しば犬

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見渡す限り真っ黒い海

1週間前に彼の浮気で全てが壊れた。
幸せだった記憶は、心を縛り締めつけた
生きる気力も涙と共に消えさり
失うものは無いと好きだった海に来た。

沈みゆく太陽を追うように空を厚い曇が覆っていく。
煌々と輝く月明かりも星もない
明日への道標も希望無い。

心にも目の前にもあるのは暗く深い孤独と絶望。

肌に纏わりつくような潮風
沖へ誘うように響く潮音
ゆっくりと立ち上がり、持っていた錠剤を酒で胃に流し込んだ。

1歩、1歩と海に入った
冷たいと感じた海は、胸まで浸かると温かく感じる。
波は優しく私を抱きかかえ沖へと運ぶ
母のような抱擁と暖かさで。

静かな沖へとクラゲのように揺蕩う
薄れゆく意識とともに体は沈む

次はクラゲになりたいな……


『夜の海』

8/16/2024, 12:32:17 AM