ふうり

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10/24/2025, 9:37:50 AM

「無人島に行くなら、あなたは何を持って行きますか」
スーパーボールの様に弾けた声が、辺りに響く。
△△が本を読む目を上に向けると、そこには××が居た。
放課後の誰も居ない教室。
黄昏の光が、教室にいる二人を照らしている。
オレンジ色の髪をさくらんぼの様にまとめた××と、栗色の髪をねぼすけの様に散らした△△。
2人っきりの教室、何も起こらないわけがなく…
この言葉に続くようなことは、起きなかった。

「聞いてるの?無人島に!行くなら!」
「聞いてるよ、うるさいなぁ。えー無人島?」
「そうそう!因みに私は災害用リュック」
「思ってたより現実的な物だった。うーん、そうだな」

△△がその答えを言おうとし、天井を軽く見つめる。
「それだったら、僕は…」
答えを伝えようと、視線を元に戻し、話しかける。
いや、話しかけられなかった。

何故ならば彼女の姿は目の前になく、辺りは教室ではなく、海と砂浜だったからだ。
「は?」
その声は、そばにある水の音にかき消され、虫の鳴き声に蝕まれる。
蒸し暑い風が制服を揺らし、ギラギラと照りつける日差しが喉にスリップダメージを与える。

2人っきりの教室、何も起こらないわけがなく…
本当に、"何か"が起きてしまった。

お題『無人島に行くならば』×『俯仰之間』

10/22/2025, 11:39:47 AM

「ねー早く行こうよー」
桜色の髪をした青年が、ジェラート片手に苦言を落とす
目の前には、同年代の学生が二人。
よもぎの様な髪色の青年と、まんじゅうの様な髪色の少女が、バチバチと雷を浮かべて睨み合っていた。

「あんたがスペルミスさえしなければ、赤点から逃げられたのに!」
「うるっせ!お前が『お互いに得意なやつカンニングしようよー』なんて、誘わなければこうなってなかっただろうが!」
「いやー二人とも勉強ちゃーんとしてれば、よかったんじゃーないのー」
「正論ぶつけないでもらっていいかな、学年三位。いいわよね、あんたは頭よくってさー!」
「あー火にあぶらを注いじゃったかー」
緊張感なんてゴミ箱に捨てたかの様に、ぺろぺろとジェラートを食べる。

「あーあ、またこうなっちゃったか。」
青年がジェラートを食べ終わり、コーンを床に落とす。
「どうしたんだ?」
彼の言葉など聞かず、それを足でぐしゃりと踏み潰した。
「な、なによ。嫌味言って傷ついたの?」
「んーちがうよー。ただ…」

ぐしゃりと、噛みちぎられる音が聞こえる。
「君たちが、化物に殺される未来を、変えられなかったなーって。」
不思議な石をポケットから取り出し、心臓の位置に構える。
「じゃあね。また会おう」
ねっとりと、もう飽きたかの様な、同じものを食べ続けたかの様な。
そんな声をこの次元に残し、彼の姿が消え去った。

お題『秋風』×『ねっとり』

10/22/2025, 10:24:22 AM

「きゃーー!!イチゴ様かっこいいー!」
「ウメちゃーーん!!今日も可愛いよー!」
黄色い声が、商店街中に響き渡る。
「なんだ、この声?」
「知らないのか?ほら、あの集団の真ん中に、目立った服のやつらが見えるだろう?あれが、イチゴ様とウメちゃんだよ。」
集団の方に目をやると、二人を中心に円となって住民達が集まっている。
様々な姿形をした住民に負けないオーラを放つ二人は、お互いを睨み合っていた。

「イチゴ様ー!お美しいです!!」
そう呼ばれた女性は、人間の立ち姿に蝶の様な羽と触覚が生えていた。
苺色の着物を上品に纏い、羽の模様はショートケーキのいちごの様に、存在感を放っている。
黄緑の複眼で、目の前の相手を見つめている。

「ウメちゃん!売れ残りのおにぎり食べるかい?」
その声に釣られて顔を上げた女性は、大きな口から涎を垂らす。
二足歩行しているクマの姿は、ピンク色のフリフリとした服で着飾られている。
熟す前の梅色をした体毛を震わせ、涎を拭いて着物の女性を睨み返す。

「おっ、二人ともべっぴんさんじゃねぇか。ところで、なんであんなにばちばちしてるんだ?」
「ん?そりゃあもちろん」
男の声が掻き消され、二人の女性が声を上げる。

「ぜっったい、あなたがくる予感しかしませんでしたわ。今日こそは、私の物ですわ!」
「いーや、ぜっっったいあたしの物だね!ここで会ったが千年目!」
二人の声が、同時に響く。
「「今日の焼きそばパンは、(わたくし)(あたし)の物だよ!!」」


お題『予感』×『二心』

9/29/2025, 7:41:13 AM

「それじゃあ、明日!」
幼馴染の彼女は、そう言ってにかっと笑った。
肩上で揃えられた茶髪を風に揺らし、教科書でパンパンになったスクールリュックを背負ったその背中は、いつにも増して可愛らしく見えた。

「うん、また明日。」
僕はそう言って、後ろに隠した手紙を握りつぶした。
ちょうど、漢字を書き間違えた事を思い出したのだ。
渡すのは、また明日でいい。
そう言い聞かせて、いったい何個の×をカレンダーに描き記したのだろうか。

彼女の姿が見えなくなるまで、僕はその場で立ち尽くし、空に広がっているかさばり雲を見つめていた。
ため息をつきながら、スマホを取り出してSNSを開く。
歩きスマホなんてダメだとわかっているが、このもどかしさを解消するためにはしょうがない。
彼女とは心がつながらないと言わんばかりに、反対方向の道を歩く。
しょうがない。だって僕の家はこちらなのだから。

TLにはしょうもないツイートと、有名人の投稿にリプをする有象無象が並んでいる。
そこに、一際目立つツイートがあった。
それは見たことのある住宅街が映された動画。
住宅から黒い煙が立ち昇り、画面が激しく揺れている。

「あれ、ここ公民館の近くじゃ…」
爆音が、その独り言をかき消した。
驚いて振り向く
振り向いた。音のする方に、振り向いてしまった。
それは、彼女が歩いて行った方角。
彼女の家がある、公民館付近の方角。

瞬きなんて許されなかった
遠くの家屋は轟々と燃え盛り
黒煙がかさばり雲を侵食していた
火の匂いが鼻の奥に突き刺さり
子供達の悲鳴が、甲高いサイレンが脳に響き渡る。
その中に、彼女の声が聞こえたような気がした。

お題『永遠なんて、ないけれど』×『かさばり雲』

9/26/2025, 5:56:58 AM

英雄になるって、小さい頃に君は言っていた。
100均で買ったおもちゃの剣を右手に持ち、空に掲げ、室内に取り込まればかりのバスタオルをマントのように羽織り、いつも英雄ごっこをしていた。

君は成長して、数奇な運命に呑み込まれた。
数多ある世界線、パラレルワールドを君は知った。
それは延々と燃えたビル群。
折り重なるように積み上げられた、息のしない子供達。
未来の権利を剥奪された、白髪の大人達。
胸を槍で貫かれる、己の姿。

千、万を超えるパラレルワールドを見た君は、吐瀉物さえ口から出すことが出来なくなった。
観測した全ての世界線は、必ず終焉を迎え、炎炎と燃え尽き、えんえんと子供の泣き叫ぶ声が聞こえたのだ。

君が生きているこの世界線だけは、まだ滅びを迎えず、その真実知る君が生き残っている。

炎が炎炎と君のそばに近づく前に
涙が延々と響き渡る前に
この世界を延々と生きながらえさせる為に
君が、英雄になるんだ。

お題『パラレルワールド』×『炎炎』

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