自転車に乗ってどこへでも行ける気がした
通っていたキャンパスへ
友人が住む山梨へ
風が通り抜けた先にあるあの海へ
足をつかないでどこまで進めるか坂道をくだったこともあった
雨の降る日にずぶ濡れになりながらひたすら漕いだこともあった
現在は次男を乗せて息子と3人で自転車を漕いでる
自転車は私の友人であり人生の道標のよう
絵里
「通行手形」
紺色の電車が終点に到着した。そこは異世界への入口だった。覚悟を決めた顔つきの面々が次々と電車を降りる。係の者に通行手形を押されたら、もう現世には戻れない。茶色いボストンバッグに最低限の荷物だけ入れて、ためらいもせず係りの者に手のひらを見せた。通行手形を押されようとしたその時、ハッとした表情で私を見ると他の者を呼んだ。3人が私の手のひらを見てざわつく。
「どうしたんです?早く通行手形を押してください」
1人が意をけして神妙な面持ちで答える
「あなたに通行手形を押すわけにはいきません。どうかお戻りを」
深々と頭をさげる。
「なぜです?私はもう現世に未練などありません。いいから早く押してください」
なぜ?意味がわからない。予想外のことに脳が混乱する。希望者は全員通すルールではなかったか?
「ここで今通したら、あなたは絶対に後悔する。あなただけではなくそのお腹の子も……」
「は?」
お腹の子?そんなまさか…
「どうか現世を生きてください。あなたにもその子にも未来がある」
私はそれでも行こうとしたが強引に帰りの電車に乗せられてしまった。
私には好きで好きでたまらない人がいた。しかしその人は妻子もちで、身体だけの関係でも繋がれるだけでよかった。元々結婚願望なんてなかったし、いつか別れるからなんて言われていたが信じていなかった。ある日いつものホテルで待ち合わせすると、彼の様子がおかしかった。どこかうわの空で話しをしても力なく笑うだけ。何かあったか尋ねると、会社が倒産寸前でかなりの額の借金を背負うことになりそうだと……私は何とかしたいと資金調達に走ったが、彼は自ら命を絶ってしまった。好きでたまらない彼に会えないなら、生きてる意味がないと思ってあの場所に向かった。
診察を受けると妊娠3ヶ月だった。私は泣き崩れた。
「どうか現世を生きてください」
私は新しい生命を待ちわびながら今を生きている。
お題:終点 絵里
「喋よ花よ」
小さい頃から両親や祖父母に可愛がられてきたけれど
自分が世界一可愛いと思ったことないし、感情が表に出しにくい子でブスっとしてることも多かったから、父からいつも
「女の子なんだから愛想良くにこにこしてなさい」 と
言われていた。子どもだからイヤな時はイヤだし、楽しい時は楽しいと素直に表現したかっただけ。何で大人に気を遣わなければならないの?と父を嫌っていた。私は私らしくいたかった。大人になるまでは、男の人に媚びるとか機嫌をとるとかそんなことはしたくないから、あからさまに嫌われたりもしたっけな……とにかく、女だから男だからの決めつけとか窮屈で仕方なかったから、今の時代になってからはだいぶ生きやすくなったよ。
喋よ花よ、親になり息子が2人生まれてそれはそれは可愛いし大切に育てている。でも甘やかすのはまた別だと思う。両親に感謝しているのは、いつもどこかに連れて行ってくれて色んな経験をさせてもらったこと。色んな大人に会わせてくれたから、のちのち役にたったこと。ただ2人とも忙しくて話しを聞いて貰えなかったり、母からキツく当たられたことも多いから、息子たちにはそんな思いをさせたくない。
絵里
「未来時計」
なかなか来ないバスを待ってる最中に、雨が降ってきた。幸い屋根があるしあと20分もすればバスは来るからと、スマホを片手に暇を潰していた。するとスマホの向こう側に誰かの足がみえる。僕は顔をあげると
「こんにちは」
優しそうな笑みを浮かべる老人の姿
「こんにちは」
挨拶して会話するのかしないのか迷っていると
「バスはもう来ないようだよ」
「え?」
まだ来ないの間違いじゃないのかと思ったが
「君は運良く救われたようだね」
「はは、、そうですか」
失礼かもしれないけど、少しボケてるのかもしれないな
「これをみてご覧」
「はあ」
老人が腕を差し出すと見たことのないような腕時計をつけている。数字が午前11:14を差した途端に赤くピカピカと点灯している。
「これはなんですか?」
僕が尋ねると老人は深刻な表情で目をつむる
「君が乗ろうとしていたバスが事故にあったことを知らせてるんだ」
「そんな!!」
そんなの嘘に決まってる。だいたい定刻より8分遅れるって通知があったし。僕は急いでスマホを開いた
「…うそだろ」
hohoニュースの速報で僕が乗るはずだったバスが、すれ違いざまにトラックと正面衝突して、崖から転落したと。現在救助中だが、けが人や死者は多数いると…
「おじいさん何者なんですか?」
「私はこの未来時計の後継者のひとりだ。これを引き継いでからは、危険を回避するよう先回りして対象者に伝えるのが役目。」
「だからおじいさんはバスの事故を回避させようと僕の前に現れたんですか?」
「そうだ。だがバスが遅れたことが幸いした。もし定刻通りにきて乗っていたら、君はここにはいない」
バスの悲惨な光景を想像して鳥肌がたった
「運命は最初から決まっているんだ。だが、それを回避できるのは未来時計の役目」
おじいさんはそう言うと立ち去った。後日、僕の自宅に未来時計が届いた。僕も後継者となったのだ
お題:最初から決まってた
絵里
「太陽」
君に出会ってから夏が特別な季節になった
蝉の鳴き声がする青い空の下
太陽のように笑う君が眩しかった
私はそんな君の隣りにいることが嬉しくて
何気ない毎日が続いていくだけで良かった
君しか呼ばないあだ名で私を呼んで
私も私しか呼ばないあだ名で呼んだ
そんな特別感が幸せだ
ある日待ち合わせ場所に見知らぬ男の人の姿
「彼氏ができたんだ。紹介するね」
私に1番に報告したかったって
心の中に急に暗雲が立ち込めて…
ぎゅっと拳を握りしめながら
「良かったね。おめでとう!1番に報告してくれて嬉しい」
精一杯の笑顔で言うしかできなかった
どうして私じゃダメなの?
彼より長く一緒にいるし君のこと1番分かっているのに
私がどんなに頑張っても彼には勝てない無力さがやるせない
君は当たり前のように私の隣りにいて
彼の話しをする
彼は後からきたくせに、当たり前のように彼女と手を繋ぎ
当たり前のようにデートして、キスをする
こうなるなら最初から
特別だなんて言ってほしくなかった
一緒にベッドで寝るんじゃなかった
眠る君に…キスするんじゃなかった
さようなら、私の夏恋
絵里