《そっと伝えたい》
《なんで・・・、なんで私が・・・、お前のせいで、
許さない・・》
***
大学生になったばかりの佐々木サラは、朝のニュースを見ていた。
今日は休日だが、バイトがある日だ。
朝食のトーストをかじりながら小さく呟く。
「まさか私が殺されそうになってたなんてねぇ・・・」
クスッと笑うサラ。
「何か言った?」
向かいのテーブルに座りコーヒーを飲んでいる母からの問いに「なんでもない」と答えながら、テーブルから立ち上がる。
「ご馳走様、そろそろバイト行くね」
「はいはい、いってらっしゃい」
先程のニュースは、サラに恨みを抱いている女が、サラと間違えて別人を殺した事件を報道していた、つい先日の話だ。
サラは誰もいない玄関で靴を履きながら独り言を言う。
「男をとったくらいで、人を殺すなんて馬鹿みたい」
サラは友人や知人の彼氏を奪うのが好きだ、趣味といってもいい。
優越感を感じるし、私の方が良い女と認められて気分が良くなるからだ。
男を釣るのも楽しい、ちょっと清楚系の格好をして、手料理作って、控えめな態度で相手をほめて、笑顔で優しくしてたら男なんてすぐ落ちる。
全部演技なのにね。
釣った後はつまらなくなってすぐに捨てちゃうけど。
こんな自分だから男女問わず恨みをかってるとは思っていたが、まさか本当に殺そうと思う者が現れるなんて。
今回の事件はサラが友人のミナミの彼氏を取った事から始まった。
ミナミはメンタルが弱いタイプで、ミナミから彼氏を取ったらどうなるかなと思って興味本意で彼氏を奪ってみた。
ミナミは彼氏と友達に裏切られたショックで大学に来なくなった。
そこからの、人違い殺人事件だ。
ミナミがサラと間違えて、別の大学生の女を刺して殺したのだ。
後ろから刺したらしいが、そんなに後ろ姿がサラと似ていたのだろうか。
ニュースで聞いた被害者の大学生の女の名前は酒見リツ。
何にせよ、代わりに殺されてくれた酒見リツに感謝だ。
リツが刺された公園の脇道はサラも通るのだ、バイトで遅くなった時はちょうどリツが刺された時間帯くらいに・・・。
***
サラはバイトに行くため、急足で歩いていたが、工事中のビルの前で足を取られた。
スニーカーの靴紐がほどけて、踏んでしまったのかと思って足元を見たが特に変わった所はなかった。
「えっ、なに?なんで足が動かないの?」
サラの左足が、まるで誰かに掴まれているかのようにその場に固定されている。
「ちょっ、バイト遅れるしほんとに困るんだけど!」
サラはしゃがみ込んで、左足を道路から剥がそうとしている、そんな時に大きな叫び声が響いた。
「危ないっ、逃げろーっ」
「え?」
サラは慌てて左右を見てみたが特に何もなかった、まさかと思い上を見上げた、何か大きくて黒い物が落ちてくる。
工事中のビルから鉄骨が落ちてきたのだ。
サラは驚きで目を見開く。
「ひぃっひいぃいいいっ」
逃げようとするも左足がびくとも動かない。
「だ、だすけてぇええぇっ」
涙が溢れ、鼻水まで垂らしながら助けを呼ぶ。
そんなサラの耳元に誰かがそっと囁いた。
《今度はお前が死ぬ番だ》
グシャッ
2/14/2025, 7:17:44 AM