海月 時

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「ごめんね。私が悪いの。」
母は私を抱きしめた。それが最後の母との記憶だ。

「貴方と私は不釣り合いよ。だって私は、美しいから。」
私はそう言い放った。折角告白してくれた相手をこっぴどく振る、学校一の美少女。それが私。自分でも分かってる。最低な事をしてるって。でも、私は彼等には勿体ない。

家に帰り、居間に居る母と喋る。
「ただいま、ママ。」
母は何も言わずに、笑っていた。
「今日も告白されたわ。それを振ったら、罵詈雑言をかけられた。酷いものよね。」
母は何も言わずに、笑っていた。
「今日は疲れたから、もう寝るわ。おやすみ、ママ。」
私はそう言い、居間をあとにした。

自室に戻り、宿題を終わらせる。そして備え付けの冷蔵庫から軽食を取り出し、夕食を済ませる。風呂にも入り、ベットに飛び込むと、ため息が出た。
「ママに会いたいよ。」

「ごめんね。ごめんね。」
私の記憶の中に居る母は、謝ってばかりだった。でもそれは、父が家に居ない時だけ。父が帰ってくると、満面の笑みで出迎えていた。しかし、父は母を毛嫌いしていた。不気味だと嘲笑っていた。そしてそんな生活に耐えかねた母は、自殺した。
「死んで清々する。」
父は母の葬式で、涙を見せる事はなかった。そして、家に帰ってくる事も無くなった。私の顔は、母に似すぎて不快らしい。今の私には、父が残した豪邸と母の遺産、そして母に似た美しい姿だけだ。愛なんてものは、持ち合わせていない。私に愛は、不要なのだ。

あぁ、蝶よ花よ。もっと私を引き立てなさい。そして母を私を、見捨てた醜いあの男を殺しなさい。でも大丈夫よ、ママ。私がママの分まで幸せを掴んで上げるから。心配しないでね。

8/8/2024, 2:41:49 PM