穏やかな日差しの午後、庭のガゼボでひとり本を開く。
それは、ずっと前からの習慣。
いえ、どちらかと言うと、願掛けなのかもしれない。
ここで待ち続けていれば、いつの日か、ここに現れるだろうという、願掛け。
人生にひとつくらい、どうにもならないことを、ばかみたいに信じ続けてもいいんじゃない。
『やわらかな光』
ここ自体には不満はあれど、あの場所を出たことには、後悔はしていない。
ひとつだけ、心残りがあるとすれば、まだ小さい孫にお別れを言わずじまいだったことだ。
いつか。遠い日のいつか。
また孫に会えたら、あのときのことを詫びようと思う。
今ごろは、そうさな、この人間くらいの年頃になってるころだろうな。
『巡り会えたら』
誰かに呼ばれている気がして、歩きだしてみた。
ここがどういう所なのかも、どこまで広がっているのかも、何一つわからない。
耳を澄ますと、かすかに水の音が聞こえてくる。
それは草すら生えていない砂まみれのこの世界で、確かに生命が息づいている証拠だった。
とても澄んだ、どこまでもきれいな水。
この世界の生命は、自らの命を燃やし、代々この水を守ってきているのだろうか。
自分たちがどれほど小さな存在なのか、見につまされる。
この世に生まれてはいけないものなどないのだ。
その意味が、それぞれによって違うだけで。
『声が聞こえる』
あの子とおれは、一心同体となっちまった。
あの子がおれをあわれんだからなんだろうが、何でだろうな。おれを助けることにあの子の利点はなかったはずだ。同情されたからとて、あの子がおれにそこまでする必要はなかったはずなんだ。
そのせいで、おれは囚われ、簡単には死ねなくなっちまったわけだ。
そしてそれは、あの子にとっても同じこと。
はたから見たら、面倒くさい関係だ。
仕方ないから、しばらくの間はあの子に協力してやる。
俺にかけられた呪いが解けるか、おれの命が燃え尽きるまで。
『命が燃え尽きるまで』
毎日、楽しいけれど、どこか何か足りないような気がしていた。
それは、この年の子どもにはまったく似つかわしくないこと⸺つまり、わたしは可愛くない子どもだったのかもしれないと今では思う。
しかしあの時あの場所で、わたしは何かに吸い寄せられ、そこへ向かったのだ。
何かに呼ばれた、という感覚のほうが正しいのかもしれない。
そこが水が流れる場所だというのは、少しオーバーサイズの靴がさらわれてから気がついた。
お母さんに怒られる!
幼いわたしは我にかえって、流れる靴を拾おうとした。
ずっと忘れていたこと。
⸺思い出したこと。
『きらめき』