『誇らしさ』
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過呼吸描写があります。
トラウマな方は読まず、そのままスワイプを続けるのを推奨します。
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「私は、すごいんだ」
平日の朝九時。
通常なら学校へ行っている学生の私は、今日も鏡とにらめっこをしながらおまじないを唱える。
「私はすごいんだ。あんな奴らより、強くて、逞しくて」
ブサイクながらの誇らしい顔で何度も何度も、そう唱える。
「それに頭もいいんだ。アイツらより、完璧な人生を歩んでいるんだ……なんでも知っているんだ」
まるで、弱い人間が偽りの強さを被るかのように、何度も何度もそう唱える。
言の葉が尽きるまで、何度も、何度も。
そうすればきっと、いつかは強くなる。いつかは、学校へ行ける。そう、いつかは。
「……いつかは、きっと……必ず……学校へ……」
声が震える。下瞼が熱くなる。
誇らしかった顔が、ぐしゃぐしゃになっていく。
大丈夫、大丈夫。私は強い。
声で、心で、言葉で何度も詐欺をかける。
この詐欺がどこからかの指示なんて分からない。とにかく、誇らしげに、弱さを隠しながら、「私は強い」という詐欺を私のどこかにかける。
「いつか、は、学校へ、行ける、から……」
呼吸が上がっていく。
「だい、じょうぶ、だい、じょう、ぶ……」
息が上手くできない。
苦しい、思うように息が吸えない、吐けない。
息しないと、息しないと。死んじゃう。
私、強いのに、死んだらダメなのに。
苦しい、苦しいよ。
息しないと、あれ、息ってどうやるんだっけ、分かんない、えっと。
あれ、視界が暗くて、誰か。
「ーーっ!!」
あれ……お母さん……?
あ、お母さんだ……。
お母さんが見えて、私は安心したんだろう。
そのまま意識を手放した。
『もしもタイムマシンがあったなら』
テレビに写っているアニメで、ふと、「タイムマシンがあったら俺は何がしたい」という自分に対する疑問を抱いた。
タイムマシンがあったなら俺は何がしたいんだろう。
過去に行きたい?未来に行きたい?
どっちなんだろう。
あるアニメが流れるテレビを他所に、俺はその疑問について頭を回転させた。その間は天井を見たり、歩き回ったり、テレビを見たりと、とにかく動いている。
「タイムマシンかぁ……」
特に、過去で大きなヤラカシをしたというわけでもなければ未来に不安を抱いているわけでも、未来を見たいわけでもない。
それくらい、平凡で何事もなく生きてきた俺にとってはタイムマシンなんていらないもの。
だけど好奇心で、いらないものだけれどタイムマシンには乗ってみたい。なんていう人間によくある願望を抱く。
するとーー……なんて、都合のいいことは起きない。
「まぁ……俺にとってはいらないな」
呆れたような言葉を吐いて、俺はテレビをもう一回見る。
するとまた、テレビにはタイムマシンのシーンが流れている。
END
『遠い日の記憶』
誰だったか、私には忘れてはいけない人がいる。
でも誰だか思い出せない。忘れてはいけないはずなのに。
スマホのアルバムを見ても、思い出深いものを見ても、母に誰だか訊ねても、何をどうしても思い出せない。
本当に誰だっけ。
モヤモヤとした想いを抱えながら日々過ごしているとある日、テレビからとある名前が耳に入ってきた。
その名前は耳によく馴染んだ。初聞きではないと、聞いた瞬間に聞き覚えのある名前だと分かった。
私はすぐにその名前をメモした。そして、スマホで手当り次第調べ始める。
すると、調べ出てきたのは犯罪事件の内容ばかりだった。
私の胸がドキリと大きく鼓動した。
バクバクと、激しい脈を打つ心臓。
私は恐る恐る、ネット記事をクリックした。すると、顔写真が出てきて私は顔写真をじっくりと見た。
誰かに似ている、誰かの幼少期の顔にその顔は似ていた。
ということはつまり、幼少期の誰かだ。
私は自分の部屋に戻り、幼稚園の卒業アルバムを探した。
私は卒業アルバムを見つけるや否や、すぐさまページを捲った。
そして、見覚えのある、顔写真の面影と一致している子を見つけた。
あぁ、この子だ。そうだ。この子だった。この子なんだ。
「見つけた。思い出した。この子だ。そうだ、この子なんだ。この子……なんだ」
私は失望を感じた。
幼少期で事故に巻き込まれ、死にそうと思った時に私を骨折程度に済ませてくれた子なのに、なんで事件なんか犯して。犯罪なんかを犯してるのかと。失望をした。
この子を探し続けていたのに。
この子は私が入院している時に転園してしまったから感謝を言えなかった。
感謝を言いたくて、命の恩人に会いたくて、ずっと探していたのに。なんで、犯罪なんてーーーー。
私はこの日、遠い日の記憶にある命の恩人の子に失望をした。
『終わりにしよう』
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殺人描写が含まれます。
苦手な方は読まず、飛ばすのを推奨します。
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「ねぇ、あなた。そろそろ終わりにしましょう。こんな事やっても、あの子は帰ってこないわ」
「うるさい。お前は黙って俺の言うことを聞いていればいいんだ……早く、次行くぞ」
妻を置いて、素早く次の所へと歩いていく夫の姿。
その姿を見届ける妻の表情は闇に満ちた表情で、夫にも呆れているようだった。
妻は夫の後ろを素早く着いていく。
そんな妻の姿はまるで、人間の形をした犬のよう。
「……てめぇら、俺の息子を知らねぇか!?」
ドアを蹴り飛ばしながらそう言う夫。
突然と現れた、不良のような夫に家で裕福に、幸せに暮らしていた家族は怯え立つ。
「な、なんだお前!!いきなり入ってきて!!」
「は、早く出ていかなきゃけ、警察呼ぶわよ!!」
「俺の息子を知らねぇかって聞いてんだ!」
怒鳴り散らかされる夫の声と、怯えた大声が夜中の街に響き渡る。これでは夫が捕まるとでも思ったのか、妻は空いている扉を閉め、室内に家族と夫と自身を閉じ込める。
そして、腰に潜めていた殺人用の包丁を取り出し人質にするかのように家族の一人の首元へと包丁を突き出した。
「ひ、ひえぁっ……!?」
「っあ、あなた……!!」
「……私たちの子供の在処を教えなければ、殺す」
そんな脅し文句を家族に妻は言った。
それに対し、家族は「お前らの子供なんぞ知らない」と震えた声とともに言い放った。
「よし」という夫の声が聞こえた瞬間、妻は家族の一人を殺した。壁や床に散らばる血痕と、家族の一人の悲鳴、バタッと人が倒れる音。
「……殺るの?」
「……」
妻の質問に、夫は答える間もなく悲鳴を上げていた一人を殺した。
夫婦の服には殺したであろう、返り血が着いており、とても外に出れそうにはなかった。が、夫婦はこの家にある羽織りものを羽織り、外に出た。
そして、妻が言った。
「ねぇ、あなた。そろそろ終わりにしましょう。こんな事やっても、あの子は帰ってこないわ」
『優越感、劣等感』
「おい、劣等生。そっちの気分はどーだー?」
溶岩や枯葉が風に流され、枯れ木や枯れ草が朽ちていく悪魔の巣窟と言われている地獄。
その地獄を見下ろし、悪魔を罵倒し嘲笑う天使達。
「……偽りの優等生、なんだよ。いきなり」
「ははっ、不名誉だなぁ、その二つ名」
あぁクソ、俺が悪魔じゃなければ、生前の行いが良ければ、アイツらを地獄にもっていけたのに。
クソ、クソ。生前の俺が憎い。
そんな劣等感に包まれるのを隠しながら、ある意味悪魔の奴らの話にのる。
「早く、仕事をしろよ。堕天使共め」
「堕天使って、まだ落ちてないんですけど〜?」
「それな〜」
「そちらはぼっちなんですか〜?」
ふつふつと沸いてくる怒りを堪えようと、俺は深呼吸をする。
深呼吸を終え、前を向き仕事を行う。
アイツらを相手してるなら早く仕事をした方が後に休憩できて楽だからな。
後ろの上から聞こえる「つまんねー」という飽きた声々に俺は勝ったと。少しの優越感を感じ、内心で「こっちの方が大人なんだよ。ガキが」とアイツらを嘲笑ってやった。