誰も知らない、僕だけの場所
誰も入れない、僕だけの居場所
長らくひとりで居られる場所だった
でもそんな所に人が来るようになった
綺麗な黒髪の女性だ
僕しか知らないのにという感情もあったが
共有できる人が出来た嬉しさもあった
僕の小さな心の中にいる彼女の事が気になる
僕だけの秘密の場所じゃなくて
僕たちの秘密の場所だから
Question:貴方は彼女を愛せますか?
最悪だっ、クソ上司のおかげで推しの配信は見逃すし
犬のフンは、踏み抜くし
朝は、痴漢と間違えられるし
散々すぎる1日だ……
だが、そんなのはどうでもいい!!!
明日は、待ちに待った推しのライブなのだっっ!
あとは帰るだけ。
狭いエレベーターを10秒待てば、癒しの我が家に着く
目を閉じて浮遊感を感じ、いつものベルのような音が鳴る
はずだった……いつまで経っても鳴らない
テレビの中でしか見ない?聞かないエレベーターの到着音。
「はぁあ!!!なんで止まんのよ!?故障とか信じられない、デートに遅れるじゃん💢」
ドア近くにいた華奢な女性がギャーギャー喚いてる
イヤホン越しに聞こえるのだから、相当大きい声だろ。
煙い、独特な香りと白い煙が目の前を漂う。
タバコだ。信じられないがエレベーターの中でタバコを吸いやがった!?
ふと顔をを上げ、喚き散らしている女の顔を一瞥してやろうとしたが、前を向いていて後ろ姿しか分からない。
目の前の女性は、イライラしているようで頭を掻きむしる
揺れる髪の間から、うなじが一瞬見えた。推しと同じ場所にホクロがある。連なったホクロは、唯一だと思てっていたから信じられない。目の前の品のない女が推しだと!?
もっと信じられないのは、‘デート’だ。
推しは彼氏持ちかつ、タバコを吸い、挙句公共の場であることを弁えず、喚き散らすような女ということだ。
幻滅だ……これが蛙化現象というものか。
あ、でも推しと密室で同じ空気を吸える
タバコは嫌いだが、推しの吐いた煙を吸っている!?
混乱してぐちゃぐちゃの頭は、社畜からオタクモードになりつつ状況を整理する。
「てかさ〜さっきから、煩いんだけど?ぜぇはーぜぇーはーって喘息持ち?それとも閉所恐怖症?そんなんだったらエレベーター乗るなよ、クソがよ。」
見たことも聞いたこともない声と顔で、推しは悪態をつく
そして、目が合った。平凡な僕でも特徴というものがある。
目元のホクロだ。左目の目尻の下に2つ連なるようにホクロがあり、右目の目尻にもホクロがある。
ハッとするような彼女の顔を見れたのは僥倖だった。
「あっ……泣きボクロくん……!?いや、イヤイヤイヤさっきのは違くて、アイドルやってるとストレス凄いんです!たまに、貰った時だけ吸うんです!だから普段はこんなんじゃないんです!
でね、デートってのはメンバーの子と遊びに行くことを言うのね!ほら〜、気分だけでも味わいたいからなんです!」
慌てふためき、‘デート’、‘タバコ’を誤魔化す。
マネージャーから貰ったということを誤魔化す為か、鞄からタバコの箱を取りだした。
一緒に黒い正方形の個包装の何かが僕と彼女の間に落ちる
「「…………」」
沈黙が2人だけの空間を支配する。
‘チンッ’ベルの音が鳴る。エレベーター動いて
止まるはずだった階にとまる。
「この事を言いふらしたら、殺す」
彼女は、去り際にその言葉を残しエレベーターから出ていく。
今日は、オタク人生の中で最低で最高の日かもしない。
推しである彼女の一面を
他のファンは知らない一面を
僕しか知らないあの瞬間を
心に秘めて、今日もペンラを振る
僕の顔を見る度に、推しの顔が一瞬だけ歪む。
あー、なんて愛おしいんだろうか
雑草の中に咲く一輪の花
一際目立つその赤は何よりも輝いていた
だが、目立つということはそれだけ害ある蟲も寄ってくる
あからさまなやつ
煌びやかに飾っているやつ
誠実そうなやつ
無害そうなやつ
寄って集って、あの花の周りをうろつく
見ているだけで、怒りがわき起こる
だが、僕だけが知っている
あの花には毒があることを
寄り付く蟲を悉く死に至らしめることを
今日も可憐に咲く一輪の花
永遠に花を散らすことなく咲き続ける花
それは僕だけの華である
あなたは誰?
何度目かに思ったことだ
僕がピンチになるとやってくるし
困ってると助けてくれる
変な人に追いかけられた時も匿ってくれた
顔も声もちゃんと覚えていなかったけど
いつもお日様の匂いがした
だから覚えてる。
そして、今日も助けられた
あなたは誰?
目の前にいる子供を守らなくては
そのことだけは覚えていた
バイクがあの子を引きそうになったのを助けたし
道が分からず戸惑っているところに出くわし、一緒に歩いて送り届けたし
小さい子を狙った変態から彼女を匿った
人じゃないから、声も顔も覚えられないけど
匂いだけはちゃんと分かる。
そして、今日も助ける
何があっても
でも、なんでなんだろうか
手の込んだ手抜きなんて言葉がある。
手を抜くために、それまでの行為に全力で挑む
そんなことをするくらいなら、普通にやった方がいいんじゃない?ってことだ。
幼なじみのあいつは、なりたいものがある。
夏の夜空に花を咲かせる花火師に
「俺はよ、でっけぇ花火を咲かせるんだ」
病院から見えたあの景色を
明日死ぬかもしれないと言われたあの日にみた空を
絶望の縁にいた彼を照らした大輪の花を
今度は自分で作ると言うのだ。
余命宣告受けたあの日以来見せなかったメラメラと宿る活力は花火の轟音と刹那に消える光が灯したのだ。
まるで、燃え尽きる前のロウソクのように
季節は移ろいで、桜の蕾が開き始めた暖かい日
彼の体調は急変した。快調に向かっていたはずの体は病にゆっくりと犯されていたのだ
ひとりで歩くことさえ出来ない彼を無理通して屋上で小さな花火を打ち上げた。
煌めく夜空をより一層輝かせ、まだ肌寒い風が火薬の匂いをかき消した。
彼がこの世を去って15年と少したった今
彼とみた夏の夜空を
彼に生きる希望を与えた煌めきを
彼の輝きに魅せられた私が
「さぁ、でっけぇ花を咲かせよう」
誰かに刹那の輝きを魅せる為に