ハクメイ

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2/14/2026, 2:41:40 AM

そこは墓地だった
周囲には似た様な墓石と、少し枯れた花が刺さった花瓶達が、花畑の様に広がっていた。
その中の、真新しい花が飾られている墓の前で、一人の男性が手を合わせ、目を瞑っていた。

男性は、黒い髪と、少しよれた黒いジャケットを羽織り、右耳辺りの髪が白く染まっている。
40代後半ほどの少し渋い顔をあげ、立ち上がった。
その顔は朗らかで、まるで親友と会えた様な、そんな顔だった。

「じゃあな、また来るよ」
墓石に向かって、呟いた。
背を向け、墓石の間にできた隙間を通り抜け、簡易的に作られた駐車場に辿り着く。
シルバーの大きなワゴン車が、ぽつりと停車しており、後部座席の扉が自動的に開いた。

「奥方とは喋れたか?」
固定された車椅子に乗っている、薄い紫の長髪を蓄えた女性が、そう聞いた。
「できたよ。すまんな、待たせちまって」
男性が乗り込み、シートベルトをつける。
「良いっすよ〜丁度、情報を整理したい所だったんすよ〜」
前方座席、運転手席の隣に座っていた、若い銀髪の青年が、おちゃらけながら気遣う。
「それでは、向かいますか?それとも、準備してから行きますか?」
ハンドルを握っている、茶髪の若い女性が、不安がながら質問した。
「あぁ、このまま行こう。今日はフルメンバーだから、いつもより派手にやってやろう」

四人の共通した黒いスーツの胸元には、盾のような刺繍があしらわれている。
まるで一つのグループかのように、ここが居場所だと見せつけるかのように。
墓参りを終えた男性は、ニヤリと笑った。
『もう大丈夫』と、彼女に伝えるかの様に。

お題『待ってて』

2/12/2026, 12:44:38 PM

「じゃあな」
車椅子に乗った女性は、そう言って去ろうとした。
薄明に染まった空の下で、ボロっちい服を着た青年が、指輪を握りしめて、その後ろ姿をただ眺める。

「いいのか?」
高圧的な声が、その指輪から発せられる。
青年は顔をしかめ、数秒黙り込む。
「次会った時は、お前が死んだ時かもしれないぞ」
その声と重なる様に、青年は
「待ってください!」
と、車椅子に乗った女性に届く様に、大声を出した。
車椅子は止まり、後ろ姿を見せながら、
女性が返事をした。

青年は言葉を喉にひっかけながら、文を作ろうと、もがき続ける。
女性は、それをただ聞いていた。
「俺を、使ってください!さっきみたいに、俺はコイツと一緒に戦えます!犯人だって捕まえて見せます、だから!」
「お前は民間人だろ」
掠れた文を、女性は冷たく否定した。

青年の顔が曇る。
「だが」
青年の顔に、薄明光線が当たる。
「考えてもいい、お前に正義を誓う覚悟があるのなら」
青年の顔が、花畑のように輝いた。
「はい!」
返答は、太陽の様に暖かった。

お題『伝えたい』

2/9/2026, 1:49:18 PM

昨日頑張った貴方に花束を
体調が悪くても仕事に行った貴方に花束を
名前の無い家事をこなした貴方に花束を

「ねーねー!お姉さんは、なんでお花をあげてるの?」
「ん?そうだね、みんな偉いからだよ。
偉い人には、お花を渡すのさ。」

人を殺した貴方に花束を
復讐を犯した貴方に花束を
全ての黒幕である貴方に花束を

「止まれ!さもないと撃つぞ!」
「くそっ!あんな簡単に人を…花渡しは東に逃走中!」
「お前だけは、私が絶対に殺して見せる」

死に損ないに花束を
出会ってしまった貴方に花束を
私を信仰する貴方に花束を

追い詰められた私に、花束を。

お題『花束』

2/7/2026, 2:38:55 PM

どこにも書けないことなんて
生きてりゃ絶対生まれてしまう
それが雪の様に降り積もり
そこは雪原となった

一つの、人型の足跡がその雪に形を残していた。
それは奥へ、奥へと続いていた。
その人物は、一つの大きな石碑の前で立ち止まった。
革のブックカバーがかけられた文庫を、厚い上着から取り出し、石碑の前に、雪の上に置く。
数秒黙祷をし、その人物は自分の足跡を頼りに、来た道を引き返した。

雪の風に吹かれ、ペラペラとページが捲られる。
そこには、たくさんの文字が、脈絡なく、無差別に書き連ねられていた。
やがて雪の風が、それを呑み込み、その本は雪と一体化してしまった。
誰かに見られるべき文字は、死んでしまった。

お題『どこにも書けないこと』

2/6/2026, 11:14:07 AM

そこは薄暗い地下室だった
細い灯りを元に、ぼろっちい服を着た男が、あぐらをかいて下を向いていた。
男は、片手でドライバーを持ちながら、もう片方の手で丸い時計を手にしている。
カチャカチャと音を立て、ドライバーの種類を変えながら、時計の基盤をいじり続けている。
はー、とため息をつき、それを続けること数十分。

「はー!おわったぁ…!」
満面の笑みを浮かべ、鼻をいじる。
「俺でも直せちまうんだな。にしてもこれ、本当に"時を巻き戻せる"時計なのか?」
自分が直した時計を、まじまじと見つめ
「まぁいいか!何もなかったら、それはそれで」
と、自分の中で答えを出し、立ち上がる。

時計の針を直接触り、逆回りに無理矢理にと動かす。
もういいだろう、とツッコミを入れる辺りでその指は止まり、手を離す。
すると、針は勢いよく時計回りに動き出し、プシューと音を鳴らし始めた。
「うぉ!きたか、きたか!?」
男は時計に顔を近づける。針がぶつかりそうなぐらいに
しかし、その顔は途端に落ちた。

ごとりと、生首だけが、床に血をぶちまけながら。
数秒遅れて、身体もぐしゃりと床に倒れた。
首から、血のみずたまりが形成された。
男の首を千切った何かは、獣のような唸り声をあげる。

四足の獣は、その死体を容易く完食し、次に床に落ちた時計に食らいつく。
ライオンが骨付きの肉を食べるかのように、音を立てながら、それは数秒で体内に吸収された。
獣は、使命を果たしたのか、いつのまにか部屋に生まれた、穴に入り、姿を消す。

部屋に残ったのは、薄暗いランプと、床に残った血溜まりだけだった。


お題『時計の針』

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