朝の陽気が眠気を飛ばしたある日
だるそうに体を伸ばし隣を見やると、昨日泊まって行った彼がいた。
筋肉質の体に、赤紫色の短い髪。
彼の手をそっと握り、これが夢じゃないんだと改めて認識する。
起こさないようにベットから降り、身支度を済ませる。
顔を洗って、髪を溶かして、お手洗いに行って、着替えて冷蔵庫を開ける。
昨日の残り物を取り出し、レンジで温める。
ガチャリと扉が開き、彼が顔を出す。
レンジの音で起こしちゃったかな
「おはようございます桜さん」
「おはようございます よく寝れましたか?」
「はい、おかげさまで。桜さんがいなかったら、今頃俺は野宿でしたよ。」
「この辺りにカプセルホテルなんて、ないですもんね。
お役に立てて何よりです」
若干しどろもどろになりながらも、日常会話を行う。
大丈夫私?ちゃんと喋れてる?顔に出てないよね!?
「このお礼は絶対…」
「あ、あの!お礼なんですけど!」
「ん、はい。何がいいですか?」
手を後ろで強く握り、顔が熱くなる。
それでも今しかないと直感がそう言っている
私の直感は大体当たるんだ
「よかったら、川沿いの桜を見に行きませんか。
私一人じゃ、その………寂しくて!」
桜のような綺麗なピンク色の恋が、ここで始まったような気がした。
お題『春爛漫』×『愛慕』
ぽたり ぽたりと天井から水が落ちる
錆びついた鉄の壁と床は、肌に痛みを与える程の冷たさになっている。
そんな床の上で、俺は目覚めた。
起きあがろうとするが、腕も脚も上手く動かせない。
なぜかと視線を移すと、錆びて緑になった鉄で動けないようにぐるぐると拘束されていたからだ。
集中してそれを力で壊そうとするも、なぜか使えない。
「無駄じゃよ」
頭上から声がする
幼く、舌足らずのその声の持ち主は、大人でも足がつかないであろう椅子に、これでもかと偉そうに足を組んで座っていた。
緑色に錆びた大きな椅子に座るその子は、まるで人形のように整った顔立ちだ。
いわゆる"ロリ"と呼称されるぐらいの体躯
肩まで伸びたクリーム色の髪に、虹色の瞳。
黄色い軍服は、体に似合わずぶかぶかだ。
「その鎖は、想いの力を封じ込める力を有している。
お主の力でも、破壊することは不可能じゃ。」
「あんた、何者だ?何が目的だ。残念ながら俺はフリーでね。どこの組織にも所属してねぇから、人質としての価値はねぇぞ。」
「ふっ、そうあれこれ喋るんじゃない。
最後まで吾輩の話を聞くのじゃ。」
彼女は椅子から飛び降り、俺の前にしゃがむ。
「お主、あの宗教バカどもに一泡吹かせてやりたいと思わないか?」
宗教バカ
言葉は悪いが、どいつを指してるかはすぐに検討がついた。
「協力してほしいのか?」
「そうだ。だからこんなに強引になってしまったが、お主をここに呼んだんじゃ。お主の力を使われては、この拠点は壊滅してしまうからな。」
「…はいオーケーなんて、言えるわけないだろ。」
「ま、それもそうだ。だが、お主は必ず吾輩に協力することになる。」
彼女は椅子の裏にある何かを取り出した
それは大きな旗だった
軍隊が行進する時に使うぐらいの、あの大きい旗。
その旗は彼女の瞳の虹色に輝いており、真ん中には剣のマークが刻まれている。
それはあのマークだった
俺が探し求めていたあれだった
「改めて自己紹介をしようじゃないか」
「吾輩は虹色の開拓者。全ての者に色を与え、モノクロの馬鹿どもを粛清する皇帝でもある。」
お題『七色』×『吾輩』
視界が真っ暗になる
目を開けると、体は動かせなくなっていた。
目の前の地面の匂いと血の匂いが鼻を刺激する
呼吸をしようとすると、腹に激痛が走る。
さっきのそいつのせいだ 腹を蹴られたんだった
そいつはゆっくりとこちらに近づき、追い打ちとして腹を思いっきり蹴りやがった。
声に出ない悲鳴が頭の中で埋めつくされる
「弱者が私の理想に歯向かうものではないぞ」
人をなんとも思っていないその冷たい目で見下す
「もう二度と歯向かうんじゃない。あの女と同じ目に遭いたくなければな。」
「あの女…?」
眠りかけていた意識が、その言葉によって這い上がる。
「あの女って…誰のこと…言ってんだよ」
喉の限界を無視して、質問を投げかける。
そいつは何も喋らない代わりに、こちらにある物を投げてきた。
地面に落ちたそれは、クリオライトでできたブレスレットだった。
純白なはずのそれは、赤黒い血がこびりついている。
「まさか」
それは、俺が彼女にプレゼントした物だった。
半年前の誕生日に あの時に
自分の脳内が、別の想いに埋めつくされる。
その想いはなんなのだろうか
復讐?後悔?悲しみ?
もうわからない
だが、もう二度と会えないという事実がずっと脳内に残り続ける。
動かなかったはずの体を動かし、立ち上がる。
右脚は切られ、左目は使い物にならなくなっていた。
しかし今は歩けるし、見える。
右脚はいつのまにか白いクリオライトが生えており、なんだか視界の左は、キラキラと白く輝いているような気がするのだ。
冷たい目で見下していたそいつは、氷が解凍したように驚きの顔を浮かべている。ざまぁみろ
「さぁ歩け もう二度と後悔しないために」
そんな言葉が頭の中に浮かんだ気がした
手から白く輝くクリオライトの片手剣が生み出される
それを強く握りしめる
さぁ、第二ラウンドの始まりだ。
クリオライト 氷晶石
石言葉 『行動』『決断力』
お題『もう二度と』×『クリオライト』
空に広がる灰色の雲
顔も声もその雲と一緒にどんよりしてしまう
人通りのない住宅街
十字路を曲がろうとした時、後ろから声をかけられる。
あのうざい、ストーカーの声だった。
「こんな呑気にお散歩してていいのかにゃぁ?」
首輪についている鈴のような声だ
振り返ると、そこには予想通りの人物がいた。
白く短い髪に頭から生える二つの白い猫耳
猫と同じ瞳孔の黄色い目
首には赤いチョーカーに銀色の鈴
おまけに猫のような細い尻尾をふりふりと揺らしている
「おまえか猫女 なんのようだ」
「なんのようもクソもないにゃ 言葉通りだにゃ」
「俺は呑気にお散歩なんかしていない。ミッション遂行中だ、さっさとどっかいけ。しっし」
邪魔だと手を振るが猫女は見向きもしない
「ふーん それって、自殺者増加の調査のことかにゃ?」
「…そうだよ、原因が想背者の可能性が高いから、わざわざ俺が出向いて潰しに来てやったんだよ。」
さっさと会話を終わらせたいあまりに、無意識に足が進行方向に向いてしまう。
「じゃあお前はバカにゃ」
「あぁ!?なんだとてめぇ」
「犯人はもうここにいるにゃ」
「は…?」
「気づいてないのかにゃ?」
俺が意味がわからない顔をしていると、猫女は不気味に笑いながら頭上を指する。
「この雲、本物の雲じゃない。想背者にゃ」
とっさに頭上を見上げる
先ほどまで普通の雲だと思っていた雲は、もくもくと異常なスピードで顔の形を作り出す。
バレてしまったかと言っているかのように、鳥肌を立たせる不気味な笑顔を浮かべた。
お題『雲り』×『戯猫』
「ばいばい」
そっと彼女の頬に口付けをした
目の前には横たわり動かなくなった彼女の体
落ち着く紫色の長い髪
白と黒のフリルがついたワンピース
もう開くことのない瞳
自身のポケットからハンカチを取り出し、顔にかける。
深く息を吐き、彼女に背を向けた。
視線の先には鳥と豚が合体したような化物
内ポケットから磨かれた銃を2丁取り出し、構える。
「すまんが、全員逝ってくれ。」
彼女な安らかな時を守る為に、少しだけ煩い音を発射し始めた。
お題『bye bye…』×『安らか』