい。
手紙を封筒から取り出すとあの日の記憶と。
――千晴との記憶を思い出した。


『桜坂千晴。死亡。』


「な、なんで。」
「晴流也?どうしたんだ?」
「せいちゃん。ちぃちゃんが…」
「――は?」

死亡の文字のしたには文章が添えられていた。
『怪物による襲撃により。桜坂千晴死亡。
多数の攻撃により身体は一部のみ回収。その為遺骨の受け取りは困難である。家族の死亡のため「愛奪還組」――』

あの日のような冷たい文章。

まだちぃちゃんは17歳だ。
まだまだこれからなのに。
なにより。
ずぅっと一緒だって言ったのに。
どうして。

「――千晴?」
晴佳が言った。
「――ちぃちゃん?」

僕らは一体なんのために生きてきたんだ。
3人で笑えるようになんとか生きてきたんだ。
なのになんでみんな―死んじゃうの?
なんで――。

「――也。――晴流也!」
晴佳の声で我に帰った。
「――せいちゃん?」
「大丈夫か?」
「う、うん。」
「本当か?」
「――。」
「――晴流也。大丈夫だ。大丈夫。俺がいる。」
その時僕の目から大きな雨粒が落ちていった。
海が目の前に広がっては消えて。
そしてまたできた。
そしてようやく気がついたんだ。
せいちゃんの目から涙が溢れていることに。


「――せいちゃん。」
「――晴流也。」
「僕ら3人は――ずぅっと仲良しだよね。」
「あぁ。俺らはずっと――」
その時のことだった。

ドンっ!!

鈍い音が家の中に響いた。

「な、なに?」

僕らが困惑していると衝撃に耐えられなかったのだろう。
僕らの家が半分潰れてしまったのだ。
下半分が。とかではない。
綺麗に家が縦に半分分かれたのだ。
僕らは運良く潰れていないもう片方にいたため助かった。潰れた方にいたらと思うと頭が恐怖で埋まった。

「あれ?ここにも人間がいるなぁ。」

そう言って現れたのは人間、魚、牛、虫を混ぜたようなあべこべな容姿の『怪物』

「――せいちゃん。あれ怪物だよ。」
「――あぁ。」

怪物が虫を払うように手を振ったとき。
手の延長線上にあった建物が綺麗に切れて崩壊した。

「さぁてと。どっちから殺そうか。


怪物の手が僕の方へ向いた。
ゆったりとした動作でいつもなら逃げられたかもしれない。でも無理だった。
心が追い付かないかった。
頭を恐怖が支配する。
チラリとせいちゃんの方をみる。
唇を強く噛み締めている。足は震え、歯はわずかに擦れあい、汗が首筋を伝う。

あぁ。そうか。僕らは死ぬのか。

目の前が真っ暗になった。

でも叶うことなら。せいちゃんだけでも生きられますように。

怪物が手を降った。
僕は目をそっと閉じた。


でもいくら待っても、死はこなかった。

目を開ける。そこには

「――せいちゃん?」

せいちゃんが立っていた。

「――」
せいちゃんが床に力なく倒れる。

晴流也は霞んだ目を見開き、そばによる。

「――せいちゃん。せいちゃんっ」

怪物が独り言のように囁いた。
「は?庇った?なんで?なんで?あぁ。そうか。そうなのか。愛しているからか。そうなんだろう?
愛とは殺す以外にもあるのか?」

そういって怪物は町の外へ消えていった。


「――せいちゃん。」
「――。晴流也?」
せいちゃんの腹には大きな切り傷があった。
もう。助からないだろう。


「せいちゃん。せいちゃんっ!」
「晴流也。」
「せいちゃんっ。」
「晴流也っ!聞いてくれ。」
「っ――。」
「なぁ。晴流也。千晴と俺は先に母さんたちに会いに行くよ。
晴流也の世界はいつか。いつかきっと晴れるから。
どうか。どうにか。
前を向いて。
胸を張って。
醜くてもいい。ダサくたっていいさ。
…笑ってくれ。  な?」
「せいちゃん…」

せいちゃんが「な?」というときは相手を子供扱いしてるとき。なだめるように優しく言い聞かせるとき。
ずっと、ずっと変わらない。

「――せいちゃんは変わらないなぁ。」

「ふんっ。ぬかせ。 格好いい男になれよ。」

「うん。もちろん」

僕は笑った。雨と涙でぐちゃぐちゃになりながら。

せいちゃんの目が安心したようにそっと閉じられ開かなくなるまで。





「すみません。桜坂晴流也と申します。愛奪還組に
入隊したいのですが。」
『桜坂さんですね。お送りする住所にてお待ちしております。』


ねぇ。ちぃちゃん。せいちゃん。
僕は。いや「俺」は格好いい男になるから。
見ててよ。
笑って生きてみせるから。


そしていつか。そっちに行くから。

待っててね。

次みんなに逢えるときまで俺は強くあるから。

でもねせいちゃん。
僕にとっての「格好いい」はせいちゃんだから。
愛奪還組に入隊してせいちゃんみたいに格好つけさせて。


そしてこれから出会う人たちと。
俺の家族が笑えるように。

「俺とみんなの世界が晴れるといいなぁ」









4/2/2026, 5:20:25 AM

「泥にまみれた指輪」



「流星。ごめん。私多分。」

「怪物の子ーや」

リリーは走った。
海に沈んでいく世界を繰り返し見ながら。
海の欠片を空へ投げたした。


リリーは足を止めた。
ここが避難所?
リリーは大きな建物のなかに足を踏み込んだ。
『ふんぞり返っとる偉そうな人』
流星が言っていた特徴の人間を探す。
見当たらない。
だからそこら辺にいる男の人に声をかけた。
「なぁ。お兄さん。愛奪還組って知っとる?」
「あ?どうしたんだ。」
「愛奪還組。」
「愛奪還組か。そうだな。愛奪還組っつーのは
身内が怪物に殺された子供が集まる場所だな。
確か14歳から戦場に立つんだってな。
本当に政府はなに考えてるだろうな。
14っつたらまだまだガキじゃねぇか。」
「そう。お兄さんありがと。」
「あぁ。気を付けろよー」

リリーは歩いた。
お兄さんから聞いた情報。そのなかでも14歳からしか
戦えない。
私はきっと――だからすぐに戦場には立てそうだ。
でもこの格好じゃ駄目か。
その時アナウンスが流れた。
『愛奪還組によって怪物が討伐されました。
ですがまだまだ警戒体制のため避難所での待機をお願いします。』 
流星。生きてる?
いや。きっともう――
だって流星は私を愛奪還組に行かせようとした。
きっと生きてても私を生涯孤独にするために。
私のために―自害するだろう。


リリーは避難所の裏口に足を向けた。
ここなら誰もいない。
避難所の外は危険かもしれない。
でも。それでも。
リリーは流星とリリーの家へ足を走らせた。
ここでは小さな体が役に立った。
誰にもバレずに帰ることができたのだから。
最中。流星と別れた道を通った。
確かにあった死体は全て回収されていてなにもなかったように見える。
「――流星。どこにおるん?」
もういないとは分かっていた。
でも。縋らずにはいられなかった。
流星がいるという未来を。


リリーは家に着いた。
部屋に入り流星の適当な服を一着とった。
リリーは流星の買ってくれた白色のワンピースを脱ぎ、あと1つ。首についているネックレスをとった。
おもちゃの指輪が寂しそうに着いたネックレス。
床にやさしくおいた。
その瞬間リリーの身体が紫色の泥のようなものに変わった。
そして瞬く間に14歳と言えるような体格に変わった。
「ほらな。――やっぱ私は。怪物や」
声すら少し大人びて聞こえる。
リリーは流星の服を着た。
ネックレスは首にかけて服のなかに隠した。
ワンピースを抱えてアパートの前にいった。
リリーは穴を掘る。
ある程度の穴があいたらそこにワンピースを埋めた。



「リリー。これでどうや?」
「流星。あんたセンスええやん。」
流星がピンクの宝石が着いたおもちゃの指輪を手に乗せて見せてきた。
「まぁ。安いけどな。」
「あほ。私らにとっては高級品やろ。」
少し幼げなリリーの声だ。
「じゃあ。流星はこれな。」
青色の宝石の着いたおもちゃの指輪を手に乗せる。
「そちらもセンスええやんけ。」
「へへ。やろ。」

家の近くのお店。
おもちゃ屋でお揃いの指輪を買った。
でも子供用で流星の指にはめることはできなかった。
だから2人は100均でネックレスを買いそこに着けて
お互いの首につけた。

「なぁリリー。いつかは宝石がいっぱいついた指輪買ったるからな。」
「――ほんまに?」
「あぁ。約束や。」

この約束は果たされることがなかったけど。
リリーの心にはずっと残っている。



リリーは避難所までの道のりを一人で歩いた。
リリーは思い出していた。
あの日の。初めてこの世界に降り立った日を。
怪物の星の事を。


リリーには名前がなかった。
いや。怪物は名前を持たなかった。
地球とは遠くはなれた星。
遠目からみると紫一色の星。
そこには地面を埋め尽くすほど多くのの紫色の泥のようなものがいた。
そんな星にある日、1機の宇宙船が着陸した。
着陸する際に3体ほどの泥は潰れて消えた。
それでも泥たちは何も感じない。
その宇宙船からは、
一人の男と一人の女がでてきた。
男は泥にふれる。
すると装備ごと指が溶けた。
人間と泥は相性が悪かったのだろう。
すると男は女を宇宙船に押し込んだ。
そしてこう言うのだ。
「俺はもう手遅れだ。お前だけでも家に帰ってくれ。
家族を頼んだぞ。」
「貴方。貴方。嫌よっ。」
「すまない。俺の足も、もう。」
男の足は泥に埋まり少しずつ溶けていく。
「じゃあな。あんまり早くこっちに来るんじゃないぞ。――愛している。」
男はそういって扉を閉めた。
男の目にも女の目にも水が浮かんで見えた。
男はそのまま溶けていき消えてしまった。

そこで泥は考えた。
「あれは。なんだ?」
泥は「愛」が分からなかった。
だから、愛を知ろうと考えた。
泥は地球へと宇宙を飛び、着陸した。

ある泥は魚に出会う。
大きな魚が小さな魚を補食する。
そして泥は思う。
「これは愛」

ある泥は人間に出会う。し
一般の家庭。
肉を食べ「このお肉大好き!!」
これも愛。

ある泥は虫に出会う。
角を大きく使い、相手を吹き飛ばす。
これも愛。

ある泥は2人の男女に出会う。
男が女を叩いた。
男は笑う。女も微かに愛されていると笑う。
これも愛。

ある泥は2人の女に出会う。
「誰も許してくれないなら。」
部屋の窓を全てしめ、煙をたく。
手を繋ぎあって動かなくなった。
これも愛。


そして泥は姿を変えた、魚、鳥、人間、虫。
全てが混ざりあい、不気味な容姿になる。
泥が怪物になっていく。
そして愛そうとするのだ。生き物を。
殺すこと。食べること。叩くこと。共に死ぬこと。
全てが「愛」なのだ。

愛するとはこのことなのだ。



そうして怪物は人を殺し、食らうようになった。
 愛するために。
しかしだんだん怪物は討伐対象へとなっていく。
「愛奪還組」に生きて確保された個体は研究施設に閉じ込められた。
研究施設ではたくさんの怪物が謎の液体のはいった入れ物に密封される。

今回も新しい個体が送られてきた。
泥の状態のままだった。
そして泥が密封される前に泥は自らの一部を剥ぎ、
逃がした。
怪物には愛がない。
その為夫婦となり、子を孕むという考えがない。
子供というものは、先程のように産み落とされる。
その子供には母体の記憶が受け継がれる。

そしてその子供というのがリリーだった。

リリーは研究施設の端で母体をみていた。
母体は「Lyly37」とかかれた容器にいれられる。
数字は恐らく確保している怪物の数。
「Lyly」というのは怪物全体の名称。
正しくはライライと呼ぶらしい。

母体の入った容器の前で研究者らしき人と助手が話していた。
「葉落様。研究結果が出ました。」
「花咲くんか。遂にでたか。聞こう。」
――
「そうか。もっと研究対象がいる。愛奪還組をもっと大きな組織にするのだ。」

名前。それは愛なの?
「Lyly」という文字をリリーはこう読んだ。
「りりー?」
そうしてリリーは「リリー」と名乗るようになった。

どうして忘れていたんだろう。

怪物としての記憶は流星と暮らすために必要ないと切り捨てたのだろうか。



そして現在に巻き戻る。

リリーは避難所についた。

そこには愛奪還組のような人が集まっていた。
怖い。もしかしたら討伐されてしまうかもしれない。
でも流星がくれた夢だから。
「ねぇお姉さんたち。私。家族が死んじゃった」
泣き声混じりに言った。
愛奪還組のお姉さんは心配そうにリリーをみていた。

そうしてリリーは愛奪還組につれられ、愛奪還組の
拠点へと行くことができたのだ。

「リリー隊員」
「はいっ」
リリーは愛奪還組の待機所にて初戦に向けた準備をしていた。
『上谷隊長』が声をかけてきた。
「リリー隊員が言っていた「流星」くんの特徴と当てはまる男の子が先日の戦いで回収された死体のなかに
いた。」
「――」
あぁ。やっぱり。リリーは唇を噛み締める。
「流星くんが死後。死体になっても必死に握りしめていたものがあってな。」
上谷隊長がハンカチに包まれたなにかを私に差し出した。
「これは。」
「開いてみるといい。」
そこにはあの日。お揃いで買った青色の宝石のついたおもちゃの指輪のネックレスが寂しそうに包まれていた。
「流星くんの持ち物で違いないか?」
「――。これは」
リリの目には涙がたまった。
リリーは震える手で服のなかからピンクの宝石が着いたおもちゃの指輪を取り出した。
「――はい。むかし流星とお揃いで買ったものです」
「――そうか。 それは流星くんとお前のものだ。
すきにするといい。」
「――ほんまに。ありがとうございます。」
上谷隊長はリリーの肩をやさしく二度叩き歩いていった。
リリーは涙が止まらなかった。


リリーの涙が枯れ果てたとき。
リリーは流星のネックレスを首からかけた。
二つのネックレスは少し窮屈そうに見える。
でもあの頃のリリーと流星のように。狭い部屋。くっつきあって。満たされているように見える。

ネックレスを服のなかにしまった。
リリーの目には迷いなんてなかった。

愛を知りたい。
愛を知って流星を愛したい。
私は流星に愛されていると胸を張って言いたい。
もしそれが。同族殺しで。
自分を偽ることになっても。



「あんたが笑ってくれるならそれで。」

3/31/2026, 3:55:12 PM

「記憶の蓋」



「流星。ごめんね――」

「母さん?」



一人の高校3年生のように見える男の子が東京の町をあるいた。
ゴミが溢れた町。
昔はそうではなかったそうだが今となってはゴミがそこらじゅうに溢れている。
男の子はゴミを蹴り飛ばしながら歩いた。
真っ黒な髪の毛。少し長めの襟足。でも横の髪は耳の上にかかるように派手なピンでとめている。
目は少し青みがかっている。背は高く、180cmといったところか。
彼は流星。親のいない一人きりの男の子。
彼は兵庫県で産まれ育ち、親が小学2年生でいなくなってからも兵庫県で暮らした。
一人きりになってからも暮らせたのは母親同士が仲が良くいつも一緒にいた女の子とその家族が流星を受け入れてくれたからだろう。
しかし、女の子の親が二人とも死んでから流星は姿を消した。
女の子を支えなければと思いつつ、枷になりたくないと東京に逃げ出した。
遂に一人になった。


小学2年生のころ。
親がいなくなった。
黒髪が綺麗な母親と、白髪の外人で、青い瞳の父親。
父親は流星の髪が黒髪だったことで母が浮気したと思い込消滅。
母親は父親に一人にされた悲しみに明け暮れ、流星に
「流星。ごめんね。」とだけ残し、どこかへいってしまった。真っ黒な髪の毛も青みがかっ瞳も二人の血を継いでいるとわかるだろうに。
今思えば「流星」という名前も、流れ星のように消えていくことを意味込めたのかもしれない。

東京で一人。泣く夜はある程度大きくなるとぷっつりと消えてしまった。



とある日流星は長い白髪をした女の子に出会う。
女の子の齢はおそらく6歳ほど。小学1年生ぐらいだ。

女の子は言った。
「お兄さんもひとりだね」

女の子は白い髪を靡かせた。
黒い目。人間離れした美しさ。
人影のない裏路地から怪しげにでてきた。

「お前。なんや?迷子か?」
「違う。迷子じゃない。」
「じゃあ。なんや?」
「…リリー」
「リリー言うんか。かわいい名前やな。」
「お兄さんは?」
「流星。」
「流星ね。ねぇ流星。ここどこ?」
「生意気な子供やな。てか結局迷子かよ」
「迷子ってなに。私はリリー」
「名前ちゃうて。もぉーなんや親は?」
「いない。」
「あぁ?…孤児か?最近多いしなぁ」
「親なんていない。欲しくもない。」
「とんだマセガキやな。家出か孤児か…
うーん。まぁいっか」
「だからリリーだってっ」
「はいはい。分かっとるよ。…リリー俺とくるか?」
「…ふんっもとからそのつもり。」
「なんやこいつ。まぁええか。」


二人は流星の住むぼろアパートに暮らすことになった。
「流星っ。今日燃えるゴミの日やろ」
「あぁ。忘れとった。出してくるから机拭いとってー」
「はーい」
二人で暮らし初めて一年がたった。
二人の共同生活もだいぶなれてきた。
リリーは幼いこともあってか、だいぶ関西の言葉を話すようになった。
流星の言葉が見事に移ったのだ。


「なぁリリー。お前は結局何者なんや。」
「なに流星。」
「だってお前。この一年親ずっと来おへんやん。
でも名前はある。なんやこれ。なんか知らんけど他にも矛盾がぎょうさんある。」
「…。リリーだってしらん。」
「親は?」
「だから。知らへん。」
リリーは自分の服を握りしめた。
流星が少ないお金をはたいてかった、白色のワンピース。
「…名前はなんや」
「自分でつけた。」
「そーか。」
「――流星。リリーはな愛されたかったんや。」
「…は?」
「リリーはこの世界で産まれた。気付いたら喋れたし、体もあった。でもこの世界のことなんもしらんかった。親もなにもかも。でもこれだけは分かってた。リリーは「愛」を知るためにこの世界に来たって。」
「…な、なんやそんな。宇宙人みたいなこと。」
「リリーは愛されてない。」
「は?」
「リリーは愛がわからん。だから愛されてるかなんてわからん。だからリリーの目標なんて、夢なんて叶うはずない。」
「なに言っとんの?リリー。お前のことは俺が愛して―――」
流星の言葉は糸が切れたようにプツンと消えた。
流星は疑問に思ってしまったのだ、自分は愛されてたか?親には捨てられた。本当の「愛」なんて知らない。
「なぁ流星。「あい」ってなんなん?」
流星の綺麗な瞳が揺れた。
「愛」ってなんなんだ?

「――リリー。もう夜の9時や。早う寝よう。」
「流星?話はまだ終わって――」
「リリー。な?」
流星の痛々しく笑った顔はリリーの心に深く刺さった。

リリーが傷つけちゃったん?

小さくなった流星の背を眺めることしか、できなかった。




「流星ー。なに寝ぼけとんの?」
「――なんや?」
流星は目を見開いた。そこには初恋の女の子。
『海』がいた。
「海?なんでここに」
「流星。なんか私。死んだらしいわ」
「は?」
「なに言っとんの?」
「我ながら格好いい死にかたやったわ。」
「じゃあなんでここに。」
「それこそ。死んだからやな。あんたの夢に化けてでてきてやったわ。」
「…。ほんまなん?海。」
「…こんなしょうもない嘘つかんて。」

沈黙が流れた。

「――なぁ海。「あい」ってなんなん?」
「――へぇ。あのマセガキが愛とか語るようになったんやな」
「ちゃうでっ。…ただわからんくなってん。
今一緒に暮らしとるリリー。女の子がおるんや。
その子に愛ってなに?って聞かれてなんも答えられんかった。」
「――へぇ」
「なぁ。海。俺は愛されとったんか?」
「少くとも。あんたの家族はあんたのこと愛しとった。」
「へ?」
「覚えてへんの?あんたがまだ僕って言ってたとき、
おばさんもおじさんもよく話とった。うちの流星はかわいいなぁ。って」
「母さんも父さんもそんなこと言っとったん。」
「うん。言っとった。」
「俺のこと嫌ってなかったん」
「うん。大好きやった。」
「俺の名前は。」
「誰かの夢を叶えられるような格好いい男になれって。意味だって」
「流れ星みたいにいなくなっちゃったんだ。俺を一人と裏切って。母さんも、父さんも。」
「ちゃう。流れ星みたいに希望を与えてって。」
「父さんは。」
「あんたの父さんは、工事現場での事故死。
最後まであんたら家族との生活を愛しとった。」
海は涙をためる。
「母さんも消えた。」
「だからちゃう。あんたの母さんは病気やった。入院してそのまま亡くなった」
海は涙をため、流し言った。
「あんたが愛されたいって言うのはどうでもいい。
でも愛されてなかったって言うのはちゃう。
あんたの家族はあんたを愛してた。
その愛をなかったことにすんなっ」
海は目を赤くして言った。
あんなに海が泣いているのは海の家族が亡くなってかみたことがない。
いや。ちがう。
俺が海から逃げたんや。

愛されていたのに気付いてへんかった。

愛したかったのに逃げてしまった。

俺の中の「愛」はずっと使ってへんかったから、
錆びてしまったんや。

俺はリリーを愛そうとしとる。
でもまだまだ不器用や。

きっと俺もリリーも愛が苦手やから分からんふりしとるんや。

どうしたらリリーは「愛」を知れるやろか。

やっぱり一番は。


「海。ありがと。それとごめんな。」
「流星。私こそ。でも今会えてよかった。」
「うん。」
「流星。愛してんで。」
「海。――またな。」
「――…。…はぁ困ったやつやな。今さら止めても無駄なんやろ。」
「――」
「死ぬなとは言わん。…悔いのないようにな。」
「あぁ。」
「ふっ。ようやくあんたの母さんと父さんが愛した
息子の顔になったな。」
「うん。」
「リリーちゃん?やっけ。愛してやってよ。」
「もちろん。――海。愛してんで。」
「――残念。私、あんたがおらんくなってから好きな人できちゃった。」
「はぁ?誰や。」
「…先生。」
「はぁ?顔赤くすんなやっ」
「赤くないっ照れてへんしっ」
「くっそ。…天国で惚れ直させたる。」
「ふふ。楽しみにしてんで。」



そこで目が覚めた。
隣でリリーが寝息をたてて寝ている。
あぁ。愛らしい。
これが愛か。

その時。大きなサイレンが鳴り響いた。
『怪物発生。怪物発生。緊急避難警報。
近くの頑丈な建物に隠れてください。
繰り返します――』

「は?頑丈な建物ってなんやねん。そんなに間に合わんやろ。」
「流星?どうしたん。」
「リリー。――。よし。逃げんで。」
「は?なにからよ」
「怪物。」
「怪物?」
「とにかく早う靴履け。」
「流星は?」
「包丁だけ持ってく。」
「わかった。」


2人で手を繋いで走る。
右手にリリーの手。左手に包丁をもった。
100mほど後ろには他にもたくさんの住民が走っている。
その50mほど後ろを人間離れした容姿の怪物が走っている。
圧倒的速さ。ここまで来るのも時間の問題だ。
「キャー」
遂に一人目が殺された。
そしてまた一人と。
リリーはもう走るのも限界そうだ。
流星は包丁を強く握った。
走りながら流星は言った。
「リリー。「愛奪還組」ってしっとるか。」
「な、なに。こんなときに」
「愛奪還組ってのは愛をなくした子供たちが愛を取り返す場所らしい。リリー。そこに行ってみいへん?」
「はぁ?――。そこで「愛」がしれるん?」
「恐らくやけどな。リリーがもし行きたかったら。よく聞いてや。このまま走り続ければ避難所につく。
そこでふんぞり返っとる偉そうな人に言うんや、身内が怪物に殺されて生涯孤独やって。」
「は?それって」
「大丈夫や俺は死なん。」
「――」
「リリー。俺の名前はな人の夢を叶えられるような格好いい男になれって意味らしいんや。なぁリリー俺を格好いい男にさせてや」
「――」
「リリー。」
流星が足を止めた。
リリーは振り返る。
流星は笑った痛々しく笑った。
でも前と同じような後悔や張り裂けるような痛みは
流星から感じなかった。
「流星は。いつまでたっても格好つかんなぁ。」
リリーは涙を浮かべた。
今まで泣いたことなんてなかったのに。
「リリー。」
「分かっとるよ。達者でな。流星」
そういってリリーは振り返り走っていった。
流星は背中が小さくなるまで見送った。
怪物の方をみる。
もう30mほどの距離しかない。
リリーが逃げきれるように、時間を稼ぐために。
「リリー。俺はリリーが幸せやったって人生を終えられるなら他になんもいらん。それだけリリーに救ってもらった。なぁリリー。生きろよ。」
流星は怪物に包丁を向けた。
「なぁリリー。ごめん。最後ぐらい笑ってリリーを送って、逝きたかった。
でも。そんなんむりそーやわ。――約束守れんでごめんな。」
視界が海に沈んだように歪んだ。

ほんまはもう少し長生きして直接リリーに「あい」を教えたかった。
きっと辛いもんやけど人間ちゅうもんは、
死ぬときが一番は愛を伝えられる。


絶え絶えになった苦しげな声が聞こえる。
体は熱く寒く。地面のアスファルトが顔に食い込むのを感じる。

リリーごめんな。
死なんって約束まもれそーにないわ。









リリーは走った。

涙を空に投げ出しながら。

リリーは1つの事を考えながら。

「流星。ごめん。私多分。」


「怪物の子ーや」








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