ふうり

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月が真上に立って世界を見下ろす
ビルの屋上で淡い光を放つビル群を眺めながら、隣にいるあなたはこう言った。
「さよなら」
とっさに手を掴もうとするが、それは叶わなかった。
あなたの手は、体は、血液をもった肉体から淡い雪の体となり、溶けてしまったから。
私の手が、溶けてしまった雪に触れる。
雪は一瞬にして溶けて、床に水たまりを作り出す。

彼の言動を思い出す
これが彼の言っていた、死なのだろうか。
これが彼の言っていた、望んだ姿なのだろうか。
これが…彼の言っていた、幸せなのだろうか。

今朝見たニュースを思い出す
人が跡形もなく消えてしまうニュースを
まるで雪に溶けたかのように
まるで重なった世界に移動したかのように
まるで人ではなく化物になってしまったかのように
その人達は消えてしまったのだと

頬を伝う涙を拭い、その場を後にした。
「これがあなたの幸せなら、私も私の幸せを目指す。」
誰にも届かない独り言を、水たまりに伝える。
「あなたに大好きだって、伝えてみせる。」
あなたを想う気持ちを、手の中で握りしめた。

お題『大好き』×『淡雪』

3/19/2025, 7:02:06 AM