ももく

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 久しぶりに、夢を見た。

 今思えば、あの頃は、熱意があれば大抵のことはできると思っていたのだろう。

 若かったのだと言えば、聞こえはいいのかもしれない。

 しかし実際はただ思い合う恋人を引き裂いただけにすぎなかった。

 ずっと後悔していた。
 会えない悲しさや虚しさを、この、彼にも味わわせるべきではなかった。
 自分がその立場になって初めて気がついたのだ。
 一言で言えば、やはり「若かった」のかもしれない。
 
 そう思いはするのだが⸺。

 この、彼が呼び寄せる出会いもあった。
 自分と同じように、彼を気に入ってくれた少女に、心をくだくことができる。なかなかに楽しい体験だ。

 そのおかげだろうか、久しぶりにあの人の夢を見たのは。
 あの人の名前を口にすると、一気に当時のことが蘇った。
 忘れてはいない、忘れない。
 まだずっと待っている。
 だから⸺。



『君の名前を呼んだ日』

5/26/2025, 10:34:18 AM