「これはぬいといいます。」
「ぬい」
「こっちはお着替え用の服です」
「お着替え」
「ここをこうして…はい!どうですか!かわいいですか!!」
「うん、かわ、いい…?」
滅多に自分のことを話さない彼女から、部屋にお誘いをもらったのが数時間前。やっとお許しをもらったこと。何があっても内緒だよ、と囁く彼女にときめいた。
そして部屋から出してきたのは、可愛らしいぬいぐるみだったのだ。
「私、ぬい活してるの。」
「ぬい活」
「お着替えしたり、写真撮ったり!かわいいの!」
可愛いのはあなたです。
思わず言いかけて口を手で押さえる。
「だからね、一緒にぬい活…しない?」
「ぬい活…」
「海の写真撮りたいから、そっちの方に一緒に」
「行く!!絶対行く!!!!」
ぬい活の延長でもいい。彼女がぬいに心酔していてもいい。生身は俺だけなのだ。
「えへへ。たのしみ。」
この笑顔といられるなら、どんな活も一緒に楽しめる!
俺は彼女が好きだから!!
【まだ見ぬ世界へ!】
かひゅ、
言葉にもならない、音と表現するのが正しい声だった。
爆風を顔面に浴びてまだ思考できるのは、はたして幸せなのか、不幸なのか。
指一本、声ひとつ出せないこの状況はきっと不幸なのだろう。
人間という生き物は、死の間際に走馬灯を見る。それは過去に起こった出来事を片っ端から思い出して起死回生を図るためらしい。この状況からできる起死回生などあるのだろうか。
あぁ、こうも思い出すのは、君の声ばかりで。起死回生もあったもんじゃない。
その場を支配している爆音と爆風は、もうしなかった。
「かえりてぇ…」
情けないな、と思ってしまった。
【最後の声】
「あお。」
屋上で見上げながら、ふと呟いた。
なんのことやら、と君はこっちを見る。
「君には白が似合うと思う。」
「なんの話?」
白。しろ。シロ。ふと純白のウェディングドレスを思いついた僕はやましいんだと思う。
「また自分の世界に入る…」
やれやれと言わんばかりに君は僕の隣で漫画を読む。
「僕は青が似合うと思う。」
「はいはい。」
だってお揃いの色だから。
誰もが認める、セットの色。
「えへへ。」
「はいはい。」
君と見上げる空の色。
全てをきっと、受け入れてくれる。だって。
【空はこんなにも】