ゆじび

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4/2/2026, 5:20:25 AM

「泥にまみれた指輪」



「流星。ごめん。私多分。」

「怪物の子ーや」

リリーは走った。
海に沈んでいく世界を繰り返し見ながら。
海の欠片を空へ投げたした。


リリーは足を止めた。
ここが避難所?
リリーは大きな建物のなかに足を踏み込んだ。
『ふんぞり返っとる偉そうな人』
流星が言っていた特徴の人間を探す。
見当たらない。
だからそこら辺にいる男の人に声をかけた。
「なぁ。お兄さん。愛奪還組って知っとる?」
「あ?どうしたんだ。」
「愛奪還組。」
「愛奪還組か。そうだな。愛奪還組っつーのは
身内が怪物に殺された子供が集まる場所だな。
確か14歳から戦場に立つんだってな。
本当に政府はなに考えてるだろうな。
14っつたらまだまだガキじゃねぇか。」
「そう。お兄さんありがと。」
「あぁ。気を付けろよー」

リリーは歩いた。
お兄さんから聞いた情報。そのなかでも14歳からしか
戦えない。
私はきっと――だからすぐに戦場には立てそうだ。
でもこの格好じゃ駄目か。
その時アナウンスが流れた。
『愛奪還組によって怪物が討伐されました。
ですがまだまだ警戒体制のため避難所での待機をお願いします。』 
流星。生きてる?
いや。きっともう――
だって流星は私を愛奪還組に行かせようとした。
きっと生きてても私を生涯孤独にするために。
私のために―自害するだろう。


リリーは避難所の裏口に足を向けた。
ここなら誰もいない。
避難所の外は危険かもしれない。
でも。それでも。
リリーは流星とリリーの家へ足を走らせた。
ここでは小さな体が役に立った。
誰にもバレずに帰ることができたのだから。
最中。流星と別れた道を通った。
確かにあった死体は全て回収されていてなにもなかったように見える。
「――流星。どこにおるん?」
もういないとは分かっていた。
でも。縋らずにはいられなかった。
流星がいるという未来を。


リリーは家に着いた。
部屋に入り流星の適当な服を一着とった。
リリーは流星の買ってくれた白色のワンピースを脱ぎ、あと1つ。首についているネックレスをとった。
おもちゃの指輪が寂しそうに着いたネックレス。
床にやさしくおいた。
その瞬間リリーの身体が紫色の泥のようなものに変わった。
そして瞬く間に14歳と言えるような体格に変わった。
「ほらな。――やっぱ私は。怪物や」
声すら少し大人びて聞こえる。
リリーは流星の服を着た。
ネックレスは首にかけて服のなかに隠した。
ワンピースを抱えてアパートの前にいった。
リリーは穴を掘る。
ある程度の穴があいたらそこにワンピースを埋めた。



「リリー。これでどうや?」
「流星。あんたセンスええやん。」
流星がピンクの宝石が着いたおもちゃの指輪を手に乗せて見せてきた。
「まぁ。安いけどな。」
「あほ。私らにとっては高級品やろ。」
少し幼げなリリーの声だ。
「じゃあ。流星はこれな。」
青色の宝石の着いたおもちゃの指輪を手に乗せる。
「そちらもセンスええやんけ。」
「へへ。やろ。」

家の近くのお店。
おもちゃ屋でお揃いの指輪を買った。
でも子供用で流星の指にはめることはできなかった。
だから2人は100均でネックレスを買いそこに着けて
お互いの首につけた。

「なぁリリー。いつかは宝石がいっぱいついた指輪買ったるからな。」
「――ほんまに?」
「あぁ。約束や。」

この約束は果たされることがなかったけど。
リリーの心にはずっと残っている。



リリーは避難所までの道のりを一人で歩いた。
リリーは思い出していた。
あの日の。初めてこの世界に降り立った日を。
怪物の星の事を。


リリーには名前がなかった。
いや。怪物は名前を持たなかった。
地球とは遠くはなれた星。
遠目からみると紫一色の星。
そこには地面を埋め尽くすほど多くのの紫色の泥のようなものがいた。
そんな星にある日、1機の宇宙船が着陸した。
着陸する際に3体ほどの泥は潰れて消えた。
それでも泥たちは何も感じない。
その宇宙船からは、
一人の男と一人の女がでてきた。
男は泥にふれる。
すると装備ごと指が溶けた。
人間と泥は相性が悪かったのだろう。
すると男は女を宇宙船に押し込んだ。
そしてこう言うのだ。
「俺はもう手遅れだ。お前だけでも家に帰ってくれ。
家族を頼んだぞ。」
「貴方。貴方。嫌よっ。」
「すまない。俺の足も、もう。」
男の足は泥に埋まり少しずつ溶けていく。
「じゃあな。あんまり早くこっちに来るんじゃないぞ。――愛している。」
男はそういって扉を閉めた。
男の目にも女の目にも水が浮かんで見えた。
男はそのまま溶けていき消えてしまった。

そこで泥は考えた。
「あれは。なんだ?」
泥は「愛」が分からなかった。
だから、愛を知ろうと考えた。
泥は地球へと宇宙を飛び、着陸した。

ある泥は魚に出会う。
大きな魚が小さな魚を補食する。
そして泥は思う。
「これは愛」

ある泥は人間に出会う。し
一般の家庭。
肉を食べ「このお肉大好き!!」
これも愛。

ある泥は虫に出会う。
角を大きく使い、相手を吹き飛ばす。
これも愛。

ある泥は2人の男女に出会う。
男が女を叩いた。
男は笑う。女も微かに愛されていると笑う。
これも愛。

ある泥は2人の女に出会う。
「誰も許してくれないなら。」
部屋の窓を全てしめ、煙をたく。
手を繋ぎあって動かなくなった。
これも愛。


そして泥は姿を変えた、魚、鳥、人間、虫。
全てが混ざりあい、不気味な容姿になる。
泥が怪物になっていく。
そして愛そうとするのだ。生き物を。
殺すこと。食べること。叩くこと。共に死ぬこと。
全てが「愛」なのだ。

愛するとはこのことなのだ。



そうして怪物は人を殺し、食らうようになった。
 愛するために。
しかしだんだん怪物は討伐対象へとなっていく。
「愛奪還組」に生きて確保された個体は研究施設に閉じ込められた。
研究施設ではたくさんの怪物が謎の液体のはいった入れ物に密封される。

今回も新しい個体が送られてきた。
泥の状態のままだった。
そして泥が密封される前に泥は自らの一部を剥ぎ、
逃がした。
怪物には愛がない。
その為夫婦となり、子を孕むという考えがない。
子供というものは、先程のように産み落とされる。
その子供には母体の記憶が受け継がれる。

そしてその子供というのがリリーだった。

リリーは研究施設の端で母体をみていた。
母体は「Lyly37」とかかれた容器にいれられる。
数字は恐らく確保している怪物の数。
「Lyly」というのは怪物全体の名称。
正しくはライライと呼ぶらしい。

母体の入った容器の前で研究者らしき人と助手が話していた。
「葉落様。研究結果が出ました。」
「花咲くんか。遂にでたか。聞こう。」
――
「そうか。もっと研究対象がいる。愛奪還組をもっと大きな組織にするのだ。」

名前。それは愛なの?
「Lyly」という文字をリリーはこう読んだ。
「りりー?」
そうしてリリーは「リリー」と名乗るようになった。

どうして忘れていたんだろう。

怪物としての記憶は流星と暮らすために必要ないと切り捨てたのだろうか。



そして現在に巻き戻る。

リリーは避難所についた。

そこには愛奪還組のような人が集まっていた。
怖い。もしかしたら討伐されてしまうかもしれない。
でも流星がくれた夢だから。
「ねぇお姉さんたち。私。家族が死んじゃった」
泣き声混じりに言った。
愛奪還組のお姉さんは心配そうにリリーをみていた。

そうしてリリーは愛奪還組につれられ、愛奪還組の
拠点へと行くことができたのだ。

「リリー隊員」
「はいっ」
リリーは愛奪還組の待機所にて初戦に向けた準備をしていた。
『上谷隊長』が声をかけてきた。
「リリー隊員が言っていた「流星」くんの特徴と当てはまる男の子が先日の戦いで回収された死体のなかに
いた。」
「――」
あぁ。やっぱり。リリーは唇を噛み締める。
「流星くんが死後。死体になっても必死に握りしめていたものがあってな。」
上谷隊長がハンカチに包まれたなにかを私に差し出した。
「これは。」
「開いてみるといい。」
そこにはあの日。お揃いで買った青色の宝石のついたおもちゃの指輪のネックレスが寂しそうに包まれていた。
「流星くんの持ち物で違いないか?」
「――。これは」
リリの目には涙がたまった。
リリーは震える手で服のなかからピンクの宝石が着いたおもちゃの指輪を取り出した。
「――はい。むかし流星とお揃いで買ったものです」
「――そうか。 それは流星くんとお前のものだ。
すきにするといい。」
「――ほんまに。ありがとうございます。」
上谷隊長はリリーの肩をやさしく二度叩き歩いていった。
リリーは涙が止まらなかった。


リリーの涙が枯れ果てたとき。
リリーは流星のネックレスを首からかけた。
二つのネックレスは少し窮屈そうに見える。
でもあの頃のリリーと流星のように。狭い部屋。くっつきあって。満たされているように見える。

ネックレスを服のなかにしまった。
リリーの目には迷いなんてなかった。

愛を知りたい。
愛を知って流星を愛したい。
私は流星に愛されていると胸を張って言いたい。
もしそれが。同族殺しで。
自分を偽ることになっても。



「あんたが笑ってくれるならそれで。」

3/31/2026, 3:55:12 PM

「記憶の蓋」



「流星。ごめんね――」

「母さん?」



一人の高校3年生のように見える男の子が東京の町をあるいた。
ゴミが溢れた町。
昔はそうではなかったそうだが今となってはゴミがそこらじゅうに溢れている。
男の子はゴミを蹴り飛ばしながら歩いた。
真っ黒な髪の毛。少し長めの襟足。でも横の髪は耳の上にかかるように派手なピンでとめている。
目は少し青みがかっている。背は高く、180cmといったところか。
彼は流星。親のいない一人きりの男の子。
彼は兵庫県で産まれ育ち、親が小学2年生でいなくなってからも兵庫県で暮らした。
一人きりになってからも暮らせたのは母親同士が仲が良くいつも一緒にいた女の子とその家族が流星を受け入れてくれたからだろう。
しかし、女の子の親が二人とも死んでから流星は姿を消した。
女の子を支えなければと思いつつ、枷になりたくないと東京に逃げ出した。
遂に一人になった。


小学2年生のころ。
親がいなくなった。
黒髪が綺麗な母親と、白髪の外人で、青い瞳の父親。
父親は流星の髪が黒髪だったことで母が浮気したと思い込消滅。
母親は父親に一人にされた悲しみに明け暮れ、流星に
「流星。ごめんね。」とだけ残し、どこかへいってしまった。真っ黒な髪の毛も青みがかっ瞳も二人の血を継いでいるとわかるだろうに。
今思えば「流星」という名前も、流れ星のように消えていくことを意味込めたのかもしれない。

東京で一人。泣く夜はある程度大きくなるとぷっつりと消えてしまった。



とある日流星は長い白髪をした女の子に出会う。
女の子の齢はおそらく6歳ほど。小学1年生ぐらいだ。

女の子は言った。
「お兄さんもひとりだね」

女の子は白い髪を靡かせた。
黒い目。人間離れした美しさ。
人影のない裏路地から怪しげにでてきた。

「お前。なんや?迷子か?」
「違う。迷子じゃない。」
「じゃあ。なんや?」
「…リリー」
「リリー言うんか。かわいい名前やな。」
「お兄さんは?」
「流星。」
「流星ね。ねぇ流星。ここどこ?」
「生意気な子供やな。てか結局迷子かよ」
「迷子ってなに。私はリリー」
「名前ちゃうて。もぉーなんや親は?」
「いない。」
「あぁ?…孤児か?最近多いしなぁ」
「親なんていない。欲しくもない。」
「とんだマセガキやな。家出か孤児か…
うーん。まぁいっか」
「だからリリーだってっ」
「はいはい。分かっとるよ。…リリー俺とくるか?」
「…ふんっもとからそのつもり。」
「なんやこいつ。まぁええか。」


二人は流星の住むぼろアパートに暮らすことになった。
「流星っ。今日燃えるゴミの日やろ」
「あぁ。忘れとった。出してくるから机拭いとってー」
「はーい」
二人で暮らし初めて一年がたった。
二人の共同生活もだいぶなれてきた。
リリーは幼いこともあってか、だいぶ関西の言葉を話すようになった。
流星の言葉が見事に移ったのだ。


「なぁリリー。お前は結局何者なんや。」
「なに流星。」
「だってお前。この一年親ずっと来おへんやん。
でも名前はある。なんやこれ。なんか知らんけど他にも矛盾がぎょうさんある。」
「…。リリーだってしらん。」
「親は?」
「だから。知らへん。」
リリーは自分の服を握りしめた。
流星が少ないお金をはたいてかった、白色のワンピース。
「…名前はなんや」
「自分でつけた。」
「そーか。」
「――流星。リリーはな愛されたかったんや。」
「…は?」
「リリーはこの世界で産まれた。気付いたら喋れたし、体もあった。でもこの世界のことなんもしらんかった。親もなにもかも。でもこれだけは分かってた。リリーは「愛」を知るためにこの世界に来たって。」
「…な、なんやそんな。宇宙人みたいなこと。」
「リリーは愛されてない。」
「は?」
「リリーは愛がわからん。だから愛されてるかなんてわからん。だからリリーの目標なんて、夢なんて叶うはずない。」
「なに言っとんの?リリー。お前のことは俺が愛して―――」
流星の言葉は糸が切れたようにプツンと消えた。
流星は疑問に思ってしまったのだ、自分は愛されてたか?親には捨てられた。本当の「愛」なんて知らない。
「なぁ流星。「あい」ってなんなん?」
流星の綺麗な瞳が揺れた。
「愛」ってなんなんだ?

「――リリー。もう夜の9時や。早う寝よう。」
「流星?話はまだ終わって――」
「リリー。な?」
流星の痛々しく笑った顔はリリーの心に深く刺さった。

リリーが傷つけちゃったん?

小さくなった流星の背を眺めることしか、できなかった。




「流星ー。なに寝ぼけとんの?」
「――なんや?」
流星は目を見開いた。そこには初恋の女の子。
『海』がいた。
「海?なんでここに」
「流星。なんか私。死んだらしいわ」
「は?」
「なに言っとんの?」
「我ながら格好いい死にかたやったわ。」
「じゃあなんでここに。」
「それこそ。死んだからやな。あんたの夢に化けてでてきてやったわ。」
「…。ほんまなん?海。」
「…こんなしょうもない嘘つかんて。」

沈黙が流れた。

「――なぁ海。「あい」ってなんなん?」
「――へぇ。あのマセガキが愛とか語るようになったんやな」
「ちゃうでっ。…ただわからんくなってん。
今一緒に暮らしとるリリー。女の子がおるんや。
その子に愛ってなに?って聞かれてなんも答えられんかった。」
「――へぇ」
「なぁ。海。俺は愛されとったんか?」
「少くとも。あんたの家族はあんたのこと愛しとった。」
「へ?」
「覚えてへんの?あんたがまだ僕って言ってたとき、
おばさんもおじさんもよく話とった。うちの流星はかわいいなぁ。って」
「母さんも父さんもそんなこと言っとったん。」
「うん。言っとった。」
「俺のこと嫌ってなかったん」
「うん。大好きやった。」
「俺の名前は。」
「誰かの夢を叶えられるような格好いい男になれって。意味だって」
「流れ星みたいにいなくなっちゃったんだ。俺を一人と裏切って。母さんも、父さんも。」
「ちゃう。流れ星みたいに希望を与えてって。」
「父さんは。」
「あんたの父さんは、工事現場での事故死。
最後まであんたら家族との生活を愛しとった。」
海は涙をためる。
「母さんも消えた。」
「だからちゃう。あんたの母さんは病気やった。入院してそのまま亡くなった」
海は涙をため、流し言った。
「あんたが愛されたいって言うのはどうでもいい。
でも愛されてなかったって言うのはちゃう。
あんたの家族はあんたを愛してた。
その愛をなかったことにすんなっ」
海は目を赤くして言った。
あんなに海が泣いているのは海の家族が亡くなってかみたことがない。
いや。ちがう。
俺が海から逃げたんや。

愛されていたのに気付いてへんかった。

愛したかったのに逃げてしまった。

俺の中の「愛」はずっと使ってへんかったから、
錆びてしまったんや。

俺はリリーを愛そうとしとる。
でもまだまだ不器用や。

きっと俺もリリーも愛が苦手やから分からんふりしとるんや。

どうしたらリリーは「愛」を知れるやろか。

やっぱり一番は。


「海。ありがと。それとごめんな。」
「流星。私こそ。でも今会えてよかった。」
「うん。」
「流星。愛してんで。」
「海。――またな。」
「――…。…はぁ困ったやつやな。今さら止めても無駄なんやろ。」
「――」
「死ぬなとは言わん。…悔いのないようにな。」
「あぁ。」
「ふっ。ようやくあんたの母さんと父さんが愛した
息子の顔になったな。」
「うん。」
「リリーちゃん?やっけ。愛してやってよ。」
「もちろん。――海。愛してんで。」
「――残念。私、あんたがおらんくなってから好きな人できちゃった。」
「はぁ?誰や。」
「…先生。」
「はぁ?顔赤くすんなやっ」
「赤くないっ照れてへんしっ」
「くっそ。…天国で惚れ直させたる。」
「ふふ。楽しみにしてんで。」



そこで目が覚めた。
隣でリリーが寝息をたてて寝ている。
あぁ。愛らしい。
これが愛か。

その時。大きなサイレンが鳴り響いた。
『怪物発生。怪物発生。緊急避難警報。
近くの頑丈な建物に隠れてください。
繰り返します――』

「は?頑丈な建物ってなんやねん。そんなに間に合わんやろ。」
「流星?どうしたん。」
「リリー。――。よし。逃げんで。」
「は?なにからよ」
「怪物。」
「怪物?」
「とにかく早う靴履け。」
「流星は?」
「包丁だけ持ってく。」
「わかった。」


2人で手を繋いで走る。
右手にリリーの手。左手に包丁をもった。
100mほど後ろには他にもたくさんの住民が走っている。
その50mほど後ろを人間離れした容姿の怪物が走っている。
圧倒的速さ。ここまで来るのも時間の問題だ。
「キャー」
遂に一人目が殺された。
そしてまた一人と。
リリーはもう走るのも限界そうだ。
流星は包丁を強く握った。
走りながら流星は言った。
「リリー。「愛奪還組」ってしっとるか。」
「な、なに。こんなときに」
「愛奪還組ってのは愛をなくした子供たちが愛を取り返す場所らしい。リリー。そこに行ってみいへん?」
「はぁ?――。そこで「愛」がしれるん?」
「恐らくやけどな。リリーがもし行きたかったら。よく聞いてや。このまま走り続ければ避難所につく。
そこでふんぞり返っとる偉そうな人に言うんや、身内が怪物に殺されて生涯孤独やって。」
「は?それって」
「大丈夫や俺は死なん。」
「――」
「リリー。俺の名前はな人の夢を叶えられるような格好いい男になれって意味らしいんや。なぁリリー俺を格好いい男にさせてや」
「――」
「リリー。」
流星が足を止めた。
リリーは振り返る。
流星は笑った痛々しく笑った。
でも前と同じような後悔や張り裂けるような痛みは
流星から感じなかった。
「流星は。いつまでたっても格好つかんなぁ。」
リリーは涙を浮かべた。
今まで泣いたことなんてなかったのに。
「リリー。」
「分かっとるよ。達者でな。流星」
そういってリリーは振り返り走っていった。
流星は背中が小さくなるまで見送った。
怪物の方をみる。
もう30mほどの距離しかない。
リリーが逃げきれるように、時間を稼ぐために。
「リリー。俺はリリーが幸せやったって人生を終えられるなら他になんもいらん。それだけリリーに救ってもらった。なぁリリー。生きろよ。」
流星は怪物に包丁を向けた。
「なぁリリー。ごめん。最後ぐらい笑ってリリーを送って、逝きたかった。
でも。そんなんむりそーやわ。――約束守れんでごめんな。」
視界が海に沈んだように歪んだ。

ほんまはもう少し長生きして直接リリーに「あい」を教えたかった。
きっと辛いもんやけど人間ちゅうもんは、
死ぬときが一番は愛を伝えられる。


絶え絶えになった苦しげな声が聞こえる。
体は熱く寒く。地面のアスファルトが顔に食い込むのを感じる。

リリーごめんな。
死なんって約束まもれそーにないわ。









リリーは走った。

涙を空に投げ出しながら。

リリーは1つの事を考えながら。

「流星。ごめん。私多分。」


「怪物の子ーや」








3/30/2026, 12:53:33 PM

「幸せな結末を」



とある女の子が言った。
「私は一人でええ。」
酷く傷つきボロボロになった自身の体を見下ろし
震える唇を強く噛み締め言った。
「泣かんとって」
目には涙が溜まり、溢れてしまいそうだった。
自分に声をかけた言葉なのかもしれない。
「泣かんといてよ」 その声は微かに怯えを含み
微かに空へと響いて消えた。


女の子がいた。 
生まれは兵庫県。育ちも兵庫県。
黒色髪を肩の上で切り揃えた髪の毛をなびかせ歩く。
前髪はサイドに分け、いわゆるセンター分け。
服は脛あたりまである黒色に白色の小さな花が書いているワンピース。
海辺を、足を砂に沈めて一人で歩く。
風が潮をのせて吹き、微かに髪の毛を揺らす。
家族はもういなかった。
昔海で流されていった。
一人きり。
彼女は「海」。名前だ。
親を殺した海と同じ名前。
皮肉のように感じてしまったりするが親は海が大好きで、広く夢のある海と同じ「海」という名前がよかったという。


海は学校に行く。
よくみるセーラー服に身を包み高校に行く。
もう支えてくれる人はいなかった。
海辺の学校。窓を開けると潮風に乗ってかすかに海の匂いがする。
先生はいい人。優しくて時には厳しい先生。
「光示先生。今日暇ですか。」
「海。先生は生徒と遊びに行きません。」
何度も海は先生を遊びに誘った。だって好きだから。
「ええやんか。光示先生彼女おらんの?」
「いや居ないけど。」
「なるほど非モテか。」
「海ー。海はいけないことをいいました。」
「ごめんごめん。光示先生。許してや」
「はぁ。今日は親御さんの命日でしょ。早く帰ってあげて。」
「はいはい。親に伝えとくわ。先生と付き合いましたってー」
「やめろやめろ。先生社会的に死ぬわ。」
「へへへ。」

雑談程度の会話。それでもすごく楽しい。
親の命日を知っているのは、今私は3年生で1年のとき
に親が死んだから。
まだまだ私を子供としてみてるけどそれでいい。
先生と笑えるなら。

3年生の教室は1階の端の方。端の方にも門があるから
帰るときはすぐに学校から抜け出せる。
田舎の学校で生徒は少ない。だから担任の先生も
ずっと光示先生だった。

想いを持ち始めたのは親が死んだとき。
葬式のとき式場の外でずっと立っていた。
さすがに入るのは良くないと思った。と言って外に
ずっといた。夏の終わりが近づいているとはいえまだまだ暑苦しいのに。私に言いたいことがあったって。

「海。海は一人になったって思ってる?」
「事実じゃないですか。」
「確かにね。でもね海には僕がいるよ。」
「先生?」
「うん。まだまだ知り合って時間はたってないけど
僕は海を近くで支えていける。」
「先生が?」
「そうだよ。先生も随分昔に親を亡くしてね。
あの頃は辛かったな。一人になったと思って死んだ親をどうして一人にしたんだと恨んでしまったよ。
大好きな親だったんだけどね。自分に嫌悪感を抱くようになったのはその時からだった。」
「今はどうなんですか?」
「沢山の仲間が僕を支えてくれたよ。
はじめは友達に名前を呼ばれるのも一人じゃないと
言ってくる教師も大嫌いだった。
でもねだんだん気付いた。僕は1人じゃないってね。
勝手に1人だと思い込んで、嫌悪感を抱いて。
バカらしくなったんだ。親のことを恨んでもきっと親は気にもしてない。だから嫌悪感を抱くのもお門違いだって。
それに僕がようやく笑えるようになって親友といつもどうり話をしたときアイツの顔ったら。ハハッ。すごく面白い顔してた。」
「そう。なんですね」
「うん。…今は分からなくてもいいから、少しずつ受け入れていってほしい。先生は、友達は、思ってたよりも近くにいて、親御さんたちも好き亡くなった訳じゃない。きっと親御さんたちも海には笑っていてほしいよ。」
私は涙が止まらなかった。
親が死んでから止まっていた私の時間が動き出した。
そんな気がした。
私の背中をさする先生の手がお母さんの暖かい手と
お父さんの少し固くなった手を微かに思い出させた。


これが私が先生に恋したきっかけだ。

今思うとあのときの先生はすごく、かっこよかった。

愛してる。
先生も友達も。町の人も。
高校に入って、新しい友達ができた。
親友と言える友達ができた。
茶色のがかった髪の毛を肩の上で切り揃え、前髪は
頭の上でピンでとめている。いわゆるポンパドール。可愛らしい女の子の「御幸」
大好きでだいすきで、私は今幸せだ。

ある日。

学校で5時間目の授業を受けていたとき。
世界史の勉強で所々寝ている生徒もいた。
今日は歴史の担当である光示先生がお休みで、変わりに新人らしい女の先生が授業をうけもっていた。

突然放送が響いた。
「校庭に怪物が侵入しました。教室にいる先生と生徒の皆さんは扉と窓を直ちに施錠。扉の前に机を重ねてください。生徒は1ヵ所に集まり先生は生徒を誘導してください。全員落ち着いて行動してください。
繰り返します――」
その瞬間緊張感が教室に漂った。
努めて落ち着いて放送する教頭先生の声が聞こえる。
我にかえった先生と生徒が率先して窓をしめ、机を動かす。みんな焦りがにじみ出ている。
だって怪物が侵入してきたら一番に入ってくるのはおそらく端で扉の近いこの教室だから。

施錠し終わり端にみんなで固まった。
カーテンをしめ、扉の方にみんな注目している。
放送がなった。
ジー。
放送がなる前の微かな電子音。
これは避難訓練で何度も聞いた。
怪物が校舎に入ってきたのだ。

ガンッ。ガンッ。
壁になにか金属のようなものが当たる音。
おかしい。いま廊下には誰もいないはず。
ドンッ。ドンッ。
扉を叩かれる。
バンッ。
扉が開いた。鍵をかけていたのにどうして。
この校舎は古くなっていた。だから鍵が壊れたのだ。

そこにはボロボロになった服を着ていて、
金属バットを持った「なにか」がいた。
目は赤く、体は魚と鳥とトカゲと人間が微妙に混じったような容姿。
そうか。これが。
何度も話だけは聞いた。怪物。
怪物はおもむろに言った
「みんなみーんな。死んじまえよ。」
そう言ってバットを振りだした。
それが女の先生に当たった。
先生は床に落ちていった。
キャーッ。
教室が一気に恐怖に包まれた。

どうにかしなければ。そう思った。
微かに持っている勇気を持って。
先生がくれた愛と勇気を。

手を痛いぐらい握りしめた。

「なぁ。あんたさぁ。いい加減にしたほうがええんとちゃうん。」
「はぁ?」
「怪物がなんや。バットがなんや。
あんた生臭いなぁ。生ゴミでも食ったん。」
「はぁ?」
私は走り出した。これでも陸上部エース。
扉を抜けて校庭に走っていった。
授業で習った。怪物は圧倒的な身体能力をもっている。きっと殺されてしまうだろう。
怪物は狙い通り私を追って校庭にでてきた。
どうやら今の世のなか「愛奪還組」とやらがいるらしいがきっと間に合わない。
すると3年生の教室の窓が開いた。
「海―。待ってよっ―」
御幸だ。叫ぶような声だ。泣き声混じりだ。
私は答えた。
「御幸―。生きてや」
この声は御幸にとどいただろうか。
私は自分に訴えるようにいった。
「私は私という物語が最後に「幸せ」で締め括られるなら。私は一人でもええ。一人で逝ってもええ。」
「泣かんとって。」「泣かんといてや」
涙が溢れてしまいそうだ。 
どうかどうか御幸がたっくさん生きられますように。
光示先生も私の勇姿を聞いて惚れ直してくれるかな。
なんて考えたり。
「幸せやったなぁ―――」



怪物は校庭の真ん中で立ち尽くした。
血まみれになった。体とバット。
立ち尽くしている間に愛奪還組が到着したようだ。
大きなゴーグルを着けた男が怪物を銃で撃ち抜いた。
怪物は呆気なく倒れていった。
その横から黒い長い髪を高い位置で一つに括り、男の子と同じ大きなゴーグルをかけた女の人が髪をなびかせ走っていった。
「ごめんなさい。」
女の人は動かなくなった海を抱き泣いた。
女の人の隣で男もその隣で拳を握りしめた。


これを御幸は目に焼き付けた。
黒髪の女の人はもう亡くなっているのだとは知らずに。


御幸は産まれながら死んだ者が見えるのだ。


その後光示先生は海の話を聞き、
瞬きすることなく、涙を流したという。
先生の左手薬指には新品のような指輪が光っていた。


初めてだった。愛奪還組に自ら志願する者は。
17歳。
訓練をすることなくすぐに戦場へ行く事になった。
「御幸」 銃を扱う男の隣で拳をふるう。
生まれ持った力を発揮し、愛奪還組にてエースである
春来の横で言葉通り拳を振るった。




生きるため。海の愛を受け継ぐために。








3/29/2026, 10:38:50 AM

「I'm mess」


見つめられると思い出す。

幸せなあの頃を。


「七菜。」
「父さん。どうしたの?」
「今日の晩飯お好み焼きにするか」
「本当に?やった!」

私と父さんの2人暮らし。
裕福な暮らしじゃなくても幸せだった。
お好み焼きは我が家のご馳走で、お父さんの給料日にたまに食べる程度だった。

私は父さんに拾われたらしい。
お父さんがパチンコから帰ってきたとき、ゴミ捨て場に捨てられていたそうだ。
私の名前は縁起がよさそうだ。という意味でラッキーセブンからとった7。
大好きな名前。
七菜の「菜」は私がはじめて家で食べたものが野菜だったからだそうだ。

幸せだった。
幸せだった。
ご飯のない日もあって寒さに凍える日もあった。
けどいつも父さんがそばで私を暖めてくれたから。
私は愛を知れた。
大切にしたいと思えた。


ある日。
私は父さんと行きつけの安いスーパーでもやしを買った。今日のご飯はもやし炒め。焼肉のたれをかけて食べる。すごく美味しい。
私はレジで会計をしているお父さんの隣で立っていた。私は7歳。
すると窓が割れた。
バリッ。バリッ。
遠くを歩いている怪物だ。
怪物の歩みに合わせ建物全体が動いた。
怪物はこっちに近づいてくるようだ。
怪物はスーパーから100メートルもない場所にいる。
すると父さんが言った。
「―七菜。父さんな、もともと消防士さんだったんだ。怪我しちまって引退したけどな。」
「父さん。そんなことよりも怪物が―。」
「だから父さんな。人を救いたいんだ。
七菜。お前は生きろ。生きて生きて、人を愛して愛されるんだ。そしたらきっと愛に溺れて生きていける。」
「とう…さん」

そう言って父さんは走って出ていった。
声を張り上げ父さんは走った。怪物はそれを追いかけ山の方に消えていった。
「とう、さん?」
一人残された七菜は消え去りそうな声でそう言った。

その後政府の使者というものがスーパーに訪れた。
親のいなくなった子供。つまり私に愛を奪い返すための組織に入らないか?というものだった。
私は父さんが、愛が帰ってくるのなら。と思い、
ついていった。
本当は返ってこないって分かってたのに。

私は「愛奪還組」という組織に入った。
とは言っても私は訓練兵。
私は14歳まで訓練施設へ行く事になった。

訓練施設ではいろいろな子供がいた。
笑う子泣く子さまざまだった。
そのなかで私に最初に話しかけてきた
「愛桜」あいらちゃんという女の子がいた。
少し茶色かかった髪の毛を低い位置で二つにくくっている。私よりも一つ年上だった。

「七菜。よろしくね」
「愛桜さん。はい。」
「愛桜でいいよー」
「愛桜ちゃん?」
「へへ。いいねー」

可愛らしくて大好きな人だった、
私をずっと愛してくれた。
一緒に訓練をしたり、うどんを一緒に食べた。
都会に遊びにいけるような自由のない愛奪還組でも
笑える日が増えたと思う。

それから、六年が経った。
もう少しで愛桜ちゃんが愛奪還組の待機場に移動になり、戦場に立つ。
愛桜ちゃんは私に言った。
「七菜。私はね戦いにでても手紙とか遺書は残さないよ。だからこれから先、来年七菜が戦場に立つようになるまで言葉を伝えることはない。」
「そうなんですか。なんでなんです?」
「私は死なないからね。死ぬことの怖さだって感じないし。」
「愛桜ちゃん。また会いに行きますからね。」
「へへ。告白みたいね。―待ってる。
あっそうだ。渡したいものがあってね。」
「渡したいもの?」
「はいっ」
ゴーグルだった。
大きくて戦場に立つときに使うようなもの。
「七菜に似合うと思ったの。やっぱり黒い髪によく似合うっ。」
「ふふ。そうです?ありがとうございます。
絶対これつけて会いに行きますからね。」
「楽しみにしてるっ」

そう言って愛桜ちゃんは沢山の14歳を向かえた訓練兵たちと大きな扉を開き、歩いていった。

次の日私の元に届いたのは。
愛桜ちゃんのネックレスだった。
愛奪還組の兵たちは常に自身の特定に使うネックレスを身に付けている。
これは愛桜ちゃんのもの。
つまり愛桜ちゃんは死んだんだ。

私は泣いた。泣いた。
すると目を真っ赤に腫らした愛桜ちゃんと同い年の兵が一人、私の元に歩いてきた。
「愛桜は先日の初戦にて勇敢に立ち向かい散って行きました。」
嘘。愛桜ちゃんは臆病で勇敢に立ち向かう訳がない。
「愛桜は…あなた。七菜のことを沢山。話していました。可愛らしくて優秀な子だと。来年再会するのがとてもたのしみだと。」
これは本当。同じことを愛桜ちゃんにも言われた。
「愛桜から七菜に向けた手紙が届いております。」
私に手紙を差し出した。すると兵は礼をし目元をこすり元の居場所に帰っていった。
私は涙が止まらなかった。

手紙。愛桜ちゃんは手紙を残さないと言っていた。
なのに残して行ったのだ。
なにか、あったのだろうか。


七菜へ。
元気?私は多分死んでるのかな。
私が死んだら届けてって言ったからね。
七菜。手紙を残さないって言ったのに残してごめんね。怖くなっちゃったんだ。大好きな七菜に忘れら れるのが。だから手紙を書かせてね。
七菜。私はあなたが羨ましかった。
勇敢で強くて沢山の愛されて育ってきたんだなって
思ってたから。私は親に叩かれて育ってきたから怪物に親が殺されたときちょっと嬉しかった。
そんなのどうでもいっか。
七菜。七菜はいつも消えてしまいそうな雰囲気があった。だからあなたが強く生きられるようにあなたに
目標をつけさせて。
愛されること。今までで一番死にたくないと思った時に人生を終えること。自殺しろとかじゃなくて幸せになってから死んで。
愛されて、愛して、愛に溺れて死ぬこと。
分かった?
長くなってごめんね。
愛しているよ。大好きな七菜。

PS,あえなくてごめん


   あなたの愛桜ちゃんより         」



所々濡れたように丸いシミがついている。
これは愛桜ちゃんのもの?それとも私のもの?
わからない。わからないよぉ。
愛桜ちゃん。大好きな愛桜ちゃん。
おいていかないでよ。



それから3年がたった。
私にも後輩ができた。
私はもう戦場で2年間戦ってきた。
この二年で沢山の仲間が死んだ。
仲間が死ぬたびに私の後輩。「春来」は深く落ち込み、下を向いていた。
ある日春来が言った。
「七菜先輩はどうして笑えるんですか。」
その一言が私の胸に深く深く刺さった。
「私は強いからね。」
そう言いたかったが声が突っかかった。
好きで強くなった訳じゃないのに。
強くはない。
ただ強がっただけ。

笑ってやり過ごした。

目標だとか色々語ってしまった。けど、言いたかったのは結局「一人にしないでね」それだけだった。






「みんなに。いつか、あいにいくからね」

3/28/2026, 9:59:12 AM

「You are mess」



恨めしかった。

こんな世界に生まれてきた僕が。

そんな僕にいつも渇をいれてくれるのは貴女だった。

「また下向いてる。どした?」
「…別に」
「…はぁ」

そう言って僕の隣に座った。
真っ黒で腰まで伸びた髪の毛を高いところで一つに
くくっている。瞳は迷いのないようにまっすぐで、
頭に大きなゴーグルをつけている。

「…なんで七菜先輩はそんなに笑っていられるんですか?」
「うーんとね。君。春来はきっと目標がないんでしょ。」
「目標?」
「そう。この世界で生きるためには、笑えるようになるなら、きっと何よりも大切だよ。」
「七菜先輩はあるんですか?」
「うんっあるよ。でもね秘密」
「…は?  何言ってるんですかっ」
僕は思わず吹き出した。
「あっ笑ったねー」
「…本当ですね」
僕らは立った。次の仕事に行くために。

僕は春来。
顔は覚えていないが母親が言っていた。
あなたの名前は苦しい冬が来てもまた春が来る。という意味だと。
彼女は七菜。
どうやら孤児だったらしくたまたま彼女を拾った育ての父親が縁起が良いだろとラッキーセブンの7から名前をつけたそうだ。

僕らはおかしな世界に生まれ育った。

怪物が蔓延る世界。
怪物。どこから生まれたのかわからない。
ただある日突然この世界に生まれた。
怪物は人々を襲い殺す。

そんな怪物に対抗すべく政府は怪物に親を殺されたひとりぼっちになった子供を集めた。
その子供たちに政府は「愛奪還組」と名付け、親を殺された恨みを怪物にぶつけるよう教育し、圧倒的な力をつけさせた。
僕らはその「愛奪還組」の一員である。
怪物が現れると滅しに行けと命令を受け殺しに向かう。
今まで約3年間現地で戦ってきた。
訓練はもっと前から。
14歳で戦場に送り出されるため、僕はいま17歳。
七菜先輩は僕よりも2歳年上で、現地で5年戦ってきた。

僕らのなかまたち。愛奪還組の仲間はいままでに沢山死んできた。
今年一年だけでももう22人。
次に誰が死ぬかなんてわからない。


七菜先輩はいつでも頼れる人だった。
待機所でも沢山の新人を励まし、愛してきたし、
僕も彼女に救われている。
彼女はきっと愛奪還組のなかでの唯一の光で、愛されているだろう。


とある日。雨が強く降り注ぎ空が泣いているような日だった。

愛奪還組の待機所に大きな音が鳴り響いた。
赤色の光が部屋を照らす。
『緊急事態発生。――市にて怪物発生。
 愛奪還組10名送るも全滅。自衛隊も壊滅状態。
 これは命令である。愛奪還組出動せよ。
 及び愛奪還組にてTopの実力を誇る。
 七菜.春来は現場に急行せよ。 他にも―』

「さてとお呼びのようだし行きますかっ」
「はい。…先輩」
「ん?」
「ここに帰ってきたらお酒でも飲みましょうか」
「ふふ。私たちはまだ未成年でーす。
まぁ、誰にもバレなきゃセーフだけどねっ」
楽しそうに笑う先輩はきっとこの世界で何よりも
かわいらしい。
その横で笑う僕。
2人ならきっと。



戦場についた。
何度も足を運んだ場所。
武器や装備は最先端らしく軽く丈夫だ。
武器なんてなんでも多少同じ。
なんなら使いなれたものではないから逆に心配だ。
まぁなんとかなるだろう。

七菜先輩は待機所とは打って変わって真剣な顔をしている。
大きなゴーグルをかけ、唇を強く噛み締めている。
先輩のルーティンだ。
「ふぅー。―いくよ」
「はい。」


対象の怪物はいつもよりも何回りも大きい。
目は赤く血走っており、体には愛奪還組の装備の破片が刺さっている。
口もとには血が付着し、歯に愛奪還組が常につけている誰の死体が判別するためのネックレスが引っ掛かっている。
僕は唇を噛み締めた。
その恨みを深く深く怪物に向けた。

「春来―」
「はい。―七菜先輩。」


僕らは武器を怪物に向ける。
僕は銃を。
先輩は短刀を2本持つ。

辺りには鉄臭い匂いが充満している。
砂ぼこりさえ血が染み、辺りが薄く赤に染まる。

2人同時に地を蹴った。

ドンッ。銃の音を皮切りに刃の音が甲高く響く。
僕、先輩、他にもいままでに何度も顔を合わせた
仲間たちがさまざまな武器を手に怪物に向かっていく。
槍、刀、薙刀、毒。

怪物は苦しんでいるようだ。

僕は怪物に何度も鉄の塊を打ち込んでいく。
僕が愛奪還組のTopに入り込んだのには理由がある。
それは過度な集中だ。
銃を手に1度鉄の鉛を打つ。それを合図に僕の意識は敵に集まる。瞬時な装填。
その状態の僕が聞こえるのは命令だけ。
攻撃されても受けたダメージに意識は向かない。
殺す。これだけが頭に残る。
生物兵器。圧倒的な忠誠。だから僕は愛奪還組のなかで優れていると言われてきた。


打ち込む。打ち込む。
ひたすらに。「殺す」ために。
だから、気付かなかった。
僕の命をさらう怪物の大きな手が迫っていることに。

ドンッ。

銃の音とは違った音が聞こえた。
熱く、鉄臭く、ドロッとした感触をおぼえた。
あ?僕は唇を震わせた。
死んだと思ったからだ、帰れないとおもったからだ。
横に視線をずらした。

七菜先輩がいた。
「七菜先輩?」
「春来―。言ったじゃない。過度な執着は命をさらうって。」
「先輩?」
「ほんと、仕方がない後輩だ。」
「先輩―なんで。」


「―先輩に爪が刺さってるんですか?」
先輩の体には大きく鋭く尖った怪物の爪が深く深く
刺さっていた。

怪物の爪がゆっくりと抜けていった。

先輩の体は力なく落ちていった。

「先輩!」

先輩の口からは血が止まることなく溢れていく。

訓練を沢山受けてきた。死んでいく仲間を沢山みた。
だから分かってしまう。
もう、助からない。

「春来―私はね目標があったんだよ。」
「?」
「私はっ。愛に溺れて死にたかったっ!」
貫通した腹に力を込め最後の叫びのように言った。
先輩はボロボロになっている。
血、泥だらけ。
それでも誇らしそうに涙を目にため言った。
「その為ならっ、命なんて惜しくなかったっ。」
僕の目にもいつの間にか涙がたまっていた。
唇を強くかんだ。
「惜しく、なかったんだけどな。」
先輩の涙が頬に流れた。
「春来―お前がいたせいで、惜しくなっちまった。」
「先輩ぃ―」
「泣くな後輩っ。私は愛されたかった。だから人を愛した。お前が来るまでにもそうやって生きてきた。
でもな―本当に私を愛してくれるヤツなんていなかった。」
「私を愛したのはお前だけだった。
死んでいったヤツを思って戦えるお前は大丈夫だ。
そんなお前が大好きだ。
な?私は愛に溺れて死んでいくだろう。」
「先輩―僕はそんなに良いヤツじゃないですよ」
「ふふっ。そうかならそれを目標にしたら良い。
誰もが憧れる「良いヤツ」になれ。
おい春来。―まだ敵が生きているぞ。」
「はいっ。先輩―」

僕は立った。泣くな。泣くな。笑え。
僕は笑えるようになったって言うように。
心配をかけないように。
「いってきます。先輩」
僕は走った。銃を構える。
過度な集中はしないように。


「本当に良い後輩だ。いってらっしゃい」
七菜の声は微かに響き消えていった。
声が途絶えてから少しのあいだ。
啜り声が軽快に響いていた。



先輩はすごい人だった。
僕を愛してくれた。
腹に風穴が空いてからもあんなに喋れるものなんだな。
本当に貴方はめちゃくちゃだ。
大好きだ。大好きだ。
戦闘中に感情を出すのは危ない。
涙で視界が霞むときがある。
それでも止めることなんてできなかった。





2年後。

「先輩っ。春来先輩っ」
愛奪還組の待機所で声が響く。
「あ?どうしたんだ」
「お酒ほどほどにしてくださいね。」
「…」
「あっ。また飲んだ。早死にしますよー」
「大丈夫。大丈夫ー」
「もぉー」
若々しい女の子の声がした。
彼女は御幸。茶色がかった髪の毛で肩の上の切り揃えている。前髪は頭の上でピンでとめている。いわゆるポンパドール。可愛らしい女の子。格闘技で戦うそうだ。戦うときには髪を一つにまとめる。
春来より2歳年下の後輩。
あの頃の春来と同じ17歳。
まだまだ新人だ。
「春来先輩。そもそもまだ19歳でしょ。未成年ー」
「バレなきゃセーフ」
「もうバレてますよ!先輩が愛奪還組のTopだから見逃されてるだけですー」
「はいはい」
「もぉー。「はい」は一回!」
「はいはい」


待機所の端で2人が囁き声で話ている。
「春来先輩。またやってるよ。」
「御幸ちゃんも大変だねー」
「でも春来先輩ってかっこいいよね。」
「な。分かる」
「さすが愛奪還組のエース。」
「本当に良いヤツだわー」
「良い性格してるねー」





春来は銃で怪物をうつ。
七菜がつけていた大きなゴーグルをつけて、
鉄の鉛を撃つ。
出動するときには強く強く唇を噛む。


「七菜先輩。僕は良いヤツやれてますか。」


時折思い出す。
あの日の約束を。
「僕ね、お酒飲みましたよ。苦くて美味しくなかったなー。ボロボロになって医療室で隠れてお酒飲んだんですよ。お酒がマズかったからかな。涙が止まらなくてお医者さんにお酒のことバレてバチバチに怒られましたね。」
一人で笑いながら目を伏せた。



「あいたいなぁ。」

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