基本的に何でもある都市だ。一言で言えば、都会、だ。
指先一つで希望が叶う便利さも、一夜にして大金が動くビジネスも、一方で、搾取され何かとともにすり減らす靴底も、泥まみれになりながらも何かを成そうとする野心も。基本的には、何でもありの、都市だ。
高層ビルの隙間から除く夜空は、暗く重く垂れ込めている。
高い煙突に飛行物の安全のために付けられているLEDが、空を彩る役割は我らだとばかりに、ゆっくりと瞬いている。
その赤い光に規則正しく横顔を照らされながら、男はただ、知らせを待っていた。
屋上の手すりは、梅雨のじっとりとした湿気と熱を帯び続けたまま、肘を置くにも適さないと知りながら、しかしほかにすることもなく、男は退屈を噛み殺す。
ヘリの音が少し遠くをのっそりと横切っていく。
あれに乗ってみたいと思ってた時もあったものだ。無邪気に、空高く飛んでみたい、と。
男の口元に自嘲の笑みがこぼれた。
男の懐が振動する。端末が合図を受信したようだ。
⸺行こう。
身の内の何かに呼びかけるように一度右手を握り、男は跳ぶ。
手すりの外側へ、そしてその先の、隣のビルからビルへ。
男の身体能力からすれば、造作もないことだ。
ヘリに乗るよりも、思い通りに動けるのは明白だ。
⸺とんでみて、どうだった?
少年の声が耳をかすめた気がした。
⸺悪くない。だが……
男はそこで言葉を切り、一瞬目を閉じる。
⸺人というものは、知ってしまうと、その前には戻れぬものなのだ。
『空はこんなにも』
6/24/2025, 11:11:24 AM