海月 時

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『ようこそ、故人図書館へ。』
「どうも。司書さん、犯罪者顔ですね。」
『そう言う貴方様は、幸の薄そうなお顔ですね。』
「どうとでも。実際、幸薄いので。」
『よく知っております。』
「そうですか。」
『それで、本日はどのようなご要件で?』
「僕には、生きる価値があるんですかね。」
『そのようなものは、誰にも備わってはおりません。』
「普通は、これから見つけるべきとか言うのでは?」
『そのような言葉は、偽善者が述べた戯言に過ぎませんよ。それに…。』
「それに?」
『貴方様の生きる価値は、一つの人生で見つけられ程に安価なのですか?』
「一つの人生で見つけないと、ずっと苦しいままです。」
『それならば諦めれば良いのです。貴方様の祖父がなさったように。』
「祖父は、事故死のはずですが。」
『彼は長年、生への恐怖がございました。そしてついに、自決なさったのです。』
「そうか。祖父も僕と同じだったのですね。」
『彼は死後、こう語っておりました。〝私の孫は立派だ。私が泣くなと頼んだ時から、泣かなくなった。優しくて強い。それが私の孫なんだ。〟』
「僕は泣けなかっただけです。祖父に言われてから。でもそれは、祖父の葬式でもで。僕は大切な家族が死んでも泣けない、屑でしかないんです。」
『貴方様は今、泣いておられますよ。』
「えっ。本当だ。何で今更、出てくるんだよ。」
『貴方様は、まだ死にたいと思いますか?』
「分からないです。」
『今決断する必要はないのです。どうせ人間は、死ぬのですから。今だって死へのカウントダウンは始まっております。これは抗えない、決め事なのです。』
「では、極限まで悩んでも良いんですか?カウントダウンが0になるまで。」
『ええ、どうぞ悩んでください。それが生きた証となりましょう。』

『最初から決まっていた事。それはゲームのルールのようですね。貴方はお利口にルールに従いますか?それとも、死という裏技を取りますか?』

『今宵も、貴方様の物語をお待ちしております。』

『そういえば、最近〝生人図書館〟と言うものがあるそうですね。何でも幽霊も訪れるとか。まぁ、一寸も興味は持ちませんが。』

8/7/2024, 3:08:30 PM