たぬたぬちゃがま

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7/3/2025, 4:24:06 AM

きらきらきら。
光る宝石をかざして、にんまりと笑みが溢れる。
「綺麗ね、それ。」
「えへへ、この前お祭り行った時に買ってもらったんです。」
屋台のおもちゃだから高いものではない。おそらくガラス製だろう。しかし私にとっては大粒のダイヤモンドより価値があるように思えた。
ふと、宝石をそっと覗き込んでみる。
「あなたの未来が見えます…!」
「はいはい、占いごっこね。お昼どうする?」
いつもクールな友人は絶対にこういうのに乗ってきてくれない。知ってた。
「……銀水晶は一緒にA定食を頼めと言っています!」
「懐かしいわね、銀水晶。私がわかる人間でよかったわね。」
いつだってクールな友人はいなしつつも答えてくれる。こういう時、友達に恵まれたとしみじみ感じるのだ。


【クリスタル】

7/2/2025, 7:59:01 AM

夏、というものはワクワクするものだ。
「長期休みは冬にも春にもあるのに、なんか特別感あるんですよね!」
「そういうもん、か。」
「そうですよ!お祭り!花火!浴衣!楽しみ!!」
私の育ったところは新興住宅地で、お祭りはなかったんです。そう言ってしょんぼりしていた彼女にデートのお誘いをしたのが数日前。
満面の笑みを浮かべて楽しそうに歩く彼女。普段はおろしている髪をナチュラルアップのでうなじに思わず喉が鳴る。この邪な気持ちは絶対にバレたくない。
「りんごあめ!漫画で見たことあります!スプーンで割るって書いてありました!」
「祭りにスプーンは売ってねぇぞ。そのまま齧れ。」
ムゥ、と不満げにりんごあめを齧り、味が気に入ったらしくぱぁっと顔を明るくする彼女。コロコロと変わる姿がとても可愛らしい。
ふと、彼女がこちらの顔を見て口角をそっとあげた。
普段見ない浴衣に、髪型に、食べ物に、大人びた笑顔に耳が熱くなった。
彼女から湿った空気の匂いでも、屋台の食べ物の匂いでもない、どうしたって抗えないような甘い香りがした気がした。


【夏の匂い】

6/30/2025, 1:05:05 PM

「どーこだ!!」
可愛い声が自分を呼ぶ。部屋の中なんて隠れるところは限られるのに、小さい怪獣はそんなことを思いもしないのだろう。
「どこだ〜?風呂から上がったのに拭きもしないでかくれんぼを始めるボーヤは?」
妻から受け取った我が子を拭きあげ保湿剤を塗りパジャマを着せて髪を乾かす。このミッションは妻が風呂から出る前までにクリアしなければならない。
水滴と足跡が点々とリビングのカーテンに続いている。それを拭きながら少しずつカーテンに近づくが、無闇に近づいてもまた逃げられてしまう。ならば。
「あー、どこにいるんだ〜?パパがママに怒られていいのか〜?」
くすくす、と小さな笑い声がカーテンから溢れてくる。きっと自分の姿は見えてない、気づいてないと信じている姿が愛おしい。
「困ったなあ〜。これが早く終わったらママに内緒のことをしようと思ってたのにな〜。」
カーテンと床の間から見える小さな足が、そわそわとした動きをし始めた。しめしめ。
「……アイス食べても、いい?」
可愛らしい声が聞いてくる。
「ママには〜?」
「ないしょー!!!」
バッとカーテン裏から飛び出してきた我が子をバスタオルでキャッチすると、ガシガシと拭きあげる。タオルの中で怪獣はケラケラと笑った。
「パパ、アイス!!」
「保湿剤塗って、パジャマ着て、髪の毛乾かしてから!!」
「多いよ!!ママ来ちゃう!!」
「そうだな、急げ急げ!」
きっと間に合わないだろう。湯船に浸かる際にに奏でられる妻の歌声が聞こえてしばらく経つから、そろそろ出る準備をしているはずだ。
見つかってもそれでいい。2人で怒られて、3人で笑って、特別だよと言って、家族でみんなでアイスを食べよう。
俺は本気で間に合うと信じている我が子の必死な顔が愛おしくて仕方なかった。


【カーテン】

6/30/2025, 7:41:40 AM



「青い目なんですね。」
そう言われて振り返ると、彼女にまじまじと見つめられた。
「空のような青。水色っていうより、青空色ですね!」
ふんふん、と鼻息を荒くしても可愛いと思ってしまう俺は、そうとう首っ丈なんだと自覚する。
「俺の目が空なら、お前の目はなんだ?」
「……葉っぱ?」
「安直だな。」
ぷーっと口を膨らませる彼女が可愛くて可愛くて、ついニヤけてしまう顔を見られないよう、彼女の頭をがしがしと撫でて誤魔化す。
「もう!子供扱いしないでください!」
彼女の抗議も可愛い。なんでこんなに可愛い。
どこにも見せたくないと思うのは、俺の贔屓目なんだろうか。

——————

彼の目は綺麗だ。
でもふとした瞬間、ふと吸い込まれるような感覚になる。動けず、逃げられず、でも、居心地はいい。
そんな不思議な感覚に。


【青く深く】

6/29/2025, 1:16:30 AM

「くるくるが暴れる季節になってきた。」
彼女は顔をしかめて鏡を睨んでいる。
「寝起きはいつでも大暴れだろ。」
「そっちは暴れないくらい短髪にできるけど、こっちはできないの!あぁ、もう直らない…!!」
スプレーとドライヤーを持ち替えながら櫛で整えようとするが、くるくるは手強いらしく悔しそうな金切り声が時折聞こえてくる。
「今日は休みなんだし、ほどほどにしてこっちこいよ。」
「えー!でかけないの!?」
「昼から雨だよ。ほら、貸してみろ。」
素直に渡された櫛で、彼女の髪を解かしていく。憎らしげに語られる髪だが、俺にとってはふわふわで愛おしく感じる髪だった。
髪に鼻を押し付け、彼女の香りを堪能するべく吸う。直前まで使っていたスプレーと彼女の香りが混ざってクラクラする。その行為に、彼女がぶるっと肩を振るわせた。
「ねぇ……髪フェチなの?」
「……お前の癖っ毛は好きだよ。」
くるくると踊る髪は、もうすぐ来る季節を告げていた。


【夏の気配】

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