小絲さなこ

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1/13/2025, 8:33:03 AM

「未練があるのは私だけ」


もう二度と会えないあの子と会えるのは、夢の中だけ。
その回数も、ここ数年はめっきり減ってしまった。
このままでは、顔も声も忘れてしまう気がする。

夢の中の彼女は、私の心の中に住んでいるのだから、本人ではない。そんなことわかっている。
たとえ別人でも構わない。
他に方法が無いのだから。

未練があるのは私だけなのかもしれない。

あの頃言えなかったこと。出来なかったこと。
まだたくさんあるのに。


────あの夢のつづきを

1/12/2025, 8:22:39 AM


「ついに魔の手に堕ちてしまった」


「ついに、買ってしまった……」
「はぁあ〜」
彼が息を吐く。

同棲生活も半年を過ぎ、季節はふたつ巡って、冬。
部屋の真ん中に鎮座しているのは、悪魔の暖房器具だ。

「やばいこれ……」
「人をダメにする暖房器具だこれ」

一度入ったが最後、出られなくなる。危険極まりない。

「タイマーセットして、時間になったら出るって決める?」
「そんなことで、こいつの魔の手から逃れられるとでも?」
「思わない」
「あー、今、これを買ってしまったことを後悔してる」
「じゃあ転売する?」
「するわけねーだろ」


────あたたかいね

1/11/2025, 8:35:18 AM

「未来を知りたいかと聞かれたら」


何かに導かれるように入っていった路地の奥。
小汚い雑貨屋の店先。木の箱の上に並べてある古い鍵が気になった。

「あら少年。その鍵が気になるの?」

肌の露出多めの服を着た年齢不詳の女性が微笑んでいる。

「あ、いや……」
「その鍵であの扉を開くと、未来を見ることが出来るのよ」

そう言って女性は店の奥を手で示した。

「……はぁ」
「信じてないわね」

いや、どう考えても怪しいだろこれ。

そういえば、前に兄貴がこの辺で変な体験したって言ってたな。
古本屋に色っぺーおねーちゃんがいて「それは未来がわかる本よ」とか言われたとか……

「未来っすか。そんなん知ったら面白くなくね?」
「あら、少年はそういう考えの持ち主なのね。残念」

ちっとも残念そうな表情をしていない女性に疑問を抱く。

なんか、嫌だな……

ぺこりとお辞儀をし、女性に背を向ける。

本能的な恐怖と嫌悪感が全身を駆け巡っているためか、自然と早足になった。


「残念だわ……」


女性の声に思わず振り返る。

あったはずの怪しげな店も女性の姿も、そこにはなかった。




────未来への鍵

1/10/2025, 8:09:43 AM

「パンケーキは飲み物です」



「うわあ〜あ」

声を上げ、彼女は瞳を輝かせた。

「すごぉい、ぷるぷるしてる!」

そう言って、彼女はパンケーキをフォークの背で撫でる。

「いいから食え」

作った俺が促すと、彼女は両手を合わせて「いただきます」と瞼を閉じる。

「んん〜!なにこれぇ〜!とろとろ〜!」
「……ど、どうだ?」
「美味しい……はぁ、パンケーキって飲み物だったんだね」
「いや、どっちかっていったら粉もんだけど」
「メニュー名は『パンケーキは飲み物』で決まりだね!」

そう言う彼女の瞳はキラキラと輝いている。まるで満天の星空のように。


「いや、粉もんだから」


────星のかけら

1/9/2025, 7:37:14 AM


「いい雰囲気を壊す方法」


ひと昔、いや、ふた昔だったら、電話が鳴って良い雰囲気の男女に邪魔が入っていた。
今や連絡のほとんどがSNS。

「うーん……どうやってふたりの邪魔をするか」

唸り声をあげて頭を抱える。

「なに物騒なこと考えてるの」

同棲中の彼女が俺の顔を覗き込んだ。

「いや、今描いてる漫画の……このふたりのことなんだけど……」

見つめ合うふたりの顔が近づいて……という、いい雰囲気のシーン。そこに邪魔が入るという、恋愛ものでは定番の展開。
イマドキの不自然ではない邪魔とは何か。それを考えているのだ。

「会社からの電話っていうのも、最近は使えないしね」
「そうなんだよ。こんなことならふたりの会社をブラックにしておけばよかった」
「通知を鳴らしまくる、とか?」
「いや、そんなウザいこと今時の若者しないだろう。やはりここは親からの電話とか」
「親もSNS使ってる世代じゃない?うちの母親、私より使ってるし」
「だよなぁ……もう、ばあちゃんからの電話にするか」

あぁ、人の恋路の邪魔は難しい。


────Ring Ring...

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