空に広がる灰色の雲
顔も声もその雲と一緒にどんよりしてしまう
人通りのない住宅街
十字路を曲がろうとした時、後ろから声をかけられる。
あのうざい、ストーカーの声だった。
「こんな呑気にお散歩してていいのかにゃぁ?」
首輪についている鈴のような声だ
振り返ると、そこには予想通りの人物がいた。
白く短い髪に頭から生える二つの白い猫耳
猫と同じ瞳孔の黄色い目
首には赤いチョーカーに銀色の鈴
おまけに猫のような細い尻尾をふりふりと揺らしている
「おまえか猫女 なんのようだ」
「なんのようもクソもないにゃ 言葉通りだにゃ」
「俺は呑気にお散歩なんかしていない。ミッション遂行中だ、さっさとどっかいけ。しっし」
邪魔だと手を振るが猫女は見向きもしない
「ふーん それって、自殺者増加の調査のことかにゃ?」
「…そうだよ、原因が想背者の可能性が高いから、わざわざ俺が出向いて潰しに来てやったんだよ。」
さっさと会話を終わらせたいあまりに、無意識に足が進行方向に向いてしまう。
「じゃあお前はバカにゃ」
「あぁ!?なんだとてめぇ」
「犯人はもうここにいるにゃ」
「は…?」
「気づいてないのかにゃ?」
俺が意味がわからない顔をしていると、猫女は不気味に笑いながら頭上を指する。
「この雲、本物の雲じゃない。想背者にゃ」
とっさに頭上を見上げる
先ほどまで普通の雲だと思っていた雲は、もくもくと異常なスピードで顔の形を作り出す。
バレてしまったかと言っているかのように、鳥肌を立たせる不気味な笑顔を浮かべた。
お題『雲り』×『戯猫』
「ばいばい」
そっと彼女の頬に口付けをした
目の前には横たわり動かなくなった彼女の体
落ち着く紫色の長い髪
白と黒のフリルがついたワンピース
もう開くことのない瞳
自身のポケットからハンカチを取り出し、顔にかける。
深く息を吐き、彼女に背を向けた。
視線の先には鳥と豚が合体したような化物
内ポケットから磨かれた銃を2丁取り出し、構える。
「すまんが、全員逝ってくれ。」
彼女な安らかな時を守る為に、少しだけ煩い音を発射し始めた。
お題『bye bye…』×『安らか』
「ねぇ、あれみて!」
緑色の小さな手で君は僕の手を掴む
そして目の前に広がる景色を見せてくれた
それは宴会場だった
様々な化物…想背者(そせいしゃ)と呼ばれる存在達がぎゃーぎゃーと騒ぎながら笑い合っている
2mある三つ目の巨人
象のように長い鼻を持つネコ
豆電球に手足が生えているやつに
ドレスを着た紫色のドラゴン
そんなのが大量だ
かく言う僕も彼らと同じ想背者なのだが
手を掴んだ君は、その光景を指さしてキラキラとした瞳でこちらを見つめてくる。
緑色の小鬼のような君は、小さな足でここまで僕を連れてきてくれたのだ。
「わかった、一緒に行こう。」
その好意を無下にすることなどできない
僕が承諾すると、君は口を大きく開きにっこりとなる。
「いこ!いこ!」
小さい手に似合わない怪力で、僕はなすがままに引っ張られる。
淡い光に包まれ、酒と想いの匂いにまみれたその場所へ、僕たちは足を踏み入れた。
まさか
これが最後の景色なんて思いもせず
お題『君と見た景色』×『宴』
「ちょっと、忘れてるわよ!」
お嬢様の声と共に宙に浮かぶ弁当箱
慌てながらそれをキャッチし ほっとため息をついた
「飯作ったやつの投げ方じゃねぇ」
「しょうがないでしょ?もう出撃なんだし」
お嬢様は白くてフリフリのエプロンを脱ぎながら、時計を指差す。
「まっずい!それじゃ行ってくるわ!」
司令室へ向かおうと扉に向かおうとすると
「待って!」
「今度はなんだよ」
呆れながら振り向くと
お嬢様は俺の手を握っていた
頭に?が5個ぐらい浮かぶが、すぐに納得する。
「こうしないと、不安になるんですもの。」
「…わかってるよ 柚みたいにならないかってことだろ」
お嬢様はこくりと頷く
「………」
「絶対そうはならない。なんて言わない
ただ、ならないように最善を尽くすし、生きるのを諦めないって誓うよ。」
お嬢様はうつむいて何も言わないままだ
「流石に行かないと、司令官様にどやされる。」
握ってくれたその手を優しくほどく
「いってきます」
「…いってらっしゃい」
お嬢様は泣きそうな声でそう言ってくれた
「さて、また手を繋げるように頑張りますか。」
弁当箱を片手に持ち、司令室に早歩きで向かった。
お題『手を繋いで』×『昼飯』
荒く口から息を吸って吐く
腕が痛くなるほど大きく振る
感覚がなくなるほど足を目一杯前に出す
心臓がうるさいほど強く響く
月が雲に隠れたその時
ネオンが輝く都会の路地裏を
私は全力疾走していた
右を見ても左を見ても
どこにもあの存在はいない
足を止め、スキップしている心臓を休める。
息を細かく吸っては吐き、なんとか落ち着かせる。
もうすぐ雪が降るという時期なのに、今の現象のせいで汗がべたりと服に付いた。
そんな汗ばんだ体を涼ませるかのように、後ろから風が吹く。
そう、風が。涼しい風が
いや、おかしい。
さっきまで風なんて吹いていなかった
違和感を感じ、神経をその風に向ける。
その風は、普通の風ではなかった。
ピリピリと肌が痛くなるような、まるで刃物にでも刺されたかのように血の気が引く。
風に色がついているなら、それは間違いなく赤だ。
狂気の赤色 そう、狂風だ。
後ろを振り返る
その存在はそこにいた 佇んでいた
2mある人のような姿だ。でも人じゃない。
二つの手で二つの刀を手に持ち
二つの足で地を踏み締めていた
全身は黒猫のように真っ黒で、夜を切り取ったかのように人の恐怖を思い出させる。
獲物が休憩するのを待っていたかのように、それは顔と思わしき部分を動かして、ケタケタと笑う。
耳に残る、金属音のような声だ。
始まるよと言わんばかりに二つの刀を大きく振るう
その太刀風だけで、近くの窓ガラスが割れる。
あぁ、まだ終わっていない。
朝になるまでこの存在から逃げ切らなくては
お題『どこ?』×太刀風