海月 時

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「貴方はお荷物でしかないのよ。」
この言葉を最後に、両親は私の前から消えた。

「ねぇ、お話しない?」
誰だ、こいつ?病衣を着ているから、きっと入院患者だろう。身長の低い男の子、中学生ぐらいかな。そんな事を思っていると、彼は少し不貞腐れたように言った。
「僕、高三だから。もうすぐ成人だから。」
驚いた。私と同い年なのか。いや、驚くのは失礼か。私は心の中で謝った。
「君の両親って、何でここに来ないの?」
彼は不思議そうに言った。私は胸が締め付けられた。そして、ゆっくり話し始めた。

私は昔から、体が弱かった。それでも、学校に通えた。私が高校に入る前までは。
「か弱い振りして気持ち悪いんだよ。」
高校に入学してすぐだった。私は虐めのターゲットにされた。両親にも相談した。しかし、誰も信じてはくれなかった。唯一真実を知っている担任は、早々に私を見捨てた。あれから何ヶ月経った頃だ。私は心身を病み、学校に行けなくなったのは。その時から、両親が私を蔑むようになった。私は両親にとってお荷物でしかないのだ。だから、両親は私に会いに来ない。私に価値がないから。

「僕もね。暫く両親に会ってないよ。」
彼は小さく言った。
「僕、もうすぐ死ぬんだ。そんな僕を、両親は捨てた。」
彼の声は、今にも泣き出しそうな声だった。気付いた時には、私は泣きながら彼を抱きしめていた。
「私達、似た者同士だね。」
彼は泣いていた。彼の涙が、私の服に染み込む。その涙はとても温かくて、優しかった。
「これからは、私が君の傍に居る。」
「じゃあ、僕は君を守るよ。」
私達は、小さな病室で誓った。お互いを見捨てないと。

二ヶ月後、彼は亡くなった。余命よりも一ヶ月も生き延びたという。

片付けられた彼の病室。ふと知りたくなった。彼にはどんな景色が見えていたのか。彼は一人でどんな景色を見ていたのか。窓の外を見ると、自然と涙が出た。
「綺麗だね。君みたいに。」
病室の窓から見えるものは、小さい。しかし、温かくて優しい景色が、そこにあった。

8/2/2024, 3:20:07 PM