《誰かしら?》 【BL】
3/3お題
「うえっ!?」
俺は学校の靴箱を開けた瞬間驚きで固まった。
靴箱の中にオシャレな包みで包装されたチョコレートらしきものが入っていたからだ。
え?俺、靴箱間違えてないよね!?
目を凝らして確認したが、神谷ユウタの名前が書いてある。どうやら間違いではないらしい。
今日はバレンタインデー
今まで親や姉ちゃんにしかチョコをもらった事のない俺がまさか!?
その驚愕と同時にもう一つの驚きが。
いや、ここ男子校だよ!
パニックになっていたら、後ろから声をかけられた。
「ユウタ、おはよー」
この声は同じクラスの山崎だ。
高校に入ってからの友人で席が近かった事もあり、何となく話すようになったやつだ。
その山崎が俺の手に持つチョコに目を向け、ニヤニヤとした顔で俺を見た。
「え?なになに?チョコもらっちゃったの?やるじゃん!」
完全に面白がっている、、男子校でチョコをもらった俺を。
「おもしろがってるだろ、、」
「べっつにー」
ニヤつき顔がムカつくわ。
「ん?なんか封筒ついてね?」
言われてみればチョコの箱とリボンの間に挟まれた小さな封筒がある。
そっと封筒を手に取り、山崎から見えないよう中身のメッセージカードを読む、綺麗な字だ。
『神谷君が好きです』
ストレートな好きですの言葉に顔が赤くなる。
俺に思いを寄せてくれる人がいる、たぶん男だがその気持ちが素直に嬉しい。
「おい、誰からだよ」
「待てってば、急かすなよ」
メッセージカードに名前はなかった、封筒を裏返すがそこにも名前は書いてない。
「名前書いてないわ」
「マジかよ、まぁ男子校だから相手は男だろうしそりゃ書けねーか、気持ちだけでも伝えたかったってやつかもな」
「・・・・・・」
山崎のいう「男だから書けない」の言葉に引っかかってしまうのは、俺の好きな相手が男だからだろう。
俺の両親が離婚しそうになってて、ふさいでいた時に声をかけてくれたのが話すようになったきっかけだ。
家に帰っても母親の愚痴や、夫婦喧嘩ばかりで家にいても辛い日々だった。親からも離婚したらどちらについてくるのか聞かれたりして。そんなこと聞くなよ、という言葉を誰にも言えずにいた。
不安で胸が押しつぶされそうな時、俺の様子に気づいて心配して声をかけてくれた人。
話を聞いてもらえただけで、俺の心は救われた。
なんとか親の離婚が回避された後も何かと気にかけてくれて声をかけてくれる。
気づいたら好きになっていた。
最初は同じ男だし勘違いだと思っていた。
けどある日、その人の夢を見て朝起きたら夢精していた。もう認めざるを得なかった、好きなんだと。
自分の世界に入っていた俺に山崎が声をかけてきた。
「とりあえず教室いこーぜ」
俺は山崎に頷いた後、チョコをカバンにしまい教室に向かった。
***
朝のST(ショートタイム)が終わり、今は1限目の数学の時間だ。
数学教科担任の高田を気づかれないようチラチラと見る。
見た目も清潔感があり、涼やかな目元に身長も高くスタイルも良い、一般的にモテるタイプだと思う。男の俺からみてもカッコいい。
俺の片思いの相手の高田圭太先生。
親が離婚しそうで悩んでいた時からずっと気にかけてくれている、もちろん俺だけに優しくしてくれるわけじゃない。
他の生徒からも優しくてカッコいいと人気だ。
いかんいかん、授業に集中しなくては・・・。
俺は視線を高田から黒板に向ける。
そして、ふと違和感を感じた。
あれ・・・この黒板の文字、どこかで見た事がある。
俺は思い出そうと記憶を辿る。
うーん・・・
あっ!チョコについてたメッセージ!
あのメッセージと文字が似てる!
いや、まさかな。
俺は冷静に考える。
授業が終わり、俺はカバンの中のメッセージの文字を確認した。
綺麗で力強くやや角張った文字・・・。
見れば見るほど高田の文字に見えてくる。
悩んだ末、俺は高田本人に聞くことにか決めた。
ウジウジと考えるのは俺の柄じゃないしな。
俺はメッセージをチョコから外しポケットに入れた。
***
俺は放課後、「質問があります」と言って高田を捕まえ、人気のない教室で話す事になった。
「座るか?」
高田が窓際の俺の席を見ながら言う。
「いや、大丈夫です」
「どうした?また家のことで何かあったのか?」
高田が気遣う言葉をかけてきた。
間違っていたら、俺の勘違いだったら。
不安はあるが、もしもこのメッセージの文字が高田だとしたら。
もしこの恋の先に未来があるのなら。
俺は手のひらをぎゅっと握りしめ、尻込む心臓に喝を入れた。
「高田先生、いつも気にかけてくれてありがとうございます」
「どうした?改まって」
「あの・・・、間違ってたら笑ってくれていいんですけど・・・」
ゴソゴソとズボンのポケットをさぐりメッセージカードを出す。
メッセージカードを見た高田が急に真顔になった。
「・・・このメッセージカードを書いてくれたのは高田先生ですか?」
俺は高田をまっすぐ見つめて問う。
恥ずかしかったが高田の反応が見たかった。
高田であってくれと祈りながら答えを待つ。
「ははっ、バレちゃったか」
笑みを浮かべながら言った。
「ほんの冗談だよ、気にすんな」
流そうとする高田に食い下がる。
「俺はっ・・・、俺は高田先生だと思って嬉しかったのにっ」
「・・・・・・」
無言の時が流れる、数十秒だろうか。体感的にはもっと長く感じた。
高田は「ふぅ・・・」とため息をついた。
「神谷にはかなわないな」
そう言いながらふわりと笑う。
「チョコもメッセージも俺だよ、教師のくせにと軽蔑してくれてかまわない」
「軽蔑なんてしないっ、俺、高田先生の事好きだから、、両思いって事ですよね?」
「そうだね、けど君とは付き合えない」
「なんで、、」
てっきりこのまま恋人同士になれると思ったのに・・・
「メッセージに名前を書かなかったのは、今はまだ君と付き合えないけど、気持ちを伝えたかったから、バレるなんて想定外だったよ」
「付き合えないのになんで、、?」
俺の頭にハテナが飛び交う。
「今は、だよ。神谷が卒業したらきちんと告白したい」
「それまでは生徒と先生で」
高田が俺に微笑む。
林檎のように耳まで真っ赤になった顔で俺は頷き返事を返した。
「はいっ」
俺は3年生だ、バレンタインデーから卒業式まであと少し。
卒業式よ、早くこい。
《さぁ冒険だ》
「はぁぁ、行きたくないなぁ・・・」
会社へ行く道すがらため息と共に漏れた独り言。
相良さやかは今年25歳になるOLだ。
大人しそうな見た目のため舐められる事が多い。
見た目に違わず性格も控えめで、言いたい事も言えないで損をする事が多い。
半年ほど前のことだ。
会社の独身男性からたびたび声をかけられるようになった。
声をかけられるといっても仕事の事やたわいのない雑談だ。
男性は斎藤裕太といい、清潔感があり背も高くモテるだろうなという外見をしている。
そこからだ、女性社員による些細な嫌がらせをされるようになったのは。
仕事の事で質問をしても、「ごめん、今忙しいから」といって答えてもらえない。
今まで誘われていたランチにも誘われなくなり、今は会社近くの公園でベンチにこしかけ1人お弁当を食べている。
物がなくなったり、就業近くになって仕事を頼まれたり、そういったものが積み重なっていき、心が疲弊していた。
***
電車のホームに立つ、さやかの前にいつもの通勤電車が止まるが、さやかは前に進む事が出来なかった。後ろから来る人波の邪魔にならないよう横にずれる。
そうしている間に通勤電車は発車してしまった。
私なんで・・・会社行かなきゃいけないのに・・・
また新たな電車がホームに到着する。
行き先は『みつせ川』
聞いたことのない駅名だ。
私はフラフラとその電車に乗り込んだ。
左右を見渡すと席はガラ空きだったので、一番近くの2人がけの席の窓際に座る。
ふぅ・・・、一息つく。
なぜ乗ってしまったのだろう。
窓の外の景色をぼんやりと眺めながら、自分に問うが答えは出ない。
乗ってしまったものは仕方ない。
今日は会社を休んで、また明日から頑張ろうと思い、気持ちを切り替える事にした。
そう考えた途端、開放感に溢れてきて、この電車がどんな所に着くか楽しみになってきた。
子供の頃見た冒険映画に出てくる冒険者の気持ちだ。
さぁ、冒険に行こう、なんてね。
映画のセリフを思い出し思わず笑みが溢れる。
電車の心地よい揺れに微睡を感じているうちにいつの間にか眠ってしまったようで、終点のアナウンスにあわてて飛び起き、電車を降りホームに立つ。
「あっ・・・、遊園地?」
無人駅の目の前には遊園地があった、みつせ川駅という名からてっきり川が流れているのだと思ったが違ったみたいだ。
過去には川が流れていたのだろうか。
吸い寄せられるように、目の前に立つ遊園地に向かう。
近づいてみて分かったが、人が誰もいない。
スタッフも客も誰も。
遊園地の遊具も止まっている。
遊具をよく見ると錆びている部分が所々にある。
廃遊園地・・・?
入場ゲートが開けっぱなしになっている、不気味な感じがする遊園地に足を踏み入れる。
カァ・・・カーー
廃遊園地のどこかにいるのだろうか、カラスの鳴き声が聞こえる。
ゲートをくぐり所々雑草の生えた園内を、目的もなく歩く、目に見える遊具も看板もどこか色褪せている。
今は冬から春に移り変わる時期、春颯が頬を撫でる。
錆びたメリーゴランドを眺めていた時、ふと視線を感じた気がしビクリと体を震わす、顔を左右に向け確認したが誰もいない。
「こんにちは」
後ろの方から声がかかる。
「きゃああぁぁ」
叫び声を上げながら後ろを振り向く、警戒しながら視線を向けた先にいたのは、ピエロだった。
ピ、ピエロ?
こんな廃園した遊園地に・・・?
「お嬢さん、どうされましたか?」
白塗りに化粧をほどこしたピエロだ、ピエロらしい奇抜な格好をしている。
おどけた表情に見えるのは化粧のせいなのか、本当におどけた表情をしているのか分からない。
「なんで、こんな所にピエロが・・・」
「ふふふ、そんな小さなことはどうでもいいじゃないですか、良ければ私が園内をご案内しますよ、まだ動いている遊具もあるんです」
ピエロは私の返事も聞かず、着いておいでというように歩き出した。
どう見ても怪しいピエロについて行こうか迷ったが、まだ動いている遊具というのが気になり、ピエロに着いて行くことにした。
いざとなったら走って逃げればいい。
学生時代はこれでも陸上部だったのだ。
ピエロは時折私の方を振り向きながら園内の奥に歩いていく。
そうして着いていった先にあったのは、古い観覧車だった。
8台ほどのゴンドラを吊り下げゆっくりと動いている。
「ささっどうぞ乗ってください、お代は無料ですよ」
観覧車乗り場でゴンドラの扉を開けながらピエロが言う。
私は観覧車が好きだった。
ゆったりと上に向かって登っていくゴンドラから外の景色を眺めるのが好きだった。
ゴンドラが下に向かって降り始めると、もうこの時間が終わってしまうのかと残念に思ったものだ。
子供の頃に親と一緒に行った遊園地で乗って以来、観覧車には乗っていない。
私はノスタルジックさを感じさせる観覧車に乗り込んだ、当然私1人で乗るものだと思っていたら、なんとピエロまで乗り込んできた。
「えっ!?」
「私もご一緒させていただきますね、お嬢さん」
ニコリと笑うピエロ。
「・・・・・・」
正直嫌だったが、ゴンドラは上昇しているし、今更ピエロを追い出せないと諦めた。
かといってピエロと仲良くする気持もなく、ゴンドラの中は無言だ、ピエロからも話しかけてこない。
ゴンドラが1番高い真上近くまで来た時「ここから左手に見える川が綺麗なんです」そうピエロが言ったのだ。
川?そういえば降りたのはみつせ川駅だった。
みつせ川が気になり窓側に顔を寄せ探す。
川らしきものは見えない、どこだろう。
ピエロに聞こうと思ったその時、後ろからドンっと押された。
私は窓にぶつかり、ゴンドラの椅子から落ちた。
ゴンドラがグラグラと揺れている。
床に尻餅をついた状態の私をピエロが更に突き飛ばす。
「やっ、やめてっ、危ないっ!」
大声を出してゴンドラの扉に手をついたが、そのまま扉が開き前のめりに体が倒れ、空に投げだされ頭から下に落ちてゆく。
「い、ぃぃいやぁぁあぁあああぁーーっ」
ドンッグシャ
***
・・・・・・
鼓膜にアナウンスが聞こえる。
『まもなく3番線に◯◯行きが到着いたします。白線の内側でお待ちください。』
え?なに?どこ?駅のホーム?
私、確か観覧車から、、
ピエロは!?
夢・・・?
電光掲示板の発着案内を見る。
いつも会社に行く時に乗るホーム、時間だ。
時間が戻った・・・?
いやそんなわけない、信じられないくらいリアルだったが白昼夢を見ていたのだろう。
未だにうるさい心臓を抑えるように胸に手を当てる。
落ち着かない気持ちで、ホームに入ってくる電車を見ていた私を誰かが後ろから押した。
押された私はバランスを崩しながら前のめりに倒れ、線路に落ちた。
落ちる間際に振り返ってみた先に、あのピエロがいた。
ニヤリと笑っているように見えたその顔を見たのが私の最後だ。
キキーーーーーーーーーッ
電車のブレーキ音が鳴り響く。
(みつせ川→三途の川の別名)
《あなたは誰》
今日も仕事かぁ、頑張りたくないけど、頑張るか。
肌を刺すような寒さの中、スマホのアラームを止め、布団から出る。
俺は崎田ユズオ、33歳。
これでも一家の大黒柱だ。
階段を降り、下のダイニングに行くと妻のサヤが朝食を用意してくれていた。
今日はトーストに卵にサラダ、まぁいつもと変わらないな。
「おはよう」
「おはよう、あなた、冷める前に食べちゃってね」
俺はダイニングテーブルに座り、味わうでもなく手早くトーストを胃に入れていく。
「ごちそうさま」
「あなた、今日生ゴミの日だからゴミ出しお願いね」
「わかったよ」
洗面台で髭を剃りながら答える。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、気をつけて」
着替え終わり、準備を終えた俺は、すでに結ばれて玄関口に置いてあるゴミ袋を手に持ち、会社に行く道中にあるゴミ捨て場に向かった。
「おはようございます」
見知らぬ女性がこちらを見て挨拶をする。
「お、おはようございます」
え?だ、だれ??
俺はゴミを捨てながら、その女性の風貌をチラチラと見た。
ゴミを捨て終わった女性は、再度こちらを見て会釈して通りすぎる。
あぁ!もしかして隣の奥さん!?すっぴんで髪しばってるから全く分からなかった・・・。
女性はメイクで変わるなと思いながら、俺は会社へと急いだ。
***
会社に入ったところで、男性に声をかけられた。
「おはようございます」
え?だれ??
「お、おはようございます」
するとその男性がプッと吹き出した。
「崎田さん、何キョトンとした顔してるんですか、私ですよ、白川です。花粉症がひどいからしっかりガードできるマスクとゴーグルでガードしてるんです」
「あぁ、なんだ白川君か、花粉症大変だな」
普段メガネやマスクしてない奴がメガネとマスクつけてるだけで分からんもんだな・・・。
白川君と別れ、自分のデスクに向かっていると、すれ違った女性に声をかけられた。
「おはようございます」
え?だ?だれ?
「お、おはようございます」
無遠慮に女性の顔をジロジロと見る。
「やだー、崎田さん、私ですよ古田です。もうコロナ落ち着いてだいぶ経つし、思い切ってマスク外したんですよ」
えええぇええ?
古田さんってこんな年上だった!?
もっと若いかと思ってた、、
「そうだったんですね、もうコロナ落ち着いてだいぶ経ちますもんね」
無難に返事を返した俺はそのまま古田さんと別れ、デスクに座り仕事を始めた。
ふぅー、今日は誰か気づかない人によく会う日だな
***
仕事を終えた俺が帰宅するため電車に乗ろうとしていたところ、後ろから声をかけられた。
「崎田じゃね?」
振り向いた俺は声をかけてきた男の顔を確認する、俺と同い年くらいのイケメンだ。
だ、だれ??
崎田呼びということは地元の知り合いか・・・?
「俺だよ、滑川、高校の時よく遊んだだろ」
「滑川!?」
滑川といえば100キロはあろうかという巨体だったはず・・・。
こんなイケメンだったか??
「ビックリするよな、睡眠時無呼吸症候群になってさ、医者に首回りの脂肪が原因だから痩せろって言われてダイエットしたんだ」
「痩せたらこんなイケメンになるの!?」
「まぁ、元が良かったんだろうな」
ドヤ顔をする滑川と別れ、自宅へと戻る。
***
玄関ドアを開けて中に入る。
「ただいま」
「おかえりー」
奥のリビングから、女性がこちらに向かってやってくる。
え?だ??だれ???
妻だと思ったが、まったくの別人だった。
「えと、、どなたでしょうか?」
妻の知り合いか?
「やだ、あなた、サヤよ、いつも会ってるでしょ」
「サヤ!??顔違うけどっ!?」
驚きのあまり大声を出してしまった、しかしそれくらいビックリしたのだ。
「あぁ、実は安い美容外科でプチ整形してみたら、意外と顔が変わっちゃって・・・」
ええええええ!?
良くも悪くもなってないし、別人になってるんだけど、、ほんとにプチ整形!?
「可愛くなったでしょ?」
サヤが俺に向かって微笑む。
「・・・う、うん」
まぁ、前より悪くはなってないし、まぁいっか?
見た目より、性格や価値観や他にも大事なものあるしな?
考えこむ俺にサヤが声をかけてきた。
「ご飯にしましょ」
そういや腹減ってるわ。
「今日の飯なにー?」
とりあえず食べてから考えよ。
《輝き》2/17お題
後藤ミサ30歳、零細企業でOLをしている。
そんな私の輝きがある日突然なくなった。
私の職場は年寄りばかりで、若い男なんていない。いてもみんな結婚してる。
毎日出会いもなく、仕事もやり甲斐のないルーチンワーク。
家と職場の往復だけの、暗い私の生活に輝きをくれた人。
それが、アイドルグループのリョウ君だった。
リョウ君との出会いは衝撃だった。
たまたま見たYouTubeで、彼だけが輝いていたのだ。
中性的な顔立ちで線も細いのに、ダンスは激しくキレキレだ、踊りながら歌をうたう彼から目が離せなかった。
こんなカッコいい人初めて見た。
YouTubeで同じ曲を何度も何度もリピートし、彼を目に焼き付けた。
そこからは早かった。
ファンクラブに入り、CDやミュージックビデオ、グッズを買い漁った。
ファンレターに思いの丈を書き綴り送った、まるで恋する乙女のように。
リョウ君にどうしても会いたくて、ライブにも1人参戦し、手作りの応援うちわも作った。
ライブ参戦用の服も買ったし、ライブ前日には美容院にも行った。
リョウ君の事を考えているだけで、毎日が薔薇色だったのに。
リョウ君が突然結婚したのだ。
こんなに一心に愛情とお金を注ぎ込んできたのに、、
「裏切り者、、、」
私はリョウ君のグッズを力任せに引きちぎった。
電撃結婚のニュースを聞いてしばらくは頭の中が怒りに支配されていたが、日が経つにつれ、心に穴が空いたような空虚感に悩まされるようになった。
毎日毎日がつまらない。
仕事から帰ってきてもやることがない。
オシャレして行くような所もない。
寝起きの感じがずっと続いているようなぼーっとして、やる気のない日々が続いた。
そんな時輝く出会いがやってきた。
落雷のようにビシャーンと私の心に彼が落ちてきたのだ。
家でやる事もなくテレビを見ていた時に、彼と出会った。
とあるアニメのキャラクター、ルーファスにハマってしまったのだ。
サラサラと流れる金髪に碧眼、童話に出てくる王子様のような外見だ
いや、カッコいい、カッコよすぎる!
私の目はハートマークだ。
二次元はやっぱりいいよね。
ずっと若いままだし、仲間のために戦う姿にキュンとなっちゃう。
イケメンで、尚且つ性格も良くて、強くて、足も長くスタイルがいい。
こんな人現実にいないよね。
私は懲りずにルーファスのグッズを収集しだした。
リョウのグッズ?メルカリに出したけど売れなかったから、生ゴミで捨てた。
もう冷めたし顔も見たくない。
ルーファスの誕生日にはケーキを置いて、アクスタを置き、ぬいぐるみを抱き、ルーファスグッズに囲まれながらルーファスの誕生日を祝った。
「ルーファス、生まれてきてくれてありがとう」
私はルーファスのぬいぐるみにそっとキスをした。
幸せに浸っていた私にある日突然訪れた悲劇。
ルーファスがアニメの中で死んだのだ。
仲間をかばって深傷を負い「ルーファスーーッ」と泣き叫ぶ仲間の腕の中で息を引きとった。
「え・・・?嘘でしょ?だってルーファス、主要キャラだし人気も高いんだよ」
「う、嘘だぁぁぁあっ」
私は泣いた、床に膝をつき、ポタポタと床に涙がこぼれ落ちていく。
深夜アニメを見ていたのに、気がつくと朝になっていた。
ずっと同じ体制で泣き続けていたので、膝も痛いし体中が痛い。
朝日が私の顔を照らす、眩しい。
そして、急に現実から目を背けてただけの自分に気がついた。
「そうだ、婚活しよう」
余談だが、ルーファスはその後、仲間が球を集め神龍もどきのものを呼び出し生き返らせた。
変わらず、ルーファスは好きだし、生き返った時は嬉しかったが、私はグッズなどは買わなくなり、身の丈にあった無理のない推し活をすることにした。
《そっと伝えたい》
《なんで・・・、なんで私が・・・、お前のせいで、
許さない・・》
***
大学生になったばかりの佐々木サラは、朝のニュースを見ていた。
今日は休日だが、バイトがある日だ。
朝食のトーストをかじりながら小さく呟く。
「まさか私が殺されそうになってたなんてねぇ・・・」
クスッと笑うサラ。
「何か言った?」
向かいのテーブルに座りコーヒーを飲んでいる母からの問いに「なんでもない」と答えながら、テーブルから立ち上がる。
「ご馳走様、そろそろバイト行くね」
「はいはい、いってらっしゃい」
先程のニュースは、サラに恨みを抱いている女が、サラと間違えて別人を殺した事件を報道していた、つい先日の話だ。
サラは誰もいない玄関で靴を履きながら独り言を言う。
「男をとったくらいで、人を殺すなんて馬鹿みたい」
サラは友人や知人の彼氏を奪うのが好きだ、趣味といってもいい。
優越感を感じるし、私の方が良い女と認められて気分が良くなるからだ。
男を釣るのも楽しい、ちょっと清楚系の格好をして、手料理作って、控えめな態度で相手をほめて、笑顔で優しくしてたら男なんてすぐ落ちる。
全部演技なのにね。
釣った後はつまらなくなってすぐに捨てちゃうけど。
こんな自分だから男女問わず恨みをかってるとは思っていたが、まさか本当に殺そうと思う者が現れるなんて。
今回の事件はサラが友人のミナミの彼氏を取った事から始まった。
ミナミはメンタルが弱いタイプで、ミナミから彼氏を取ったらどうなるかなと思って興味本意で彼氏を奪ってみた。
ミナミは彼氏と友達に裏切られたショックで大学に来なくなった。
そこからの、人違い殺人事件だ。
ミナミがサラと間違えて、別の大学生の女を刺して殺したのだ。
後ろから刺したらしいが、そんなに後ろ姿がサラと似ていたのだろうか。
ニュースで聞いた被害者の大学生の女の名前は酒見リツ。
何にせよ、代わりに殺されてくれた酒見リツに感謝だ。
リツが刺された公園の脇道はサラも通るのだ、バイトで遅くなった時はちょうどリツが刺された時間帯くらいに・・・。
***
サラはバイトに行くため、急足で歩いていたが、工事中のビルの前で足を取られた。
スニーカーの靴紐がほどけて、踏んでしまったのかと思って足元を見たが特に変わった所はなかった。
「えっ、なに?なんで足が動かないの?」
サラの左足が、まるで誰かに掴まれているかのようにその場に固定されている。
「ちょっ、バイト遅れるしほんとに困るんだけど!」
サラはしゃがみ込んで、左足を道路から剥がそうとしている、そんな時に大きな叫び声が響いた。
「危ないっ、逃げろーっ」
「え?」
サラは慌てて左右を見てみたが特に何もなかった、まさかと思い上を見上げた、何か大きくて黒い物が落ちてくる。
工事中のビルから鉄骨が落ちてきたのだ。
サラは驚きで目を見開く。
「ひぃっひいぃいいいっ」
逃げようとするも左足がびくとも動かない。
「だ、だすけてぇええぇっ」
涙が溢れ、鼻水まで垂らしながら助けを呼ぶ。
そんなサラの耳元に誰かがそっと囁いた。
《今度はお前が死ぬ番だ》
グシャッ