海月 時

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8/5/2024, 4:16:27 PM

「貴方は何のためにこんな事を?」
何のためか?それはねーーー。

『ねぇ、死にたくない?』
俺が尋ねると、誰もが頷いた。だから俺は、そんな彼らを終わりへと導いてあげる。俺は今日も、0時の鐘が鳴ると共に、眠れない人達を眠らせに行く。

マンションの十二階。そこの一室のベランダに、一人の男の子が居た。俺は彼に話しかけた。
『ねぇ、死にたいの?』
彼は驚いたようだ。なんせ俺は浮いているのだから。
「もしかして、噂の悪魔さんですか?」
『そうだよ。俺って有名人?』
「ええ。病んでる子を次々と死へと送っているとか。」
彼は嫌味ったらしく言った。何でだろう。俺は彼が苦手かもしれない。
「それで、俺に何のようですか?」
『分かってるでしょ。君を死へと誘いに来たって。』
「その行為に何のメリットが?貴方は何のためにこんな事を?」
この言葉で確信した。俺は彼が嫌いだ。全てを見透かされる気がして、気持ち悪くなる。
「貴方は何を欲しているんですか?」
『友達。俺は友達が欲しい。』

俺がまだ生きていた頃。俺は生まれつきの病で、外に出る事がなかった。窓から見える、走り回る子達に憧れた。そして、俺は神様を憎んだ。俺は何も悪くないのに、何で俺がこんな目に合うんだ。俺は自分が死ぬ時まで、ずっと恨み言を言い続けた。きっとだからだ。死んだ後に悪魔になったのは。死のうとしている子を死へと誘うのは、只一緒に走りたかっただけなんだ。

「その子達は、友達になってくれましたか?」
『皆、成仏してしまうから。友達にはなれない。』
「では、俺が友達になります。」
『嘘だ。君もどうせ、俺を置いていく。』
「大丈夫です。神への恨み言には自信があるので。」
『どういう事?』
「俺、もうすぐ死ぬんです。不治の病で。」
『じゃあ、俺を置いてかない?ずっと友達で居てくれる?』
「はい。俺はずっと貴方の友達です。」
彼は約束してくれた。ずっと友達で居ると。俺は泣いてしまった。そんな俺を彼は、優しく笑ってくれた。

彼が死ぬまで暇なので、俺は今まで通り死にたい人に会いに行く。でも、今度はちゃんと話を聞く事にした。少しでも、幸せになって欲しいから。0時を告げる鐘が鳴る。
『寝てない悪い子、だ~れだ。』

8/4/2024, 4:23:24 PM

「聴いてください。」
演奏が始まる。俺は嫌いだった音楽に耳を傾けた。

「ありがとうございます。」
演奏が終わった。一日二・三曲の路上ライブ。誰一人立ち止まらない、お世辞にも上手いとは言えない演奏だ。
「今日も来てくれたんだ。ありがとう。」
帰宅準備が終わった彼女が、俺の前まで来た。彼女は幼馴染で初恋の人。突然、路上ライブを始めた時は驚いたけど、今は素直を彼女を応援したいと思っている。

帰り道。彼女と喋りながら帰った。
「そういえば、いつからギターやってたの?」
「小学校高学年の時かな?」
「結構長いね。でも、俺が知ったの最近なんだけど。」
「言ってなかっただけ。だって君、音楽嫌いじゃん。」
俺は黙ってしまった。そんな俺を見て彼女は笑った。
「私の音楽だけは、好きなのにね。」
彼女のこういう所が好きだと思った。どんな時でも明るく、笑わしてくれる。
「だって俺は、君のファン一号だしね。」

音楽は嫌いだ。くだらない事に思えてしまうから。実際に音楽を聴いても、つまらなかった。だからそんな音楽を聴く時間が無駄に感じていたんだ。でも、彼女の音楽は嫌いじゃなかった。むしろ、心が安らぐ気がした。
「私は病んだ時に、音楽に救われたんだよ。」
彼女が言った言葉がよく分かる。きっと俺も救われているんだ。彼女の音楽に。これからも傍で聴いていたい。そう願っていた。

彼女が事故に遭い、この世を去るまでは。

彼女が死んでから俺は、暫く泣いていた。でももう、このままじゃ駄目だと思った。俺は彼女が路上ライブを行っていた場所に向かった。形見となったギターを持って。

くだらない事でも、つまらない事でも、それらで彼女が作られていたのなら。俺はその全てを愛したいと思った。
「聴いてください。」 
彼女に贈る、下手くそな演奏を。

8/3/2024, 3:43:03 PM

「死にたい。」
呼吸するように、言葉を吐く。疲れたよ。

「何でこんな事も出来ないんだ。」
父が俺に向かって言う。五月蝿いな。不満も反抗の言葉も浮かぶ。しかし、それらを飲み込む。
「出来るように頑張ります。」
怒られた時は、反抗しない方が良い。余計に相手を怒らせてしまうから。これを俺は幼少期に身に着けた。いつだって怒られないように、嫌われないように、逃げてばっかりだ。俺は弱虫な臆病者だ。

「役立たずが。」
会社の上司に言われた。どうやら俺は、どこに行ってもお荷物のようだ。もう慣れたけど。
「役に立てるように頑張ります。」
俺はいつも通り言う。何千回目の、謝罪をする。

「死にたい。」「辛い。」「疲れた。」
この3つが、頭を支配する。時々思う。俺は何のために生きているのだろうか。自分の意志を殺して、嘘をついて、生きる。本当にこれは俺なのか?違う。俺はこんな人間じゃない。じゃあ俺はどんな人間だ?分からない。自分自身も分からないなら、死んだも同じだ。

死にたい俺は、今日も死ねない。どこまでいっても俺は臆病者だ。そんな俺は神頼みしかできない。
「神様どうか、お願いします。」
朝起きたら、辛くなるから。だからどうか、目が覚めるまでに、この世界を終わらせてください。

8/2/2024, 3:20:07 PM

「貴方はお荷物でしかないのよ。」
この言葉を最後に、両親は私の前から消えた。

「ねぇ、お話しない?」
誰だ、こいつ?病衣を着ているから、きっと入院患者だろう。身長の低い男の子、中学生ぐらいかな。そんな事を思っていると、彼は少し不貞腐れたように言った。
「僕、高三だから。もうすぐ成人だから。」
驚いた。私と同い年なのか。いや、驚くのは失礼か。私は心の中で謝った。
「君の両親って、何でここに来ないの?」
彼は不思議そうに言った。私は胸が締め付けられた。そして、ゆっくり話し始めた。

私は昔から、体が弱かった。それでも、学校に通えた。私が高校に入る前までは。
「か弱い振りして気持ち悪いんだよ。」
高校に入学してすぐだった。私は虐めのターゲットにされた。両親にも相談した。しかし、誰も信じてはくれなかった。唯一真実を知っている担任は、早々に私を見捨てた。あれから何ヶ月経った頃だ。私は心身を病み、学校に行けなくなったのは。その時から、両親が私を蔑むようになった。私は両親にとってお荷物でしかないのだ。だから、両親は私に会いに来ない。私に価値がないから。

「僕もね。暫く両親に会ってないよ。」
彼は小さく言った。
「僕、もうすぐ死ぬんだ。そんな僕を、両親は捨てた。」
彼の声は、今にも泣き出しそうな声だった。気付いた時には、私は泣きながら彼を抱きしめていた。
「私達、似た者同士だね。」
彼は泣いていた。彼の涙が、私の服に染み込む。その涙はとても温かくて、優しかった。
「これからは、私が君の傍に居る。」
「じゃあ、僕は君を守るよ。」
私達は、小さな病室で誓った。お互いを見捨てないと。

二ヶ月後、彼は亡くなった。余命よりも一ヶ月も生き延びたという。

片付けられた彼の病室。ふと知りたくなった。彼にはどんな景色が見えていたのか。彼は一人でどんな景色を見ていたのか。窓の外を見ると、自然と涙が出た。
「綺麗だね。君みたいに。」
病室の窓から見えるものは、小さい。しかし、温かくて優しい景色が、そこにあった。

8/1/2024, 3:37:31 PM

「バイバイ。」
そう言って笑う彼は、もう私の中にしか居ない。

「辛い。」
言葉にすると余計に、辛くなる。あーあ、もう良いや。我慢しなくても良いや。私は雨の降る中、屋上に向かった。
「久しぶりに来たな。」
この建物の屋上には、思い出が詰まってる。その思い出の全てには、彼が居た。私の最愛。消え去った人。

「ねぇ、そこからはどんな景色が見えるの?」
彼と出会った日も、連日の雨だった。そして私は、自殺をしようとしていた。
「何も見えないよ。」
「それは君が泣いてるからじゃない?」
そう言い、彼は笑ってくれた。その事が只嬉しかった。久しぶりに誰かの笑顔を見た気がした。気付いた時には、私は全てを話していた。両親からの虐待、クラスでの虐め、辛かった事も悲しかった事も、話した。彼は無言で私の話を最後まで聞いてくれた。そして、言ってくれたんだ。
「これからは俺にも、君の痛みを分けてよ。」
この日から何ヶ月も彼は私の話を聞きに来てくれた。私はその時間のために、生きてきた。
「また明日ね。バイバイ。」
いつものように彼が言う。その帰る姿を眺める。何故だが嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は当たった。

彼は交通事故に遭い、この世を去った。

ここに来ると楽しかった思い出が溢れている。それと同じくらいに寂しさが込み上がる。じゃあこの場を去れば良い。それなのに足が動かない。とっくに気づいていたんだ。彼と出逢った時から。
「私、まだ生きていたいんだ。」
その事実を痛感し、涙が出た。今日は辞めよう。この場所は彼との思い出の地だから。雨の日は彼を思い出すから。

生きる=辛い。辛い=死にたい。こんな矛盾が頭を支配する。私は醜い。最愛の人が死んでも、まだ生に執着してしまう。もう生きる理由は消えただろうに。空を見る。雨は止まずに、振り続ける。私は小さく誓った。
「明日、もし晴れたら彼に逢いに逝こう。」

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