しば犬

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桜の咲くこの時期は出会いと別れを連想させるし実際のところそうなのだろう

かくいう私もそのひとりなのだから
高校から付き合ってた彼とも先日別れた
大学生になった私と社会人になった彼
些細なすれ違いが喧嘩を呼び
余裕の無さが、そのズレをより大きくした

あの時こうしたら、あんなことを言わなければ
そんな後悔も今となっては取返しなんてつかないというのに。そんなもしもを考えては、布団に顔を埋める。

何も食べたくは無いが、お腹はすく。
冷蔵庫には何も無い、ストックしてある保存食もない
宛もなく、家を出た
気がつけば、スーパーでもコンビニでもなく
彼とよく行ったお店の前にいた

「いらっしゃいっ!!お?嬢ちゃん久しいね」
煩いくらい元気な声の挨拶
人の前に出るには不格好な私を見て何かを察したのだろう。気まずい様な顔をした店主にいつものを頼んだ

「特製ラーメン、ネギ増し味玉トッピングメンマ抜きお待ち!あとこれはサービスだよ。」
いつものラーメン。そしてラーメンに似合わない桜餅
「何があったか知らないけど、腹いっぱい食べな。」

暖かいスープが胃袋を潤し、細麺と桜餅が空っぽになった胃を満たしていく。心に空いた穴を埋める様な感覚がゆっくりと広がる。
気がつけば、店主に彼と別れたことを話していた。

「まぁ、なんだ......春ってそういうもんだよ。でもな雨が降ったら、次は晴れるんだよ。冬の後には春が来るんだ。辛くなったらまたおいで。ラーメンしか俺には作れないけどさ」

お店を出た私の前に遅咲きの桜の花びらがひとひら落ちる。
春の終わりを告げ、新緑を宿す桜が私の背中を押した気がした

『ひとひら』

4/13/2025, 6:28:09 PM