「どーこだ!!」
可愛い声が自分を呼ぶ。部屋の中なんて隠れるところは限られるのに、小さい怪獣はそんなことを思いもしないのだろう。
「どこだ〜?風呂から上がったのに拭きもしないでかくれんぼを始めるボーヤは?」
妻から受け取った我が子を拭きあげ保湿剤を塗りパジャマを着せて髪を乾かす。このミッションは妻が風呂から出る前までにクリアしなければならない。
水滴と足跡が点々とリビングのカーテンに続いている。それを拭きながら少しずつカーテンに近づくが、無闇に近づいてもまた逃げられてしまう。ならば。
「あー、どこにいるんだ〜?パパがママに怒られていいのか〜?」
くすくす、と小さな笑い声がカーテンから溢れてくる。きっと自分の姿は見えてない、気づいてないと信じている姿が愛おしい。
「困ったなあ〜。これが早く終わったらママに内緒のことをしようと思ってたのにな〜。」
カーテンと床の間から見える小さな足が、そわそわとした動きをし始めた。しめしめ。
「……アイス食べても、いい?」
可愛らしい声が聞いてくる。
「ママには〜?」
「ないしょー!!!」
バッとカーテン裏から飛び出してきた我が子をバスタオルでキャッチすると、ガシガシと拭きあげる。タオルの中で怪獣はケラケラと笑った。
「パパ、アイス!!」
「保湿剤塗って、パジャマ着て、髪の毛乾かしてから!!」
「多いよ!!ママ来ちゃう!!」
「そうだな、急げ急げ!」
きっと間に合わないだろう。湯船に浸かる際にに奏でられる妻の歌声が聞こえてしばらく経つから、そろそろ出る準備をしているはずだ。
見つかってもそれでいい。2人で怒られて、3人で笑って、特別だよと言って、家族でみんなでアイスを食べよう。
俺は本気で間に合うと信じている我が子の必死な顔が愛おしくて仕方なかった。
【カーテン】
6/30/2025, 1:05:05 PM