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心の深呼吸




こういう時、何故自分がこんなにも弱いのかと思ってしまう。

落ち着こうにも落ち着く方法を知らなくて、苦しくなるのを待っているだけだ。

「斎藤、大丈夫か?」

「……」

無視している訳では無いのに、自分のことに手一杯になってしまって、どうも応えることが出来ない。

一人になりたいのか、誰かが隣にいて欲しいかすら自分には分からなくて、自分が他人のように感じてしまう。

「……左之助」

精一杯出した声から、俺は隣に誰かがいて欲しいのだと察する。きっとこうなってしまうのは、ストレスによるものなのだろう。

いつもそうだ。一人で抱え込みきれなくなって、勝手に辛くなる。段々と視界が狭くなって、何も見えなくなる。

「斎藤、心の為に深呼吸しろ」

『心の為』という意味がわからなかったが、きっと左之助は俺よりも、人生というものに向き合ってきた時間が長い。だから、俺よりも知っていることが多いはずだ。

左之助に続くように、俺は深呼吸をする。

その時間はとてもゆっくりなようで早く、俺の心に印象づいた。

時間が過ぎた後、俺は何処か心が軽くなったような気がしたのを感じた。視界が広いような気がした。

「……ありがとう、左之助」

「いいんだ。俺もそんなことたまにあるから、解決する方法を知ってるってだけだ」

左之助にも弱い部分があるのだと、やはり人間なのだと実感することが出来た。

俺にとって左之助は、とても強い人間で、尊敬する人だ。だからといって、弱い部分があってはならないという訳ではない。

むしろ、弱い部分があってからこそ、強い部分が輝く。

「何故、あんな方法を知っている?」

左之助は寒く孤独な夜を覗きながら、口角を上げる。

「心ってのは、良い事も悪い事も、全て糊みてえに貼っちまうんだ。だけど、心の深呼吸をして、自分の胸の内を静かにすると、一度リセットされる」

「心の、深呼吸」

「そうだ。覚えとけ。お前は方法を知らないってだけで、解決しようと頑張ってんだ」

中が空っぽな人間と、善人である人間は、どちらの方が純粋と言えるだろうか。

心の深呼吸、それは自分を見つめ直す時間を強制的に作り、自分の心を強くすること。

「誰かがこのことを教えてくれたのか?」

そう言うと左之助は、俺の元へやってきて背中を力強く叩く。

「考えたんだよ。何時間もかけてな」

「……そうか」

俺は他人に教えられて、やっと分かるような構造をしている人間なのだろう。

だが、それでもいいのだと、左之助が教えてくれたような気がした。

11/27/2025, 11:43:32 AM