たぬたぬちゃがま

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「くるくるが暴れる季節になってきた。」
彼女は顔をしかめて鏡を睨んでいる。
「寝起きはいつでも大暴れだろ。」
「そっちは暴れないくらい短髪にできるけど、こっちはできないの!あぁ、もう直らない…!!」
スプレーとドライヤーを持ち替えながら櫛で整えようとするが、くるくるは手強いらしく悔しそうな金切り声が時折聞こえてくる。
「今日は休みなんだし、ほどほどにしてこっちこいよ。」
「えー!でかけないの!?」
「昼から雨だよ。ほら、貸してみろ。」
素直に渡された櫛で、彼女の髪を解かしていく。憎らしげに語られる髪だが、俺にとってはふわふわで愛おしく感じる髪だった。
髪に鼻を押し付け、彼女の香りを堪能するべく吸う。直前まで使っていたスプレーと彼女の香りが混ざってクラクラする。その行為に、彼女がぶるっと肩を振るわせた。
「ねぇ……髪フェチなの?」
「……お前の癖っ毛は好きだよ。」
くるくると踊る髪は、もうすぐ来る季節を告げていた。


【夏の気配】

6/29/2025, 1:16:30 AM