田舎に住んでんると危機感が薄れる。
わりと近所の人が勝手にものを家に置いていくから
玄関に鍵をかける習慣も薄れた。
近所に住んでる人がどんな人なのか噂も直ぐに広がる
人口の少ないこの街では、誰が誰なのか何となくわかるから、人に対する警戒心が薄れた。
車の通りも電車やバスに乗る人の数も少ないから
周囲に対する危機感も薄れた。
日に日に薄れゆく危機感を感じながらこの街に毒され緩慢になっているのだと実感する。
がらんとした電車に違和感も抱かず乗り帰路に着く。
強い眠気に襲われ、どうせ降りる駅は終点なんだから
と呑気に意識の手網を手放した。
「……ろ……い、起き……おい、起きろ」
強く低い声の呼び掛けで起きた。
「?着いた……?」
「ここ先は、お前の行く終点じゃない、今すぐこの電車から降りろ」
まだ寝ぼけているのか目の前の人の顔が黒く霞みがかって見えなかった。だが、この人の声に従わねばならないと本能が理解する。
電車を降り、走り行く電車の窓を何となく見ていると近所の山田さん1家と目が合った気がした。
いつもの癖で、山田さんの娘さんに向かって手を振っていた。
田舎の一駅は徒歩では辛いなと思いながら駅名を確認すると終点だった。
やっぱり寝ぼけてたのか?と感じつつも言いようの無い違和感が残った。
結局次の日の夕方には、その違和感は消えた。それと同時に胸が苦しくなった
いつ終点が来ても良いように、失った危機感わ取り戻さねば
静かに揺れるマリーゴールドの花が夕日に輝いた。
怒鳴り声で起こされ、振るわれる拳
学校に行っても机には花瓶が置かれ
冷たい目と囁かれる陰口
救いを先生に求めても見て見ぬふり
帰れば、また拳と粘着質な中身のない説教
僕は、蝶よ花よと育てられなかった
「遅刻するよ」と優しく起こされ
学校にはいち早く行き花瓶の花を替え
温かい目と周囲の陽口
出会い頭に先生に褒められ
帰れば、温かいご飯とお風呂
私は、蝶よ花よと育てられた
結局育てられ方じゃない
だって僕は躍起になって這い上がった
だって私は気がつけばどん底に居た
目の前の女を今度は蝶よ花よと商品にしなければならない
『蝶よ花よ』