月が真上に立って世界を見下ろす
ビルの屋上で淡い光を放つビル群を眺めながら、隣にいるあなたはこう言った。
「さよなら」
とっさに手を掴もうとするが、それは叶わなかった。
あなたの手は、体は、血液をもった肉体から淡い雪の体となり、溶けてしまったから。
私の手が、溶けてしまった雪に触れる。
雪は一瞬にして溶けて、床に水たまりを作り出す。
彼の言動を思い出す
これが彼の言っていた、死なのだろうか。
これが彼の言っていた、望んだ姿なのだろうか。
これが…彼の言っていた、幸せなのだろうか。
今朝見たニュースを思い出す
人が跡形もなく消えてしまうニュースを
まるで雪に溶けたかのように
まるで重なった世界に移動したかのように
まるで人ではなく化物になってしまったかのように
その人達は消えてしまったのだと
頬を伝う涙を拭い、その場を後にした。
「これがあなたの幸せなら、私も私の幸せを目指す。」
誰にも届かない独り言を、水たまりに伝える。
「あなたに大好きだって、伝えてみせる。」
あなたを想う気持ちを、手の中で握りしめた。
お題『大好き』×『淡雪』
落ちていく
私の楽しさも 息苦しさも 生き甲斐も
すべて大きな穴に落ちてしまった
今まで楽しかったことが楽しくなって
今だけ楽しくないと思っても
それがいつまで続くのかわからない
不安の大きな穴に
私の心は落ちていく
密接した空間から解き放たれて
自由と思いきや 今までの鎖が恋しくなって
不安になって
また 落ちていく
私の痛みが落ちていく
今まで何気なく過ごしていて
その日々と別れなくちゃいけなくて
この日常が続かないことを許容できなくて
考える心を大きな穴に投げ捨てた
落ちていく 私の生き甲斐が落ちていく
でも
まだ私は生きていたい
自分の意思で生きて
自分が楽しい娯楽を見つけて
自分だけの悲しみへの向き合い方を知って
自分だけのエンドを迎えたい
あぁ
私はまだ落ちれないな
お題『落ちていく』
あなたとわたし
全く同じ時に生まれた
貴方の声と顔は
私の声と顔と同じだった
あなたとわたしは同じだと思った
あなたとわたし
母親が死んだ
貴方は本を読み漁った
私は泣きじゃくった
あなたとわたしは同じだと思っていた
あなたとわたし
考え方が違った
貴方は論理的に考えるのが得意で
私は感情的に考えるのが得意だった
あなたとわたしは違うと思った
あなたとわたし
歩む道が変わった
貴方は研究者になって
私はカウンセラーになった
あなたとわたしは違った
あなたとわたし
目指したいものは同じだった
貴方はとある病のワクチンを作り
私は残された人の心を支えられるようになった
あなたとわたしは同じだった
お題『あなたとわたし』
ふわり、ふわりと蝶が飛ぶ。
柔らかい羽に重たい血が落ちてくる
蝶は雨宿りをしようと
大きな木の下にたどり着く
目の前に映る花畑は
血の雨で真っ赤になっていた
お題『花畑』
崩れ切った建物で
破れたカレンダーがひらりと落ちる
可愛いかぼちゃが描かれ、31日に花丸が付けられ、
側には仮装用のマントや、仮面がちらかっている。
外には破れた白旗が静かに揺れ、誰かの嗚咽声が街中に響き渡る。
統一された服を着た者達が、銃を握ったままあっちこっちで横たわっている。
そんな街に、裸足で歩く音が聞こえてくる。
青色の服が返り血で染まり、小さな体躯には似合わない銃を背負っている。
赤く染まった目で、銃を取り出し構える。
目線の先には、白色の制服を着た男が、にたにたと笑っていた。
物陰に隠れ、冷静に標準を合わせる。
呼吸を落ち着け、次に撃つ標的を確認し、震えなくなった指で、引き金を…引いた。
敗れた町に、反逆の発砲音が鳴り響いた。
お題『カレンダー』