気がつけば、雀が鳴いている
窓からは薄らと朝日が入り始めていた
頬を伝った涙の跡と崩れているメイクが
私を道化のように彩る
どんなに悲しくても、お腹が空く
空っぽの冷蔵庫を見てコンビニに行く
外見を気にする気力も無い
早朝ということもあり、人には出会うことなく
コンビニに着いた
彼が好きだったおにぎりと飲み物を買い
空腹に耐えきれず、帰り道で食べた
大して味もしない
とりあえず飲み物で胃に押し流す
彼がいる病院に行かなければ、最後に言った言葉を聞くために
『さよならを言う前に』
吸った煙草の煙が晴天の空に消える。
吐き出す煙が1度として同じ形をとることは無い
吐き出された煙がそこにい続けることは無い
そんな事を思いながら、タバコの灰を落とす。
燃え尽き灰となった所が灰皿の中にぼとりと落ちる。
途方もない喪失感を煙草で誤魔化す。
1週間前に親友が自殺した。
自殺する2日前にあった時は、元気だったしいつもの様に笑ってた。
そんな彼が、ビルから飛び降りたのだ。
勤めていた会社の屋上から飛び降りたらしい。
屋上には、彼の靴と遺書が残されており自殺したのは間違えようのない事だった。
葬儀は淡々と進んだ。
僕は涙とを流すことも、悲しみに押しつぶされるようなこともなかった。
ぽっかりと心の臓を抉られ風穴が空いたみな感覚がいつまで経っても消えることは無かった。
最後に会った時の会話がふと蘇る。
「なぁ、知ってるか?焚き火の揺らめきと波の満ち引きは永遠と見てられるんだってよ。同じ形が1度としてないかららしい。
でもさ、同じ形が1度もないって言うなら空も人は永遠とみ続けられるよな!」
「たしかに、僕が煙草の煙を好きなの理由はそれかもしれないね」
「海も川もキャンプもしたからさ、今度は山登り行こ。
谷川岳辺りにしよう。あそこの空が好きなんだ」
「あぁ、道具を買って準備しておくよ。再来週にいこう。」
気持ちに一段落が着いた、風の強い晴れたある日。
彼と約束した山に行くことにした。
山頂でみた空が心の虚空を少しだけ埋めてくれた気がした。
「君が好きな空は、こんなにも移ろいやすく綺麗なんだね」
『空模様』
見渡す限り真っ黒い海
1週間前に彼の浮気で全てが壊れた。
幸せだった記憶は、心を縛り締めつけた
生きる気力も涙と共に消えさり
失うものは無いと好きだった海に来た。
沈みゆく太陽を追うように空を厚い曇が覆っていく。
煌々と輝く月明かりも星もない
明日への道標も希望無い。
心にも目の前にもあるのは暗く深い孤独と絶望。
肌に纏わりつくような潮風
沖へ誘うように響く潮音
ゆっくりと立ち上がり、持っていた錠剤を酒で胃に流し込んだ。
1歩、1歩と海に入った
冷たいと感じた海は、胸まで浸かると温かく感じる。
波は優しく私を抱きかかえ沖へと運ぶ
母のような抱擁と暖かさで。
静かな沖へとクラゲのように揺蕩う
薄れゆく意識とともに体は沈む
次はクラゲになりたいな……
『夜の海』
よく晴れた夏の日の真夜中
頭上に夏の大三角を見ながらあぜ道を走る
親友の家の前に着き、電話をかけた
「なあ、日の出見に行こう」
「は?海まで自転車で3時間はあるぞ?」
気だるさと呆れた声が聞こえてくる
「だから、今から行くんだよ!夏休み最後の日曜日なんだから」
「はぁ……わかった。家の前で騒ぐなよ真夜中なんだから……」
くたびれたTシャツ、学校指定の体操服のズボン履いて彼は来た。
2人で並走し海へと向かう
夏の夜は少しぬるかった
用水路を流れる水の音
たまに横切る車の走行音
そのどれもが私の心を踊らせる
潮風の匂いと波の音が遠くの方から届く
あと少しで海につく
逸る気持ちを沈めるために、更に速度を上げて走る。
海辺のなんでもないところに自転車を止めて
上がった息を整えていると
遅れた彼が
「振り回される側の気持ち考えたことある?」
と汗を流し私にそう言った
「嫌なら、君は着いてきてないでしょ?ほら日が昇ってきた」
2人で見た海から昇る太陽は、何よりも綺麗だった
自販機で買ったサイダーが乾いた喉を潤す
荒んだ心も一緒に満たしてくれるようだった
「なあ、来年もまた来ようぜ。」
「うん」
彼と一緒にまた自転車に乗って、海を見に行こう。
次は、親友じゃなくて恋人として
『自転車に乗って』
ピアノの音を聞くと昔のことを思い出す。
親の都合で田舎に引っ越した
車の通りは少なく
隣のに2、3件の家を除けば周りには田んぼしかない
コンビニに行くまでに車で20分もかかる
自転車で10分程のところに小さな商店街らしきものがある
そんな田舎だとやることなんて大してない
学校のない日は、家でゴロゴロとする日々を送っていた
ある時窓を開けていると、隣の家からピアノの音がした
拙い音色、間違えたのか少し前からまた始まる曲
聞いた事のない曲だが、そよ風と一緒に僕の部屋に入ってくる
何も無い日常を心地よく彩ってくれた
誰が弾いているのか気にはなったが調べようとしなかった
誰が弾いているのか分かったら、何か変わってしまうと思った
ある日のこと、お使いからの帰り道
しばらく前より上手くなったピアノの音が聞こえた
隣の家の窓が空いていて、ふと見てしまったのだ
黒い髪の少女がピアノを弾いていた。
曲が終わり視線に気がついたのだろうか
彼女と目が合った
その時の僕は何を思ったのか逃げるようにその場を後にした
「また、あの日のこと?家に帰ったらあの日の曲を弾こうか?」
隣にいる女性かそう言って笑った
『君の奏でる音楽』