夏、というものはワクワクするものだ。
「長期休みは冬にも春にもあるのに、なんか特別感あるんですよね!」
「そういうもん、か。」
「そうですよ!お祭り!花火!浴衣!楽しみ!!」
私の育ったところは新興住宅地で、お祭りはなかったんです。そう言ってしょんぼりしていた彼女にデートのお誘いをしたのが数日前。
満面の笑みを浮かべて楽しそうに歩く彼女。普段はおろしている髪をナチュラルアップのでうなじに思わず喉が鳴る。この邪な気持ちは絶対にバレたくない。
「りんごあめ!漫画で見たことあります!スプーンで割るって書いてありました!」
「祭りにスプーンは売ってねぇぞ。そのまま齧れ。」
ムゥ、と不満げにりんごあめを齧り、味が気に入ったらしくぱぁっと顔を明るくする彼女。コロコロと変わる姿がとても可愛らしい。
ふと、彼女がこちらの顔を見て口角をそっとあげた。
普段見ない浴衣に、髪型に、食べ物に、大人びた笑顔に耳が熱くなった。
彼女から湿った空気の匂いでも、屋台の食べ物の匂いでもない、どうしたって抗えないような甘い香りがした気がした。
【夏の匂い】
7/2/2025, 7:59:01 AM