なめくじ

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6/12/2024, 3:54:06 PM

幼い頃から正しい愛情を向けられなかった私は、
どうやら愛の価値観を違えてしまったらしい。

父は人に興味を持たぬ人で、
母はそんな人と一度だけ過ちを犯し、私を産んだ。
父は母にも私にも関心を向けることなど無く、
母は私を居ないものとして扱った。

好きの反対は嫌いではなく無関心。

私に食べ物の好き嫌いは無い。
それは、私が食に関心を持たないことを意味する。
つまりは、好きも嫌いも関心を持つが故の感情だ。

私を嫌いになれないのなら、どうか好いてくれ。
私を好きになれないのなら、いっそ嫌ってくれ。

無関心が何より恐ろしいものだと、私は知っている。

6/5/2024, 5:29:33 PM

淑女たるもの、秘密は多ければ多いほど魅力的。
だから今日も、口癖となった言葉を発する。

「これは、貴方と私だけの秘密ですよ。」



周りの紳士は皆、神秘的な私に夢を見る。
知らないことには興味を持ち、興味は後に好意となる。
故に、自分自身を晒してはならない。
彼らの好奇心を満たしてはならない。
秘密にしなければ、秘密をつくらなければならない。
そうでもしないと、ただの私では好いてもらえない。

だというのに、私には大した秘密なんてない。
そこらの乙女と何ら変わらぬ、平凡な生娘だ。
これこそが、私の一番であり唯一である秘密。
私が私でいるために、隠さねばならない事実。
皆に愛されるために、演じなければならない。

謎多き淑女を騙るために、今日も私は嘘を吐く。

「これだけは、誰にも言えない秘密なのです。」

6/3/2024, 6:06:55 PM

君を一番理解しているのは僕だと思ってた。
冷たい眼差しに見えるその瞳はすぐに涙を零すし、
滅多に開かないその口は意外と強い毒を吐く。
高嶺の花だと敬遠されている君は、
案外抜けているし、よく笑う。
神のように崇拝されている君は、
誰も知らないだけで、誰よりも人間らしい。

僕だけが君のことを知っている。理解している。
それがなんだか、どうしようもなく嬉しかった。

僕は愚かにも、君の全てを理解した気になっていた。

君は僕の知らない笑顔を、知らない人に向けていた。
なんだその顔。誰だその人。僕は何も知らなかった。
胸の奥が嫌な音を立てた。酷く痛んだ。
思わず視界が滲む。

この感覚は、知っている。失恋だ。
君への想いは、優越感なんかじゃなかった。

「僕、君が好きだったんだ。」

6/3/2024, 2:58:37 AM

正直に言おう。僕は君のことが嫌いだ。
素直で、嘘が下手くそで、周りに好かれている。
そんな君が、大嫌いだ。

人の顔をよく見て、空気をこれでもかと読んで。
他人の好き嫌いは暗記して、常に笑顔を絶やさず。
周りの目をずっと気にして生きていた。
誰にも本音を吐けず、さらけ出せなくて。
自分を殺して、相手を思いやる事に全力を尽くす。
誰の為に生きているのか、分からなくなっていた。

君の嘘偽りない笑顔を見ると、
嘘で塗り固まった僕が、愚かしく思えて。
君の心からの称賛を聞くと、
胸の奥が酷く抉られたように痛んで。
君の曇りなき瞳に映る僕は、
何よりも醜い化け物に見えるんだ。

君を見る度に妬んでしまう。
そんな僕が、本当に惨めで。

それなのに、君は僕に向かって言うんだ。
「正直になりなよ。」

腹が立ったよ。煮えくり返りそうだった。
こっちの気も知らないで、
よくも軽々しく言ってくれたなって。
思わず怒鳴ってしまいそうになった。

でも思い返せば、自分のこと誰にも話せてなかった。
そりゃあ、僕の気持ちなんて知ったこっちゃないか。

君とはきっと分かり合えない。
人の顔色を伺わずにはいられないし、
偽物の笑顔は治りそうもない。
何度だって君を妬むし、羨んで、憎んでしまう。

それでも、君には僕を知って欲しいと思ったんだ。

君にだけは正直になろう。
僕は君のことが大嫌いだ。

なんだか、心が晴れた気がした。

5/31/2024, 12:58:11 PM

君は私を純真無垢な少女と、
信じて疑わないのだろう。
私がこんなにもどす黒い感情で、
君と接しているというのに。
君はいつだって私を生まれたての赤子のように、
真っ白な画用紙かのように、
綺麗なものだけをこの目に映し、
美しいものだけを身に付けさせた。

君は思いもしないのだろう。
私が独占欲と嫉妬心に溺れていることを。
綺麗なものをどれだけ映しても、
この瞳が穢れを忘れることはなく。
美しいものを纏ったこの身には、
二度と消えることのない醜い傷が幾つもある。
君は何度も私の体の傷を見ては、辛そうな顔をする。
その顔をずっと見ていたくて、傷は増えてゆくばかり。

きっと君が気付くことは無いのだろう。
私がどれほど重く君を想っているか。
君は愛しいわが子を見つめるような瞳で私を捕らえる。
欲のない、私の想いとは違う愛情で、
私を見つめ苦しめるのだ。
その瞳が私を傷付けている事など、
君は知る由もないだろう。

君に見つめられる度に、私は君を恨んでしまう。
何故こんなにも愛しているのに、
私と同じ気持ちになってはくれないのか。
どんなに清らかな振りをしても、傷を増やしても、
君は慈愛に満ちた瞳を私に向ける。
それが酷く悲しくて、それでも愛してしまうのだ。

せめてその慈愛を、私だけのものに。
そう思ってしまう私は、既に穢れきっている。

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