「退屈だ。」
彼女の口癖だった。いつも無表情な彼女。私がもっと、彼女に耳を傾けていれば、変わったかもしれないのに。
「まだ起きてる?」
夜中の2時。彼女からの電話だ。私は眠い目を擦りながら応答した。彼女は夢が叶うかのような嬉しそうな声をしていた。しばらく話したあと、彼女は、悲しそうな声になりいつもの決まり文句を言った。
「バイバイ。」
電話が切れた音が、暗闇に響く。私は、眠りについた。
次の日、ニュースを見て絶句した。彼女が飛び降り自殺したのだ。私は、自宅を飛び出して、彼女の家へと走った。家に着いたら、両親が迎えてくれた。娘が自殺したにも関わらず、二人はいつもと変わらなかった。部屋には白い翼が生えた彼女が居た。彼女は解放されたような、澄みきった表情をしていた。初めて見る表情だった。
「何で死んじゃったの?」
私は震える声で彼女に聞いた。
『逃げたかったんだ。親からの過剰な期待からも、退屈すぎるこの世界からも。』
彼女の本音を初めて聞いた。長い付き合いだったのに、私は彼女の苦しみにも気付けなかったのか。私は自分の無能さに涙が出てきた。
『泣かないで。君は悪くない。弱い私が悪いんだ。』
「違うよ。私が気付かなかったせいだよ。」
『私は自由になれたんだ。だから、これでいいんだよ。』
彼女は嬉しそうに笑った。羨ましかった。私も逝きたい。そんな気持ちに気付いたのか、彼女は悪戯ぽく言った。
『そこでお願いがある。君がこっちに来るまでにたくさんの思い出を作って欲しい。そして聞かせてくれ。』
君はずるい。これで私は生きなくちゃいけない。これが私の罰なんだ。
「もちろん。私が逝くまで、待っててね。」
この言葉を聞いて彼女は、安心した顔をした。
耳を澄ませば、彼女の笑い声が聞こえる。まだ、死ぬには時間がかかりそうだ。私は今日も、屋上から片足を出す。
5/4/2024, 1:19:56 PM