海月 時

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5/5/2024, 12:34:55 PM

「天国ってあると思う?」
フェンス越しに君が言う。あの時、僕は死のうとしたんだ。それなのに…。今日も君のお節介のせいで、僕は酸素を消費する。

「一緒に帰ろう。」
あの日から、君は僕に付き纏ってくる。無視しても、君は変わらずに僕の横に来る。断り切きれず結局今日も一緒に帰った。帰路を歩きながら、僕は君に聞いた。
「何で、僕を助けたんだよ。」
「逆に何で死のうと思ったんだ?」
僕の問いに問いで返してきた。文句を言う気力もなかったから、誰にも言った事のない本音を話をした。
「見て欲しかったんだ、両親に。どれだけ頑張っても二人の世界に僕は居ないかった。だから、死んだら見て貰えると思ったんだよ。馬鹿だよな。」
「そうだったんだな。お前はよく頑張ってるよ。」
僕はその言葉を聞いて、泣いた。認められた気がした。涙が止まり、再度同じ質問をする。今度は答えてくれた。
「俺、病気で死ぬんだ。生きたくても無理なんだ。だからムカついた。勝手に終わらそうとするお前を見て。」
僕は言葉を失った。君にそんな事情があったなんて。僕は自分の悩みの小ささを思い知った。
「ごめん。」
精一杯出した声は風に飛ばされそうだった。
「気にすんなよ。ただ一つお願いがあるんだ。いいか?」
何だろうと思いながら、僕は頷いた。
「俺、友達居ないからさ、時々墓参りに来てくれよ。」
切ない願いに胸が苦しくなる。僕は下手に笑って言った。
「もちろん。友達だからな。」
君は笑った。嬉しそうな泣きそうな笑顔だった。

僕は君の墓の前に居る。手にはローダンセの花束。毎月持って来ては、最近あった小話をする。今日も話し終え、帰ろうとした。その時、僕の目に君が映んだ。僕は君に向かって、笑顔で言った。
「君に出逢えてよかった。君のお陰で僕は今日も息ができる。ありがとう、僕の最高の友達。」
風が揺れる。君の笑い声が耳に届いた。

5/4/2024, 1:19:56 PM

「退屈だ。」
彼女の口癖だった。いつも無表情な彼女。私がもっと、彼女に耳を傾けていれば、変わったかもしれないのに。

「まだ起きてる?」
夜中の2時。彼女からの電話だ。私は眠い目を擦りながら応答した。彼女は夢が叶うかのような嬉しそうな声をしていた。しばらく話したあと、彼女は、悲しそうな声になりいつもの決まり文句を言った。
「バイバイ。」
電話が切れた音が、暗闇に響く。私は、眠りについた。 
次の日、ニュースを見て絶句した。彼女が飛び降り自殺したのだ。私は、自宅を飛び出して、彼女の家へと走った。家に着いたら、両親が迎えてくれた。娘が自殺したにも関わらず、二人はいつもと変わらなかった。部屋には白い翼が生えた彼女が居た。彼女は解放されたような、澄みきった表情をしていた。初めて見る表情だった。
「何で死んじゃったの?」
私は震える声で彼女に聞いた。
『逃げたかったんだ。親からの過剰な期待からも、退屈すぎるこの世界からも。』
彼女の本音を初めて聞いた。長い付き合いだったのに、私は彼女の苦しみにも気付けなかったのか。私は自分の無能さに涙が出てきた。
『泣かないで。君は悪くない。弱い私が悪いんだ。』
「違うよ。私が気付かなかったせいだよ。」
『私は自由になれたんだ。だから、これでいいんだよ。』
彼女は嬉しそうに笑った。羨ましかった。私も逝きたい。そんな気持ちに気付いたのか、彼女は悪戯ぽく言った。
『そこでお願いがある。君がこっちに来るまでにたくさんの思い出を作って欲しい。そして聞かせてくれ。』
君はずるい。これで私は生きなくちゃいけない。これが私の罰なんだ。
「もちろん。私が逝くまで、待っててね。」
この言葉を聞いて彼女は、安心した顔をした。

耳を澄ませば、彼女の笑い声が聞こえる。まだ、死ぬには時間がかかりそうだ。私は今日も、屋上から片足を出す。

5/3/2024, 2:00:19 PM

『来るの、早かったね。』
私の訪れに怪訝そうな顔をする彼女。何で彼女が居るんだ。私は頭の整理がつかなかった。でも、ここがどこかは分かった。ここは、あの世だ。

「あの時、私死んだんだ。」
私の脳裏には、飛び出してきた車のナンバーが焼き付いている。私はその場に、座り込んだ。
『正確に言えば、死んでない。今、仮死状態。』
彼女は私に手を差し伸べながら、そう告げた。私は、絶望した。折角、また会えたのに。
『早くあっちの世界に帰りな。戻れなくなる前に。』
「帰りたくない。って言ったらどうする。」
『何もしない。生きるか死ぬかは自分が決めることだ。』
彼女は生前と変わっていなかった。冷淡な性格は健在だ。
『でも、出来る事ならまだあんたには、生きて欲しい。』
本当に君はずるい人だ。私を置いて逝ったのに、生きて欲しいだなんて。
「もう嫌だよ。君の居ない世界に居たくないよ。」
私は泣きながら、溜めていた気持ちを吐き出した。彼女はそんな私を見て、嬉しそうに微笑んでいた。
『あんたは馬鹿だね。私はどこにも行かないよ。』
彼女はそう言って私を抱きしめた。彼女の体温は死人のはずなのに暖かった。
「もし、辛くなったらここに来てもいい?」
『もちろん。その時は慰めるよ。』
彼女はどこまでも優しかった。早く離れないと。戻りたくないと思ってしまうから。
「そろそろ帰るよ。またね。」
『元気でね。早くこっちに来たら駄目だよ。』
私は初めて見た。彼女の泣き顔を。

私は、目を覚ました。それに気づいた母が、抱きついてきた。少し苦しかった。あの世での事は夢だったのだろうか。夢でもいいや。また彼女と会えたのだから。この話は誰にもしない。私と彼女だけの秘密だから。

5/2/2024, 11:48:18 AM

「もう、僕に関わらないで。」
その言葉を聞いた時、私は何も言えなかった。ただ、君の優しさに涙した。

「久しぶりだね。」
私は何事も無かったように、彼の居る部屋に来た。彼は驚いた顔を見せたが、すぐに険しい顔をした。
「何でここに来たの?」
当然の反応だ。私は先日、彼に拒絶されたのだ。それでも会いに来させたのは彼への執着心だろう。
「お見舞いだよ。それと、君と話をしに来た。」
「知ってたんだね、病気の事。黙っててゴメン。」
思っていたよりも素直だ。元々君は、嘘が苦手だったけ。そんな所も君の優しさだ。でも、優しさは時に人を苦しめる。私はその一人だ。
「あと、どれくらい生きれるの?」
「良くて2ヶ月。」
彼は俯きながらも答えてくれた。でも、その声は震えていた。
「何で黙って、私から離れようとしたの?」
「君には僕が死んだ後、泣いて欲しくないから。ずっと笑顔でいて欲しいから。でも、君と会わない日々が続く程、君と離れたくなくなるんだ。」
真っ直ぐな思いに、頬が熱くなる。それと同時に、愛しさが込み上がる。
「本当に馬鹿だな〜。そんな事で、嫌いになんてならないよ。」
この言葉を聞いて、彼は泣き出した。私は彼の涙を拭いだ。彼はありがとうと呟いていた。

あれから2ヶ月後。彼は亡くなった。そして今私は、彼の葬式会場の隅にいる。
「こんな思いをするなら、優しくして欲しくなかった。」
平気と言っておきながら、結局は耐えられなかった。自分の身勝手さに嫌気が差した。自嘲しながらも、涙が止まることはなかった。

5/1/2024, 12:55:00 PM

「綺麗だね。」
目がチカチカするほどカラフルな花火を見て彼女は呟いた。その目には涙が浮かんでいた。無力な俺はただ、手を握る事しか出来なかった。

「花火を見に行こう。」
彼女は宣言するように、立ち上がった。
「駄目に決まってるだろう。先生に怒られるぞー。」
俺は彼女に諦めるように言った。言ったはずなのに。俺達は今、花火会場に居る。何でこんな事に。俺は深い溜め息をついた。
「見てみて!虹色の綿あめだよ!」
俺の気も知らずに、屋台ではしゃぐ彼女。
「何でいきなり花火が見たいって言ったんだよ。」
「あー、その理由?…私、もうすぐ死ぬの。」
彼女は暗い表情でそう言った。何を言っているのか分からなかった。分かりたくなかった。ただ死という言葉が頭に響いた。
「病気、そんなに深刻なのか?」
「うん。あと半年生きれたらいい方だって。だからね。これが最後の我儘。付き合ってくれる?」
俺は黙って頷いた。彼女の病気が重いことは知っていた。しかし、こんなに早いとは。俺が掛ける言葉を探している間に、花火開始のアナウンスが流れた。
「ほら、花火見よ!」
いつもの元気な声で俺に言った。俺は花火を見る気にはなれなかった。花火大会が終わり、周りの人が居なくなった時、俺は重い口を開き、下手に笑いながら言っんだ。
「俺からも我儘いいか?まだ生きててくれ。少しでも長く、お前の傍に居たいんだ。」
彼女は大粒の涙を流した。
「我儘すぎるよ。でも、私も君の傍にずっと居たい!」
彼女は笑いながら、俺と約束をしてくれた。また来年も花火を見ると。

彼女は俺との約束を守ったあと、息を引き取った。葬式の時は、彼女の周りに花火のようなカラフルな花束が飾られていた。綺麗だねと小さな声で呟いた。

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