誰かに呼ばれている気がして、歩きだしてみた。
ここがどういう所なのかも、どこまで広がっているのかも、何一つわからない。
耳を澄ますと、かすかに水の音が聞こえてくる。
それは草すら生えていない砂まみれのこの世界で、確かに生命が息づいている証拠だった。
とても澄んだ、どこまでもきれいな水。
この世界の生命は、自らの命を燃やし、代々この水を守ってきているのだろうか。
自分たちがどれほど小さな存在なのか、見につまされる。
この世に生まれてはいけないものなどないのだ。
その意味が、それぞれによって違うだけで。
『声が聞こえる』
あの子とおれは、一心同体となっちまった。
あの子がおれをあわれんだからなんだろうが、何でだろうな。おれを助けることにあの子の利点はなかったはずだ。同情されたからとて、あの子がおれにそこまでする必要はなかったはずなんだ。
そのせいで、おれは囚われ、簡単には死ねなくなっちまったわけだ。
そしてそれは、あの子にとっても同じこと。
はたから見たら、面倒くさい関係だ。
仕方ないから、しばらくの間はあの子に協力してやる。
俺にかけられた呪いが解けるか、おれの命が燃え尽きるまで。
『命が燃え尽きるまで』
毎日、楽しいけれど、どこか何か足りないような気がしていた。
それは、この年の子どもにはまったく似つかわしくないこと⸺つまり、わたしは可愛くない子どもだったのかもしれないと今では思う。
しかしあの時あの場所で、わたしは何かに吸い寄せられ、そこへ向かったのだ。
何かに呼ばれた、という感覚のほうが正しいのかもしれない。
そこが水が流れる場所だというのは、少しオーバーサイズの靴がさらわれてから気がついた。
お母さんに怒られる!
幼いわたしは我にかえって、流れる靴を拾おうとした。
ずっと忘れていたこと。
⸺思い出したこと。
『きらめき』
心に火がつくというのは、こういう感じを言うのだろうか。
否、少し違うだろう。わたしが彼女と向き合ったときに感じたのは、例えるなら滝に打たれるだとか、大樹の前に立つだとか、そういったときに身を貫くような感情に近しいものだろう。
しかし、以後、わたしの心は彼女らとの再会を望むように生にしがみつき始めた。
これを火がつくと例えるのも妥当と思える。
近いうちに必ずまた会える。
わたしはそう確信している。
『心の灯火』
彼⸺彼女かもしれないし、そもそもそういう呼び方をするのは間違っているかもしれないが、ここでは彼としよう⸺は、初めから、恐らく招かれざる客である少女たちに対して、敵対する気はなかったのだろう。
彼が少女たちを、墓標に案内したのは、彼女ら帰還者だと判断したためなのだろうか。
彼は、たくさんいた仲間を少しずつ、少しずつ失いながら、ずっとこの場所を守ってきたのだ。
あの墓は、ここで暮らしたすべての命のあるものたち墓であってほしい。
少女たちが花を手向け、手を合わせることで、多くのものが救われることを願う。
『言葉はいらない、ただ…』