夢の断片
きっと幸せになりたかった自分が居て。
けれどそれはもう、幻想になってしまっていた。
自分の脈拍が段々となくなっていくのが何故か、よく分かってしまった。
死ぬ時はせめて、誰かが隣にいて欲しいものであるが、俺の隣には誰も居ない。
夢というものは追えば追うほど大きくなり、叶いにくくなる、ような気がする。
俺の夢はなんだっただろう。
きっと、ただ従って、刀を振り回して幕府を救うとか、そんな物騒なものではなかった筈だ。
もっとこう、自分の畑を持つとか。仲間と楽しく過ごすとか、そんなちっぽけなものだった気がする。
かつて見たはずの近い夢というものは、遠い未来へと変わっていった。それはもう、実現できないほどに。
「はあ……」
最後の力を振り絞って腕を伸ばしては見たものの、案の定そこには何も無かった。
ただ大粒の雨が、俺の身体に痛い程にのしかかって。冷たい、寒い、そう感じていた。
最後に誰かいれば、俺の夢を託せたのに。
そう、願ってしまったからだろうか。遠くから走って来るような音が聞こえてきた。
「左之助!左之助、大丈夫か?」
「……斎藤、か」
「ああ、そうだ。左之助……」
どこか悟ってしまったように俺の名前を呼び続ける斎藤も、深い傷を負っていた。
この世界というものは、何故こんなにも純粋な奴を傷つけるのが好きなのだろう。
しかし、この機にコイツには、俺の夢を託そう。
「斎藤……」
「どうした、左之助」
「お前は、幸せに……生きろよ」
「左之助……なんで」
力一杯笑顔を見せた。もう意識が朦朧としてきた。
もう何分も経たずに俺は死ぬだろう。斎藤に夢を託せたのに、心には夢の断片が残っている感覚だ。
だが、今更後悔したって遅い。来世は、また斎藤と一緒に過ごせたらいいと思う。
今はそう願って、俺は目を閉じた。
11/21/2025, 10:21:51 AM