海月 時

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「綺麗だね。」
目がチカチカするほどカラフルな花火を見て彼女は呟いた。その目には涙が浮かんでいた。無力な俺はただ、手を握る事しか出来なかった。

「花火を見に行こう。」
彼女は宣言するように、立ち上がった。
「駄目に決まってるだろう。先生に怒られるぞー。」
俺は彼女に諦めるように言った。言ったはずなのに。俺達は今、花火会場に居る。何でこんな事に。俺は深い溜め息をついた。
「見てみて!虹色の綿あめだよ!」
俺の気も知らずに、屋台ではしゃぐ彼女。
「何でいきなり花火が見たいって言ったんだよ。」
「あー、その理由?…私、もうすぐ死ぬの。」
彼女は暗い表情でそう言った。何を言っているのか分からなかった。分かりたくなかった。ただ死という言葉が頭に響いた。
「病気、そんなに深刻なのか?」
「うん。あと半年生きれたらいい方だって。だからね。これが最後の我儘。付き合ってくれる?」
俺は黙って頷いた。彼女の病気が重いことは知っていた。しかし、こんなに早いとは。俺が掛ける言葉を探している間に、花火開始のアナウンスが流れた。
「ほら、花火見よ!」
いつもの元気な声で俺に言った。俺は花火を見る気にはなれなかった。花火大会が終わり、周りの人が居なくなった時、俺は重い口を開き、下手に笑いながら言っんだ。
「俺からも我儘いいか?まだ生きててくれ。少しでも長く、お前の傍に居たいんだ。」
彼女は大粒の涙を流した。
「我儘すぎるよ。でも、私も君の傍にずっと居たい!」
彼女は笑いながら、俺と約束をしてくれた。また来年も花火を見ると。

彼女は俺との約束を守ったあと、息を引き取った。葬式の時は、彼女の周りに花火のようなカラフルな花束が飾られていた。綺麗だねと小さな声で呟いた。

5/1/2024, 12:55:00 PM