夜間

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12/15/2025, 12:51:32 PM

明日への光



鏡を見ると、自分だろうかと疑問に思う。

俺はこんなにも、自信が無さそうに見えているのかと。もう少しだけでも自信家のように見えていて欲しい。

『お前はもう、自信家だろ』

きっと誰に聞いても、こう返してくる。

そうじゃない。そうじゃなくて、どうしてこんなにも瞳の奥が辛そうなのだろうか?

「俺様は……おれ、は」

段々と鏡の中の自分の顔が崩れていくのがわかる。幻覚であって欲しい。けれど、目眩よりも酷いなにかが、どんどんと俺のことを襲ってくる。

自分の顔に急いで水をかける。冷たい水のお陰で、崩れていくのは収まった。

「くまたん!」

「ん、あ、ああ、……爺さん、どうした」

「ローブ、忘れてるぞ」

自分の格好を見るために、鏡をもう一度だけ見る。

いつも羽織っているローブは、何故かなかった。その代わりに、禽次郎、爺さんの手元にそれはあった。

急いで駆けつけて、急いでローブを羽織る。そうしないと、さらに自信がなくなりそうだったから。

「……ありがとう」

目を合わせられずに、目を逸らした。しかし爺さんはそれを許してくれるかのように、俺の肩に手を乗せる。

恐る恐る爺さんの姿を見てみると、普段通りの若々しい、高校生の姿の爺さんだったのに、俺よりも年上のような余裕のある表情をしていた。

「じゃ、僕は帰るから」

何か言いたげではあったが、それを押し殺すようにして爺さん、禽次郎は去ろうとしていた。

「き、……爺さん!」

「ん?どうした?」

「今……俺は自信があるように見えるか?」

「ああ。そのローブがなくなって、くまたんはいつも自信に満ち溢れているな」

なんの間もなく、禽次郎はそう答える。

「大丈夫だ。自分を信じてみろ。きっと自分という存在が光になるさ」

そう言うと禽次郎は部屋から去っていった。

俺は急いで鏡の前に立つと、辛そうな瞳をしている自分でさえも自信の一部だと思えた。

右手を強く握り、鏡の自分を見る。

「……それで、それでいい」

ずっとそうしとけば、明日への光は途切れることはない。

そうだろ。

「そうだなあ。そうさ、俺様が誰よりも輝く光だ」

高々しく口角を上げて、自分に言い聞かせる。

11/27/2025, 11:43:32 AM

心の深呼吸




こういう時、何故自分がこんなにも弱いのかと思ってしまう。

落ち着こうにも落ち着く方法を知らなくて、苦しくなるのを待っているだけだ。

「斎藤、大丈夫か?」

「……」

無視している訳では無いのに、自分のことに手一杯になってしまって、どうも応えることが出来ない。

一人になりたいのか、誰かが隣にいて欲しいかすら自分には分からなくて、自分が他人のように感じてしまう。

「……左之助」

精一杯出した声から、俺は隣に誰かがいて欲しいのだと察する。きっとこうなってしまうのは、ストレスによるものなのだろう。

いつもそうだ。一人で抱え込みきれなくなって、勝手に辛くなる。段々と視界が狭くなって、何も見えなくなる。

「斎藤、心の為に深呼吸しろ」

『心の為』という意味がわからなかったが、きっと左之助は俺よりも、人生というものに向き合ってきた時間が長い。だから、俺よりも知っていることが多いはずだ。

左之助に続くように、俺は深呼吸をする。

その時間はとてもゆっくりなようで早く、俺の心に印象づいた。

時間が過ぎた後、俺は何処か心が軽くなったような気がしたのを感じた。視界が広いような気がした。

「……ありがとう、左之助」

「いいんだ。俺もそんなことたまにあるから、解決する方法を知ってるってだけだ」

左之助にも弱い部分があるのだと、やはり人間なのだと実感することが出来た。

俺にとって左之助は、とても強い人間で、尊敬する人だ。だからといって、弱い部分があってはならないという訳ではない。

むしろ、弱い部分があってからこそ、強い部分が輝く。

「何故、あんな方法を知っている?」

左之助は寒く孤独な夜を覗きながら、口角を上げる。

「心ってのは、良い事も悪い事も、全て糊みてえに貼っちまうんだ。だけど、心の深呼吸をして、自分の胸の内を静かにすると、一度リセットされる」

「心の、深呼吸」

「そうだ。覚えとけ。お前は方法を知らないってだけで、解決しようと頑張ってんだ」

中が空っぽな人間と、善人である人間は、どちらの方が純粋と言えるだろうか。

心の深呼吸、それは自分を見つめ直す時間を強制的に作り、自分の心を強くすること。

「誰かがこのことを教えてくれたのか?」

そう言うと左之助は、俺の元へやってきて背中を力強く叩く。

「考えたんだよ。何時間もかけてな」

「……そうか」

俺は他人に教えられて、やっと分かるような構造をしている人間なのだろう。

だが、それでもいいのだと、左之助が教えてくれたような気がした。

11/23/2025, 1:39:25 PM

手放した時間




他人に尽くすと、それは自分の時間を手放したと言える。

それは果たしていい事なのか、自分には分からなかった。悪いことだったとしても、その理由を説明することは俺には出来ない。

家族の時間なんかそうだ。きっと俺は、家族に尽くしたと言える。否、その言い方でしか関わることが出来なかったのかもしれない。

ずっと本音を殺して、居場所を作っていた。

辛いだなんて言葉、口にすることなんて相当なことがあったとしても、不可能だった。

その手放した、手放してしまった時間は、家族が居なくなったことによって埋めることは出来るのだろうか。

「何してんだ、そんなところで」

「あ、ああ……すまない」

左之助は、先程まで屯所の掃除をしていたのだろう。俺が邪魔だったのか、箒でこれの足を優しく叩いた。

この問題は、誰にも伝える必要のない自分の問題なのだ。

何時もみたいに、左之助に解決してもらう訳にはいかないだろう。

しかしその想いも虚しく、勘づいてしまった左之助がおれに話しかけてきた。

「どうした?なんだ、いつもの考え事か?」

どう答えればいいのか、分からなかった。これは、左之助に話してもいいものなのだろうか。

「……聞いて、くれるか」

考えがまとまっていないのに、言葉になってそれは現れた。やはり、俺は誰かに自分の悩みを伝えたい。

そうすれば、左之助が助けてくれるから。

左之助は柔らかい笑顔を見せて、俺の隣に座った。

「勿論だ」

「俺は、家族に使った時間を取り戻したいんだ。……手放してしまった、あの時間を」

多分、この悩みは左之助は無縁の存在だ。俺が、俺の環境がおかしかっただけだとは、充分に承知している。

だが、左之助は自分事のように考えてくれた。

「そうだなあ、でも、それがなかったら今のお前はいないだろ?」

「だが__」

俺が言葉を発する前に、俺の肩を大きな音を立てて叩く。その左之助は、何処か悲しそうだった。

「ああ、分かる。そんな思い出したくもない記憶、無くしたいし、無駄にしたと思う。」

「……左之助」

「どうした?」

「今、こうしているより俺は、刀を交えたい」

刀だって、きっとあの家族ではなかったら使うことなんてなかった。

しかし、その刀は今では言葉となった。刀を交わすことで、俺は会話をすることが出来る。

左之助は立ち上がって、俺に木刀を投付ける。

「かかってこいよ」

挑発するように左之助は、俺に向かって指を指す。

考えていることも、俺にとっては手放した時間であると、ハッとした。

それは、左之助に伝えると答えがすぐに帰ってきたからだ。ならば、俺が迷っている必要は無い。

今大切なのは、過去の鎖を見つめるより、目の前の光を見ることだ。

「ああ、勿論」

泥沼になんか嵌らない。俺は、土を歩いて自分の足跡をつける。

手放した時間は、もう戻ってこない。ならば、これから手放さなければいい話だ。

11/21/2025, 10:21:51 AM

夢の断片




きっと幸せになりたかった自分が居て。

けれどそれはもう、幻想になってしまっていた。

自分の脈拍が段々となくなっていくのが何故か、よく分かってしまった。

死ぬ時はせめて、誰かが隣にいて欲しいものであるが、俺の隣には誰も居ない。

夢というものは追えば追うほど大きくなり、叶いにくくなる、ような気がする。

俺の夢はなんだっただろう。

きっと、ただ従って、刀を振り回して幕府を救うとか、そんな物騒なものではなかった筈だ。

もっとこう、自分の畑を持つとか。仲間と楽しく過ごすとか、そんなちっぽけなものだった気がする。

かつて見たはずの近い夢というものは、遠い未来へと変わっていった。それはもう、実現できないほどに。

「はあ……」

最後の力を振り絞って腕を伸ばしては見たものの、案の定そこには何も無かった。

ただ大粒の雨が、俺の身体に痛い程にのしかかって。冷たい、寒い、そう感じていた。

最後に誰かいれば、俺の夢を託せたのに。

そう、願ってしまったからだろうか。遠くから走って来るような音が聞こえてきた。

「左之助!左之助、大丈夫か?」

「……斎藤、か」

「ああ、そうだ。左之助……」

どこか悟ってしまったように俺の名前を呼び続ける斎藤も、深い傷を負っていた。

この世界というものは、何故こんなにも純粋な奴を傷つけるのが好きなのだろう。

しかし、この機にコイツには、俺の夢を託そう。

「斎藤……」

「どうした、左之助」

「お前は、幸せに……生きろよ」

「左之助……なんで」

力一杯笑顔を見せた。もう意識が朦朧としてきた。

もう何分も経たずに俺は死ぬだろう。斎藤に夢を託せたのに、心には夢の断片が残っている感覚だ。

だが、今更後悔したって遅い。来世は、また斎藤と一緒に過ごせたらいいと思う。

今はそう願って、俺は目を閉じた。

11/14/2025, 2:00:05 PM

ささやかな約束




寒い日には、暖かい蕎麦を食べるのが一番だ。

「左之助、ありがとう」

「え?なにが?」

斎藤は空になった器を座っていた場所に置いて、去っていってしまった。

『ありがとう』と意味が分かった。コイツは、金を払っていない。自分が食べた分は置いておけばいいのに、自分勝手な奴だ。

「はあ……」

仕方なく払い、屯所へと戻る。勝手な外出であり、勝手な出費は御法度であるものの、いつも見て見ぬふりをしてくれているのは感謝している。

だがしかし、いつ怒られるのかなんて分かったものではない。それでも俺は、蕎麦を食べることをやめない。

屯所に戻ると斎藤が居た。任務という訳でもなく、ただ払ってもらいたいから早く帰ったのだろうか。

「斎藤、払えよ」

「……左之助も、自分の金じゃないだろ」

「感謝とかしろよ」

「したな」

そういえば去る前、ありがとうと言われた気がする。何とずる賢い奴だ。こんな奴に賢いなんて言葉を使いたくないほどに。

暫くして、時間は夜になっていた。今日は、見回りの日だった。

何時も俺は斎藤と共に見回りをしている。信用しているからだ。あんな適当な奴でも、やる時はやる。

「俺はもっとちゃんと感謝して欲しかったな〜」

「……」

相変わらず無口なコイツは、何を考えているのかが分からない。唯一分かることといえば、コイツは寒がりということだ。

最近は一段と冷えるような夜が続いている。そのせいだろうか。斎藤の耳と鼻が赤く染まっていた。

「寒いな、今日は」

「……寒い」

明らかに寒そうにしている斎藤を見て、なにかしてやるべきだとは思った。自分の着ている羽織をかけてやるべきだろうか。

自分は考えるよりも行動に移す奴だろう。なら、それをしてやればいい。

俺は自分の羽織を斎藤に渡す。

「使えよ。……寒いんだろ」

「……ありがとう」

素直に礼を言う斎藤は、すぐに俺の羽織を重ね着した。元々暖かそうだった姿は、更に暖かくなっていった。

一方で俺は、袖なしを着ているせいか、肌に直接風が触れて鳥肌が立っていた。

「は〜…やべえな」

「すまないな」

「いや、いい。斎藤の方が寒そうだったからな」

そのまま俺達は、見回りを再開した。いつものように沈黙が漂っていたが、それは信頼によるものだと俺たちは知っている。

何時間経っただろうか。夜更けになり更に寒さが増す。

動いているからそこまで支障はないが、客観的に見れば大分ヤバい奴なのは分かった。

「……左之助」

羽織を脱ぎ、俺に渡しながら斎藤は話しかけた。

「どうした?」

「また、一緒に蕎麦を食べてくれるか」

「いいが、急にそんなこと言うんだな」

優しく微笑むと、斎藤も応えるように優しく微笑んだ。

「今度は、……一緒に帰りたくて」

俺はかなり直接的な表現をしてくる斎藤の言葉遣いが、得意ではない。

意味が直接伝わりすぎて、なんだか恥ずかしくなってしまう。

「そうか」

「それに、こういうささやかな約束をしていた方が借りも返しやすいからな」

白い息が出ない程度の外の寒さの中、俺は口を大きく開けて笑う。

「気にしてんのか。別にいいのに」

斎藤は刀に右腕を置いて、静かに笑う。

「お前には借りが二つ、あるからな」

多分コイツは、人と一緒にいるのに理由を見つけようとしている。

そんなことをしなくたって、俺はお前の隣にいるのに。

「……そうか。じゃあ、早めに返せよ」

斎藤は空を見上げる。釣られて、空を見上げてみると曇っているからか、月がぼやけて見えていた。

「ああ、分かった」

ささやかな約束、それは人を繋ぐためにあるのかもしれない。

俺たちは屯所へと戻る。

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