ゆじび

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8/17/2025, 12:21:04 PM

「遠い空」


病室のなか貴方と見つめる月はどんな灯りよりも
綺麗でしたね。


狭い病室で暮らす私の世界は本のなかだけだった。
本でいろんな世界の話を知り、愛の言葉を知り、
愛の素晴らしさを知った。
夏目漱石が私は好きだった。
あの方が語る世界が好きだった。
夏目漱石がきっかけで仲良くなった方もいた。
彼は、世界を知っていた。
美しい世界も。そんな世界を夏目漱石の言葉で彩る事が好きだそうだ。
私は彼に恋をした。

私は彼との会話が生き甲斐でなかったらとっくに死ん
でいたのだろうな。

私の人生最後の日。
彼と夜空を見上げた。もちろん病室の中で。
月が綺麗だった。
月は太陽無しじゃ輝きやしない。
私はもしかしたら月に似ているのかもしれない。
彼というなの太陽に私は照らされているのだ。
哀れなものだ。
太陽は明るく照ると草木を救い、寒さをさらう。
でも月は。暗いなかで少しでも道をてらすだけ。
私は何なのだろうか。



彼女の人生最後の日。
彼女の病室ですごく綺麗な月を見た。
月は疲れはてたもの達に帰り道を知らせてくれる。
夏目漱石だって人生おいて重要な恋の告白に月を
使った。
それに彼女の横顔を淡く照すその光が美しい。
彼女は月のようだ。
僕に心の救いを与えてくれた。
彼女と共に話す事が僕にとっての灯りだったから。
彼女はきっと気付かない。
僕のこの気持ちも。自分の美しさも。



「月が綺麗ですね。」
気が付くと口から零れた。
彼女は消えてしまいそうな姿で言った。
「死んでもいいわ。」
僕は驚くほど優しく言った。
「月はずっと綺麗でしたよ。」
彼女はなにも言わない。
僕は続けて言った。
「少し肌寒いですね。」

優しく手を差しのべた彼女は。
少し震えていた。
僕はこの手を柔らかく包むことしか出来ないなんて。
彼女の頬を伝う涙はきっと暖かかった。
彼女が冷たくなるまで僕はそばにいることしか出来なかった。

「遠い空」

8/14/2025, 2:01:08 PM

「君が見た世界」

 
病室。
真っ白な世界。
殺風景な部屋にピシャッと閉められた窓。
本来、華やかさなどないはず。
でもこの部屋には美しい貴方のみた世界が広がっている。

私は小さいときから体が弱かった。
初めての友達ができたと思った小学校一年生のときか
らずっとこの部屋で過ごしてきた。

外の世界は「綺麗」が溢れている。
爽やかな夏の色も。全てを凍てつくような冬の景色も。暖かな家庭の姿も。穏やかな春風も。優しい香りがする花も。好きだと思える人の姿も。
ここではなにもない。
年中ほとんど同じで気温で、風も吹かず花の香りもせず、好きだと思う人に自分から会いに行くことも出来ない。

でもね、この部屋には「絵」が溢れている。
暖かい色。人を魅了する暖かな花も。暖かな風がふく草原も。
全部全部彼が見た世界。
今では部屋のなかには絵が溢れている。

彼はね。私が好きだと思えた初めての人だった。
出会いは少し気恥ずかしくて言えないけど強いて言うなら本当に偶然だった。
いつの日かここを抜け出したときがあった。
裸足のまま裏口から飛び出して走った。
苦しくてすぐに止まってしまったけど止まったときに目の前にいたのは彼だった。
心配そうに見つめてくる瞳が今までみたどんな色よりも美しかった。

その後すぐに看護師さんが来て連れ戻されたけど。
運命ってものはあるのだと思った。
それからしばらくして彼が訪ねてきて、今でも週に一回程度に会いに来てくれる。

彼の絵はとても美しい。一つ一つ愛を感じる。
いつか彼の妻になる人はきっと幸せだろうな。
と思ってしまう。その妻が私ならいいのに。
どうせすぐ死ぬのに。

胸が痛い。
彼にあったときのような心地のよいものではない。
苦しい。息が出来ない。助けてともなにも言えない。
嫌だ。嫌だ。まだ逝きたくない。
彼に愛を告げてみたい。彼の見る世界を感じていたい
自分の死ぬときぐらい自分で分かる。
あぁ。私はもう死ぬんだ。
まだまだ若いのに。これからなのに。
貴方と世界を見ていたいのに。
あぁ。逝きたくないなぁ。
せめて私の死に顔が、涙が貴方の世界のように美しければいいのに。




死んだ。彼女が死んだ。
なんで?からだが弱いとは聞いていた。
いつ死ぬか分からないと泣いて笑いながら語る彼女が
もう、いない。
僕の絵は彼女を救えたのだろうか。
あぁ。悔しい。
僕が絵ではなく医師だったのなら彼女を救えたのだろうか。
退院したら彼女と僕の絵を描いて告白をしたかった。
もう僕のこの手は筆を握ることができない。
彼女の涙は美しかった。
今はもう想いを馳せることしか出来ない。







運命とは時には残酷である。
彼と彼女には時間がなかった。
残された彼はまだ若い。
これから先たくさんの出会いと別れを繰り返すのだろう。
いつかは彼女の事を忘れるかもしれない。
でも少しでも絵を描くとき。
自分の目で「綺麗」を見つけたとき。
彼女の事をほんのちょっと思い出してくれたのなら
彼女はきっと幸せだろう。


「君が見た世界」

8/13/2025, 2:42:34 PM

「言葉にならないもの」


僕の初恋は耳の聞こえない女の子だった。


初恋はカルピスの味がする。
実際にはしなかったが甘くて酸っぱい初恋はカルピスのようだろう。

耳の聞こえない女の子はいつも前向きだった。
音は聞こえない。なにも聞こえない世界で生きているにもかかわらず。
彼女の言葉は完璧とは言えないけれど、途切れ途切れでも十分理解できる程度だった。
でも彼女が僕や他の人と言葉を発して会話をしているところをみたことがない。
当時の僕はなぜか聞いた。
聞いてみると下手くそな会話で迷惑をかけたくない。そうだ。今思うと僕はこの会話の後に恋に堕ちたのかもしれない。こんなに素敵な人にであったことがないと思った。


彼女は犬が好きだった。
人間は耳が聞こえないと知ると気を付かってあまり近づいて来ないそうだ。
だから遊んでと真っ直ぐに自分を見つめてくれる犬が好きなのだと、彼女は言っていた。

彼女は寝るのが好きだった。
どうやら夢の世界では音が聞こえるそうだ。
知らなかった、人の声、犬の声、蝉の声。
初めて「音」を知ったとき世界が大きく動いたと思ったらしい。

彼女は。
「愛」を愛していた。
こんな世界でも前を向いて進めるような光を発する
「愛」が大好きだった。

彼女は生きていた。
必死に愛にすがって世界に希望を持って。
いつか、いつかこの世界で音が聞こえる様に。
いつも願っていた。


彼女は死んだ。
交通事故だって言っていた。
車の音が耳に届かなかったのだろう。
そこで僕は初めて声を出せなかった。
出そうとしても怖くて。
「悲しい」とか「そうですか」とか言ってしまうと彼女が
いなくなったことを認めてしまったようで。
歯と歯のわずかな隙間から声にならなかった声が漏れ出てくるだけだった。

彼女はきっといつもこんな気持ちだったのだろう。
言葉を発したとしても自分では自分の声もなにも聞こえない。
話していると実感がわいてしまったのだろう。
自分に音はないと。音とは夢幻なのだろう。と

彼女がいなくなった今、気付いたとしてももう遅い。
もっと他の方法があったのではないだろうか。
支える方法があったのではないだろうか。

今ではもうあの頃の、学校から帰ってから飲む甘くて酸っぱいカルピスの味は思い出せない。

彼女は上を向いて生きて、死んでいった。
だから僕も下ばかり向いていられない。
僕には「音」があるのだから。
音が聞こえない人に音を届ける方法を1日でも長く考えよう。


今でも貴方への甘くて酸っぱい気持ちは言葉に出来ない。
この気持ちは手紙にでも書いて伝えてみようか。


「言葉にならないもの」




8/11/2025, 3:17:10 PM

「こぼれたアイスクリーム」


夏のアイスクリームは特別。
暑い中で食べるアイスクリームは溶けてこぼれて
しまいそうだ。手にこぼれ落ちたアイスはベタつく前に洗ってしまわないといけない。
あのアイスクリームの様に貴方の目からに涙がこぼれないように願っている。
いくらでも僕が拭ってあげますから。
暑く火照った貴方の顔から寂しさをなくしますから。
だから笑っていてください。

貴方の笑顔を大好きになったのはいつからでしょうか。気がついたらもう堕ちていた。
貴方の目の僕の姿が写っていたなら僕はそれで満足でした。

ある夏は友達と過ごし。ある夏は家族と過ごし。
またある夏は貴方と過ごした。
夏に食べるアイスクリームは特別に感じられた。
それをさらに貴方の横で笑いあいながら食べていると
思うと心がなんだか暖かいのに痛くて。
こんなにも心地のよい痛みは存在していたのか。と
初めて知ることもありました。こんなこと貴方に直接言いたかった。でも引かれたりしたら嫌だからなにも言えませんでした。
追記。貴方のアイスクリームをなめる姿は美しく儚げでどこか色っぽさがありました。僕の目にずっと
焼き付いて離れません。


「幸せな寝不足」
「心地のよい痛み」
たくさんの事を経験しました。
時には貴方の事を考えていて眠れない日もありました
貴方に釣り合わない僕を鏡越しに見るとやっぱり目の奥が痛くて、熱くて。布団にくるまる日もありました


夏は過ぎ秋になると貴方はどこか寂しげだった。
アイスクリームを食べました。夏の頃と同じでコンビニの前の駐車場に座ってアイスを食べました。
秋になっても暑くてアイスクリームはすぐに溶けていく。慣れたことなので手に垂れる前にすぐに食べ始めました。
でも僕のとなりに座った貴方の手からアイスクリームが伝って地面に垂れていきました。
どうしたのか。尋ねようとしたのですが貴方の顔を見ると泣いていました。
涙は頬を伝い手を伝い地面に堕ちていきました。

話を聞くと貴方はもうこの先命が長くないそうですね。未知の病気。治療法はなく、かかってしまうと
だんだん体が老いていって結果的に死に至る。
貴方はこのアイスクリームがこの人生最後のアイスに
なると思っていたのでしょう?
でもそれは間違えです。
貴方が病室にいても僕がアイスを届けますから。
秘密でも何でも。


今思うとあの病室で内緒で食べたアイスが一番おいしかった。
だからもう泣かないでいて。
お願いだから笑っていて。




貴女が眠ってからいくつか経った。
そんな今でも貴方の眠る墓の前で一緒に食べるアイスはとてもうまい。
ほら、貴方の分のアイスも買ってきた。
早く食べないと溶けてこぼれてしまうよ。
もうとっくに僕の目から涙はこぼれてしまったけれど。


塩っ辛いアイスを食べるのは一年に一回。
君の命日だ。



8/6/2025, 10:41:57 AM

「またね」


僕の大好きなあの人は「愛」を嫌っている。

あの人と出会ったのは人の多い祭りの中。
すれ違ったあの人はとても美しかった。
目を離せなくなった。
あの人は僕の顔を見てうつむいた。
追いかけて見ると目から涙がこぼれていた。
目が赤く、痛々しく腫れていて長い間泣いていた事が分かった。
どうしたのかと聞くと彼女はなにも言わなかった。

また会った。
次は駅前のパン屋さん。
僕が気に入っていてよく行くところだ。
偶然だった。

また会った。
次は電車の中。
いつも僕が登校に使う電車。
きっと偶然。

また会った。
4度目だった。僕の学校に転校してきた。
運命だと思ったが気恥ずかしくて声をかけられなかった。
またまた偶然。

休日彼女に会った。
さすがによく会う。気が合うのかもと思い勇気を 出して連絡先を交換した。

今思うとこれは偶然ではなかったのかもしれない。

何度も会って遊びに行った。
デートってものにも行った。
なんども告白をした。でもその度に迷っているようだった。迷って迷って、結局「無理」だけいって断る。
さすがに何度も振られれば諦められると思った。
でも諦められなかった。

そしてあの日。
初めて会ってから一年がたった。
2人で夏祭りに行った。
彼女は長く美しい髪をバッサリ切っていた。
長い髪もよく似合っていたが短いボブもとても可愛かった。
彼女は綺麗な浴衣を着て照れているようだった。

花火が打ち上がって彼女の横顔がカラフルに光った。
なんだか気恥ずかしくて彼女の顔を見ることができなかった。

夏祭りが終わってしばらくして先程まであんなにも騒がしかった広場が少し静まっていた。
彼女は「楽しかった」と言っていた。
満足そうにニヤつく顔が彼女の心をそのまま表したみたいでとても嬉しかった。
僕もニヤつくと「なに笑ってんの」と文句を言われた。
それでも彼女は楽しそうだった。


家に帰ろうと分かれるとき彼女はこっちを向いていった。
「じゃあね」と。
そう言いながら笑う姿は今にも消えてしまいそうで
危ういようだった。
可愛いのにとても不気味というか、なんだか嫌な予感がした。
僕は「またね」と手を振った。
彼女は寂しそうに笑った。
「またね」と言い返すことはなかった。

もしかしたら彼女はこの後に起きることを知っていたのかもしれない。

彼女の家が火事になって、彼女が亡くなったことを知ったのはそれから何日かたった頃だった。



彼女は何か知っていたのかもしれない。
自分が死ぬことも、僕の事も。
もし、もしも別の世界線があって。
あるいは彼女が過去に戻って来ていたなら。
その世界で僕と付き合っていたなら。
全てを知っていてもおかしくない。
いま思い返すとなぜか納得できる。
初めてあった日泣いていたのは僕と再会したからで。
よくあっていたのは偶然ではなく、僕の事を知っていたからで。
告白をしても断るのは僕に悲しい想いをさせないためで。
そもそも戻って来たことを伝えなかったのは僕に
引かれたりすることが怖かったからで。
全て妄想だけどなぜか正しいと思う。


納得できない。信じたくない。
けど今までの日々が僕と彼女のために神が与えてくれた機会だったならありがたく思う。
でも僕は諦められないよ。
後悔だけが心に残ったままだ。




何年もたった今夏が来る度にあの日々の暖かさが、
後悔が蘇ってくる。
きっとこの想いは二度とと消えることはない。



「またね」








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