ももく

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 歌を歌うことは、必要に迫られたから。

 ホテルには夜のバーが必要で、バーにはピアノが、そして歌がつきものだから。

 歌手を雇えば良かったって?

 ⸺そうかもしれない。けれど、自分で言うのもなんだけれど、こんなところにわざわざ歌いに来てくれる歌手がいるのかしら。

 そう言い訳をしながら、わたしは、そして周りもとっくに気がついてる。

 わたしが、夜はあのバーにいたいだけなのだと。
 夜にしか現れないあの人を待っているだけなのだ、と。

 今夜わたしが歌うのは、若き日の過ぎ去った恋の歌。その思い出を、ずっと胸の中にいだき続けているという歌。

 誰かさんは、ちっとも聞いていないんでしょうけど。


『歌』

5/25/2025, 1:30:09 AM