海月 時

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「バイバイ。」
そう言って笑う彼は、もう私の中にしか居ない。

「辛い。」
言葉にすると余計に、辛くなる。あーあ、もう良いや。我慢しなくても良いや。私は雨の降る中、屋上に向かった。
「久しぶりに来たな。」
この建物の屋上には、思い出が詰まってる。その思い出の全てには、彼が居た。私の最愛。消え去った人。

「ねぇ、そこからはどんな景色が見えるの?」
彼と出会った日も、連日の雨だった。そして私は、自殺をしようとしていた。
「何も見えないよ。」
「それは君が泣いてるからじゃない?」
そう言い、彼は笑ってくれた。その事が只嬉しかった。久しぶりに誰かの笑顔を見た気がした。気付いた時には、私は全てを話していた。両親からの虐待、クラスでの虐め、辛かった事も悲しかった事も、話した。彼は無言で私の話を最後まで聞いてくれた。そして、言ってくれたんだ。
「これからは俺にも、君の痛みを分けてよ。」
この日から何ヶ月も彼は私の話を聞きに来てくれた。私はその時間のために、生きてきた。
「また明日ね。バイバイ。」
いつものように彼が言う。その帰る姿を眺める。何故だが嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は当たった。

彼は交通事故に遭い、この世を去った。

ここに来ると楽しかった思い出が溢れている。それと同じくらいに寂しさが込み上がる。じゃあこの場を去れば良い。それなのに足が動かない。とっくに気づいていたんだ。彼と出逢った時から。
「私、まだ生きていたいんだ。」
その事実を痛感し、涙が出た。今日は辞めよう。この場所は彼との思い出の地だから。雨の日は彼を思い出すから。

生きる=辛い。辛い=死にたい。こんな矛盾が頭を支配する。私は醜い。最愛の人が死んでも、まだ生に執着してしまう。もう生きる理由は消えただろうに。空を見る。雨は止まずに、振り続ける。私は小さく誓った。
「明日、もし晴れたら彼に逢いに逝こう。」

8/1/2024, 3:37:31 PM