海月 時

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8/8/2024, 2:41:49 PM

「ごめんね。私が悪いの。」
母は私を抱きしめた。それが最後の母との記憶だ。

「貴方と私は不釣り合いよ。だって私は、美しいから。」
私はそう言い放った。折角告白してくれた相手をこっぴどく振る、学校一の美少女。それが私。自分でも分かってる。最低な事をしてるって。でも、私は彼等には勿体ない。

家に帰り、居間に居る母と喋る。
「ただいま、ママ。」
母は何も言わずに、笑っていた。
「今日も告白されたわ。それを振ったら、罵詈雑言をかけられた。酷いものよね。」
母は何も言わずに、笑っていた。
「今日は疲れたから、もう寝るわ。おやすみ、ママ。」
私はそう言い、居間をあとにした。

自室に戻り、宿題を終わらせる。そして備え付けの冷蔵庫から軽食を取り出し、夕食を済ませる。風呂にも入り、ベットに飛び込むと、ため息が出た。
「ママに会いたいよ。」

「ごめんね。ごめんね。」
私の記憶の中に居る母は、謝ってばかりだった。でもそれは、父が家に居ない時だけ。父が帰ってくると、満面の笑みで出迎えていた。しかし、父は母を毛嫌いしていた。不気味だと嘲笑っていた。そしてそんな生活に耐えかねた母は、自殺した。
「死んで清々する。」
父は母の葬式で、涙を見せる事はなかった。そして、家に帰ってくる事も無くなった。私の顔は、母に似すぎて不快らしい。今の私には、父が残した豪邸と母の遺産、そして母に似た美しい姿だけだ。愛なんてものは、持ち合わせていない。私に愛は、不要なのだ。

あぁ、蝶よ花よ。もっと私を引き立てなさい。そして母を私を、見捨てた醜いあの男を殺しなさい。でも大丈夫よ、ママ。私がママの分まで幸せを掴んで上げるから。心配しないでね。

8/7/2024, 3:08:30 PM

『ようこそ、故人図書館へ。』
「どうも。司書さん、犯罪者顔ですね。」
『そう言う貴方様は、幸の薄そうなお顔ですね。』
「どうとでも。実際、幸薄いので。」
『よく知っております。』
「そうですか。」
『それで、本日はどのようなご要件で?』
「僕には、生きる価値があるんですかね。」
『そのようなものは、誰にも備わってはおりません。』
「普通は、これから見つけるべきとか言うのでは?」
『そのような言葉は、偽善者が述べた戯言に過ぎませんよ。それに…。』
「それに?」
『貴方様の生きる価値は、一つの人生で見つけられ程に安価なのですか?』
「一つの人生で見つけないと、ずっと苦しいままです。」
『それならば諦めれば良いのです。貴方様の祖父がなさったように。』
「祖父は、事故死のはずですが。」
『彼は長年、生への恐怖がございました。そしてついに、自決なさったのです。』
「そうか。祖父も僕と同じだったのですね。」
『彼は死後、こう語っておりました。〝私の孫は立派だ。私が泣くなと頼んだ時から、泣かなくなった。優しくて強い。それが私の孫なんだ。〟』
「僕は泣けなかっただけです。祖父に言われてから。でもそれは、祖父の葬式でもで。僕は大切な家族が死んでも泣けない、屑でしかないんです。」
『貴方様は今、泣いておられますよ。』
「えっ。本当だ。何で今更、出てくるんだよ。」
『貴方様は、まだ死にたいと思いますか?』
「分からないです。」
『今決断する必要はないのです。どうせ人間は、死ぬのですから。今だって死へのカウントダウンは始まっております。これは抗えない、決め事なのです。』
「では、極限まで悩んでも良いんですか?カウントダウンが0になるまで。」
『ええ、どうぞ悩んでください。それが生きた証となりましょう。』

『最初から決まっていた事。それはゲームのルールのようですね。貴方はお利口にルールに従いますか?それとも、死という裏技を取りますか?』

『今宵も、貴方様の物語をお待ちしております。』

『そういえば、最近〝生人図書館〟と言うものがあるそうですね。何でも幽霊も訪れるとか。まぁ、一寸も興味は持ちませんが。』

8/5/2024, 4:16:27 PM

「貴方は何のためにこんな事を?」
何のためか?それはねーーー。

『ねぇ、死にたくない?』
俺が尋ねると、誰もが頷いた。だから俺は、そんな彼らを終わりへと導いてあげる。俺は今日も、0時の鐘が鳴ると共に、眠れない人達を眠らせに行く。

マンションの十二階。そこの一室のベランダに、一人の男の子が居た。俺は彼に話しかけた。
『ねぇ、死にたいの?』
彼は驚いたようだ。なんせ俺は浮いているのだから。
「もしかして、噂の悪魔さんですか?」
『そうだよ。俺って有名人?』
「ええ。病んでる子を次々と死へと送っているとか。」
彼は嫌味ったらしく言った。何でだろう。俺は彼が苦手かもしれない。
「それで、俺に何のようですか?」
『分かってるでしょ。君を死へと誘いに来たって。』
「その行為に何のメリットが?貴方は何のためにこんな事を?」
この言葉で確信した。俺は彼が嫌いだ。全てを見透かされる気がして、気持ち悪くなる。
「貴方は何を欲しているんですか?」
『友達。俺は友達が欲しい。』

俺がまだ生きていた頃。俺は生まれつきの病で、外に出る事がなかった。窓から見える、走り回る子達に憧れた。そして、俺は神様を憎んだ。俺は何も悪くないのに、何で俺がこんな目に合うんだ。俺は自分が死ぬ時まで、ずっと恨み言を言い続けた。きっとだからだ。死んだ後に悪魔になったのは。死のうとしている子を死へと誘うのは、只一緒に走りたかっただけなんだ。

「その子達は、友達になってくれましたか?」
『皆、成仏してしまうから。友達にはなれない。』
「では、俺が友達になります。」
『嘘だ。君もどうせ、俺を置いていく。』
「大丈夫です。神への恨み言には自信があるので。」
『どういう事?』
「俺、もうすぐ死ぬんです。不治の病で。」
『じゃあ、俺を置いてかない?ずっと友達で居てくれる?』
「はい。俺はずっと貴方の友達です。」
彼は約束してくれた。ずっと友達で居ると。俺は泣いてしまった。そんな俺を彼は、優しく笑ってくれた。

彼が死ぬまで暇なので、俺は今まで通り死にたい人に会いに行く。でも、今度はちゃんと話を聞く事にした。少しでも、幸せになって欲しいから。0時を告げる鐘が鳴る。
『寝てない悪い子、だ~れだ。』

8/4/2024, 4:23:24 PM

「聴いてください。」
演奏が始まる。俺は嫌いだった音楽に耳を傾けた。

「ありがとうございます。」
演奏が終わった。一日二・三曲の路上ライブ。誰一人立ち止まらない、お世辞にも上手いとは言えない演奏だ。
「今日も来てくれたんだ。ありがとう。」
帰宅準備が終わった彼女が、俺の前まで来た。彼女は幼馴染で初恋の人。突然、路上ライブを始めた時は驚いたけど、今は素直を彼女を応援したいと思っている。

帰り道。彼女と喋りながら帰った。
「そういえば、いつからギターやってたの?」
「小学校高学年の時かな?」
「結構長いね。でも、俺が知ったの最近なんだけど。」
「言ってなかっただけ。だって君、音楽嫌いじゃん。」
俺は黙ってしまった。そんな俺を見て彼女は笑った。
「私の音楽だけは、好きなのにね。」
彼女のこういう所が好きだと思った。どんな時でも明るく、笑わしてくれる。
「だって俺は、君のファン一号だしね。」

音楽は嫌いだ。くだらない事に思えてしまうから。実際に音楽を聴いても、つまらなかった。だからそんな音楽を聴く時間が無駄に感じていたんだ。でも、彼女の音楽は嫌いじゃなかった。むしろ、心が安らぐ気がした。
「私は病んだ時に、音楽に救われたんだよ。」
彼女が言った言葉がよく分かる。きっと俺も救われているんだ。彼女の音楽に。これからも傍で聴いていたい。そう願っていた。

彼女が事故に遭い、この世を去るまでは。

彼女が死んでから俺は、暫く泣いていた。でももう、このままじゃ駄目だと思った。俺は彼女が路上ライブを行っていた場所に向かった。形見となったギターを持って。

くだらない事でも、つまらない事でも、それらで彼女が作られていたのなら。俺はその全てを愛したいと思った。
「聴いてください。」 
彼女に贈る、下手くそな演奏を。

8/3/2024, 3:43:03 PM

「死にたい。」
呼吸するように、言葉を吐く。疲れたよ。

「何でこんな事も出来ないんだ。」
父が俺に向かって言う。五月蝿いな。不満も反抗の言葉も浮かぶ。しかし、それらを飲み込む。
「出来るように頑張ります。」
怒られた時は、反抗しない方が良い。余計に相手を怒らせてしまうから。これを俺は幼少期に身に着けた。いつだって怒られないように、嫌われないように、逃げてばっかりだ。俺は弱虫な臆病者だ。

「役立たずが。」
会社の上司に言われた。どうやら俺は、どこに行ってもお荷物のようだ。もう慣れたけど。
「役に立てるように頑張ります。」
俺はいつも通り言う。何千回目の、謝罪をする。

「死にたい。」「辛い。」「疲れた。」
この3つが、頭を支配する。時々思う。俺は何のために生きているのだろうか。自分の意志を殺して、嘘をついて、生きる。本当にこれは俺なのか?違う。俺はこんな人間じゃない。じゃあ俺はどんな人間だ?分からない。自分自身も分からないなら、死んだも同じだ。

死にたい俺は、今日も死ねない。どこまでいっても俺は臆病者だ。そんな俺は神頼みしかできない。
「神様どうか、お願いします。」
朝起きたら、辛くなるから。だからどうか、目が覚めるまでに、この世界を終わらせてください。

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