腐女子

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《誰かしら?》 【BL】
3/3お題

「うえっ!?」

俺は学校の靴箱を開けた瞬間驚きで固まった。
靴箱の中にオシャレな包みで包装されたチョコレートらしきものが入っていたからだ。

え?俺、靴箱間違えてないよね!?
目を凝らして確認したが、神谷ユウタの名前が書いてある。どうやら間違いではないらしい。

今日はバレンタインデー
今まで親や姉ちゃんにしかチョコをもらった事のない俺がまさか!?
その驚愕と同時にもう一つの驚きが。
いや、ここ男子校だよ!

パニックになっていたら、後ろから声をかけられた。

「ユウタ、おはよー」

この声は同じクラスの山崎だ。
高校に入ってからの友人で席が近かった事もあり、何となく話すようになったやつだ。

その山崎が俺の手に持つチョコに目を向け、ニヤニヤとした顔で俺を見た。

「え?なになに?チョコもらっちゃったの?やるじゃん!」

完全に面白がっている、、男子校でチョコをもらった俺を。

「おもしろがってるだろ、、」

「べっつにー」

ニヤつき顔がムカつくわ。

「ん?なんか封筒ついてね?」

言われてみればチョコの箱とリボンの間に挟まれた小さな封筒がある。

そっと封筒を手に取り、山崎から見えないよう中身のメッセージカードを読む、綺麗な字だ。

『神谷君が好きです』

ストレートな好きですの言葉に顔が赤くなる。

俺に思いを寄せてくれる人がいる、たぶん男だがその気持ちが素直に嬉しい。

「おい、誰からだよ」

「待てってば、急かすなよ」

メッセージカードに名前はなかった、封筒を裏返すがそこにも名前は書いてない。

「名前書いてないわ」

「マジかよ、まぁ男子校だから相手は男だろうしそりゃ書けねーか、気持ちだけでも伝えたかったってやつかもな」

「・・・・・・」

山崎のいう「男だから書けない」の言葉に引っかかってしまうのは、俺の好きな相手が男だからだろう。

俺の両親が離婚しそうになってて、ふさいでいた時に声をかけてくれたのが話すようになったきっかけだ。

家に帰っても母親の愚痴や、夫婦喧嘩ばかりで家にいても辛い日々だった。親からも離婚したらどちらについてくるのか聞かれたりして。そんなこと聞くなよ、という言葉を誰にも言えずにいた。

不安で胸が押しつぶされそうな時、俺の様子に気づいて心配して声をかけてくれた人。

話を聞いてもらえただけで、俺の心は救われた。
なんとか親の離婚が回避された後も何かと気にかけてくれて声をかけてくれる。

気づいたら好きになっていた。
最初は同じ男だし勘違いだと思っていた。
けどある日、その人の夢を見て朝起きたら夢精していた。もう認めざるを得なかった、好きなんだと。


自分の世界に入っていた俺に山崎が声をかけてきた。

「とりあえず教室いこーぜ」

俺は山崎に頷いた後、チョコをカバンにしまい教室に向かった。


***


朝のST(ショートタイム)が終わり、今は1限目の数学の時間だ。
数学教科担任の高田を気づかれないようチラチラと見る。

見た目も清潔感があり、涼やかな目元に身長も高くスタイルも良い、一般的にモテるタイプだと思う。男の俺からみてもカッコいい。

俺の片思いの相手の高田圭太先生。
親が離婚しそうで悩んでいた時からずっと気にかけてくれている、もちろん俺だけに優しくしてくれるわけじゃない。
他の生徒からも優しくてカッコいいと人気だ。

いかんいかん、授業に集中しなくては・・・。

俺は視線を高田から黒板に向ける。
そして、ふと違和感を感じた。

あれ・・・この黒板の文字、どこかで見た事がある。
俺は思い出そうと記憶を辿る。

うーん・・・

あっ!チョコについてたメッセージ!
あのメッセージと文字が似てる!

いや、まさかな。

俺は冷静に考える。

授業が終わり、俺はカバンの中のメッセージの文字を確認した。

綺麗で力強くやや角張った文字・・・。

見れば見るほど高田の文字に見えてくる。

悩んだ末、俺は高田本人に聞くことにか決めた。
ウジウジと考えるのは俺の柄じゃないしな。

俺はメッセージをチョコから外しポケットに入れた。

***

俺は放課後、「質問があります」と言って高田を捕まえ、人気のない教室で話す事になった。

「座るか?」
高田が窓際の俺の席を見ながら言う。

「いや、大丈夫です」

「どうした?また家のことで何かあったのか?」
高田が気遣う言葉をかけてきた。

間違っていたら、俺の勘違いだったら。
不安はあるが、もしもこのメッセージの文字が高田だとしたら。
もしこの恋の先に未来があるのなら。

俺は手のひらをぎゅっと握りしめ、尻込む心臓に喝を入れた。

「高田先生、いつも気にかけてくれてありがとうございます」

「どうした?改まって」

「あの・・・、間違ってたら笑ってくれていいんですけど・・・」

ゴソゴソとズボンのポケットをさぐりメッセージカードを出す。

メッセージカードを見た高田が急に真顔になった。

「・・・このメッセージカードを書いてくれたのは高田先生ですか?」

俺は高田をまっすぐ見つめて問う。
恥ずかしかったが高田の反応が見たかった。

高田であってくれと祈りながら答えを待つ。

「ははっ、バレちゃったか」
笑みを浮かべながら言った。

「ほんの冗談だよ、気にすんな」

流そうとする高田に食い下がる。

「俺はっ・・・、俺は高田先生だと思って嬉しかったのにっ」

「・・・・・・」

無言の時が流れる、数十秒だろうか。体感的にはもっと長く感じた。

高田は「ふぅ・・・」とため息をついた。

「神谷にはかなわないな」
そう言いながらふわりと笑う。

「チョコもメッセージも俺だよ、教師のくせにと軽蔑してくれてかまわない」

「軽蔑なんてしないっ、俺、高田先生の事好きだから、、両思いって事ですよね?」

「そうだね、けど君とは付き合えない」

「なんで、、」

てっきりこのまま恋人同士になれると思ったのに・・・

「メッセージに名前を書かなかったのは、今はまだ君と付き合えないけど、気持ちを伝えたかったから、バレるなんて想定外だったよ」

「付き合えないのになんで、、?」

俺の頭にハテナが飛び交う。

「今は、だよ。神谷が卒業したらきちんと告白したい」

「それまでは生徒と先生で」

高田が俺に微笑む。

林檎のように耳まで真っ赤になった顔で俺は頷き返事を返した。

「はいっ」


俺は3年生だ、バレンタインデーから卒業式まであと少し。
卒業式よ、早くこい。

3/5/2025, 10:50:52 AM