「あの日の月」
晴天の星空と月。
「月が綺麗ですね。」
ふと口から零れ堕ちた1つの言葉。
この言葉はきっと貴女の耳に届かなかった。
煙草の煙が立ち込めるベランダ。
マンションの十二階。
1人で酒と煙草を手に空を見上げる自分。
今日は天気予報では満月だと言っていた。
実際は曇っていてなにも見えない。
輝く満月などなにも見えない。
少し月明かりが雲が透けて見える程度で街中を歩く人達のことも見えやしない。
星も風も全てが姿を消したかのよう。
確か貴女が空を舞い、自由になったのはこんな星空の日だった。
「貴方が私を愛してくれなかった。」
「ずっと1人だった。」
「貴方の瞳に写ることが申し訳ない。」
「私は貴方の理想になれない。」
「私を1人にした貴方のことを、私は。」
「貴方なんて大嫌い。」
次々に貴方の口から溢れでてくる。
どうしてこうなってしまったのか分からなかった。
もう少しだけ貴女への愛の言葉を伝えていたら。
もう少し側にいたら。
後悔とは少し違う。なにか分からない感情が溢れる。
目の前で飛び降りた貴女が地面に叩きつけられる音がするまでここは夢なのだと本気で思っていた。
こんな月。雲に煙に隠れてしまえば良いのに。
貴方以上に美しいものはないのに。
愛しているものはないのに。
この瞳に写すことを躊躇わないのは貴女だけなのに。
愛していたのに。
理想は貴女だったのに。
貴女が逝ってしまったのは僕のせい。
あぁ。この感情がなにか分かった気がする。
きっと僕に対しての「呆れ」なんだろう。
僕にはもうなにも出来ない。
愛する人を守ることも愛すこともなにもできなかった。ごめんなさい。ごめんね。愛せなくてごめんね。
今さら遅いけどごめんなさい。
ずっと寂しい想いをさせていてごめんね。
でも我が儘を言えるなら生きていて欲しかった。
僕を殴っても良い。僕が嫌いでもいいから。
この世界のどこかで命を紡いでいて欲しかった。
この想いも全て、全て。
月のように煙のように消えていけば良いのに。
いつか貴女の命が。
月のように星のように
空から僕を探してくれますように。
貴女が生まれ変わった時。
また僕とすれ違うだけでもいいから。
貴女の瞳に。
僕が写りますように。
9/14/2025, 1:30:26 PM