海月 時

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5/8/2026, 2:49:39 PM

「…あと一年だけ。」
あと一年で、終わろう。このクソったれな人生を。

「死にたい。」
そう呟いた。それなのに、家族は知らん顔。もう自分への愛は無いのだろうか。いいさ、その方が死にやすい。
「死にたい。」
そう呟いた。友人は、生きてと泣いた。何故こんなにも他人に温かいのだろうか。自分は今日も生きてしまう。

何度目だろうか。歩道で立ち止まるのは。
何度目だろうか。高い所に登っては下を見下ろすのは。

死のうと思えば死ねる。なのに誰かに生きてと言われるだけで、あと少し、あと一年と先延ばす。きっと自分は、生きるのも死ぬのも向いていない。 

今日も屋上に立つ。フェンスを乗り越えるのにも慣れたものだ。さぁ、終わろう。そう思っているのに足は動かない。
「…あと一年だけ。生きてみようかな。」
今日も臆病な自分に嫌気が差す。結局は死ねない、でも生きていたくない。この矛盾は、ごみ箱はどこにある。

一年後、自分はまだ、死にたいと呟いていますか?

2/24/2026, 3:43:04 PM

「今日も明日も、私は生きる。」
私は今日も、鏡の中の自分に暗示をかける。

「おはよ~。」
学校に着いたら、いつも通り友達と挨拶を交わす。そして他愛のない会話をする。これが普通の朝。私の朝。
「午後の授業だる~。」
昼放課、友達と机を囲みながら昼食をとる。そして冗談や学校への不満を言い合う。これが普通の放課。私の放課。
「またね~。」
放課後、友達と別れを告げる。たまに遊びに行く事もあるが、今日はなし。明日の授業内容について話し、帰路に着く。これが普通の放課後。私の放課後。

「普通の人生で良い。」
大人は皆そう言う。私もそう思ってる。でも心の中では、非現実的なエピソードを求めてる。これっておかしい事?

「花畑に咲く花達、花瓶に咲く一輪の花。君はどっちが大切な命だと思う?」
昔、誰かに問われた言葉。その時、私は後者を選んだ。一輪だけの花の方が特別感があるからだ。なれるなら私もそんな存在になりたいからだ。今でもそう思ってる。でも心の中では、自分は特別になれないと分かってる。

寝る前の十分間。私は鏡の前に立つ。そして自分を見つめる。どこを見ても平凡で嫌になる。それでも目は逸らさず、口を開く。
「お前は特別にはなれない。お前は一生、どこにでもいる平凡な人間のままだ。それでも、生きてる。いつ踏み付けられるか分からない小さな命で、生きてる。花瓶なんて小さな世界よりも、大きな世界で頑張って根を張って生きてる。今日も明日も、私は生きる。」
毎晩行うこの行為は、自身への暗示だ。そしてエールだ。負けない為の、投げ出さない為の。

私は抱えている。皆抱えている。特別ではないけれど、普通のものだけど、唯一のもの。そんな小さな命を抱えて生きている。

1/9/2026, 4:02:45 PM

「おやすみ、僕のお月様。」
僕は今日も、届かぬ君に手を伸ばす。

「こんな世界、大っ嫌いだ。」
昔の僕は、いつもそう呟いていた。生まれつき片目が不自由な僕は、何処かが欠けていた。何をしても心が満ち足りる事はなかった。彼女と出会うまでは。

「ねぇ、月の形は何が好き?」
唐突に投げかけられた問いに少し戸惑う。
「…満月かな。完璧な姿で憧れるよ。」
「君らしいね。私はね、三日月が好き。」
僕がどうしてと聞くと、彼女は答えた。
「完璧な姿よりも、欠けながらも私達を照らす姿の方が美しいもん。」
目を細めながら微笑む彼女に、月明かりが当たる。昔の人は、地球が中心か太陽が中心かで争っていたと言う。でもこの瞬間、僕の中では彼女が全ての中心に見えた。
「それに三日月は人間みたいだからね。皆何処か欠けていて、それでも生きていて美しいよ。」
「…君は、君には欠けている所があるの?」
咄嗟に思っていた事が口から出た。そんな僕の問いに彼女は少し悲しそうにした。
「…命、かな。」
「それってどういうこと…?」
「私、病気なの。もう助からない。」
涙が止まらなかった。止めようと思っても、どんどん溢れてきた。彼女も泣いていた。
「欠けていても、君は綺麗だ。僕のお月様。
「愛してくれてありがとう。」

彼女の墓に手を伸ばす。空には三日月が浮かぶ。
「今日も月が綺麗ですね。」

12/22/2025, 3:34:02 PM

「私は、間違っていたのでしょうか?」
誰か教えて。彼への愛は罪だったのですか?

「何故、殺人なんて馬鹿な真似をしたんだ?」
警察署の取調室で、若い男の警官が私に問いた。その瞳があまりにも真っ直ぐで、嘘をつく気が起きない。
「愛していたからです。」
警官の顔が白くなる。それでも、私は続けた。

私が愛した彼は、神様でした。光は彼を照らすためだけに存在しているのだと知りました。でも、彼は変わってしまった。落ちぶれて、闇こそが彼の生きる世界になったのです。それが私には耐えられなかった。 
「だから、殺したのです。」

沈黙の取調室。暫くして先に声を出したのは私だった。
「私は、間違っていたのでしょうか?私の愛は罪なのでしょうか?」
警官は少し考えた素振りをして、ゆっくりと口を開いた。
「アンタは何も間違っていない。光を守る為に自ら闇となったアンタを、俺は尊敬するよ。」
警官は酷く真っ直ぐな瞳で、私を見つめた。そして、言葉を続けた。
「光っていうのは、曲がりやすいんだよ。でも確実に、誰かのもとには届く。どんなに消えそうでも、道が曲がっていても、光は光のままなんだ。だから、アンタの愛した男は、今でも光のままだ。」
涙が止まらなかった。顔を上に向けても、涙は溢れ続ける。あぁ、彼も光の住人だ。

警官が言った言葉を振り返り、やはり私のした事は間違いだと思った。光が消えたと思い込み、何も許せなかった自分を恨む。だが、願い事が出来た。あの警官がいつまでも光の回廊を歩める様にと、星に願った。

11/27/2025, 12:59:49 PM

「…おはよ。今日の空は何色かな?灰色だといいな。」
誰も居ない部屋に落ちる言葉。僕の心は死んだままだ。
 
「君は酷く退屈しているようだね。」
バイト先の喫茶店、店長にいきなり言われた言葉。
「…不真面目って事っすか?」
「あぁ、違うよ。ただ何となく、そう思っただけだよ。」
店長は少し変わっている。いつも無表情で何を考えているのか一向に読めない。
「何か趣味とかはないの?好きな事とか。」
「…店長、お客が居ないからって雑談し過ぎでは?」
「いいよ。どうせ今日も誰も来ないしさ。」
人通りから外れた場所にあるからか、店はいつも閑古鳥が鳴いていた。店長が宣伝しないからな気もするが。
「趣味も好きな事も、ないです。」
僕の言葉に、店長が少し寂しそうに見えた。そして少しして口を開いた。
「僕の母校で、明日絵の展覧会があるらしい。見て来るといい。入場料はもちろん僕が出すよ。」
絵、か。興味もないが、店長は言ったら聞かない節があるからな。
「分かりました。明日行ってみます。」
僕がそう答えると、店長は少し微笑んだ。この人の表情がこんなに動いているのを初めて見た。

次の日、僕は店長の母校に居た。興味は湧かない。ふと考える。僕はいつからこんなにも無気力になってしまったのか。両親が離婚した時か。クラスメイトに虐め始めた時か。それとも、初恋を目の前で奪われた時か。どれも違うようで、どれもが当てはまっているようだった。でも一つ言えるのは、どんな時でも僕の心は生きていた。じゃあ、どうして、今僕の心は死んでいるの?
「…もう帰ろう。」
そう思った時、一枚の絵が目を刺した。初めて見た絵なのに懐かしさを感じた。くすんだ色なのに、どこか清々しさが残る。僕は初めて泣きじゃくった日を思い出した。そうだ、あの日だ。泣いても変わらないと知って僕が大人になった日に、僕の心は死んだんだ。

「…あれ?何で僕、…泣いてるんだ?」
涙は止まらない。でも心地良い。心の深呼吸の音が聞こえる。なんだ、僕の心はまだ生きているようだ。

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