月凪あゆむ

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5/19/2024, 10:12:20 PM

突然の別れ

 ぼくときみで、秘密基地を作ったのが、春のころ。
 楽しかった。
 異性で、ここまで気が合う子はこれまでいなかった。とても、うれしかったんだ。

 でも、お別れは突然だった。


「転校……!?」
「うん、お父さんのお仕事で、遠いところに」
 びっくりするくらい、きみは落ち着いてた。焦るぼくが、おかしいのか? いやいや、落ち着きすぎでしょきみ。
「それでね、ちょっと提案なんだけど」
「う、うん……?」

「十年後、またここで会いたいの」

「……はあ?」
「ほら、歌があるでしょ。あれ、わたしたちもやりたい」
 ――十年後の8月、また会えるのを信じて――
「いや、ええと。でもここ、来年アパートになるんじゃなかったっけ」
「まあ、そこは深く考えずにね」
「えぇ……?」



 そんな、お世辞にも感動的な約束とは言えない会話で、十年後の約束を取り付けられたわけだけど。


「……やっぱり、アパート建ってるじゃねえか」
 十年後、俺は来た。ここに。
 彼女もいるのか、なんてわからない。何せ十年だ。あれこれ色々と、変わってるはずだ。
 そう。「ぼく」が「俺」になるみたいに。

「……なんか、馬鹿みたいだよな」
 いないだろうと思い直して、歩きだそうとした、その時。
「あのー。そちらのひと。ちょっと聞いていいですか?」
「?」
 後ろからの声に、振り向くと。
「――え」
 そのひとは。
「ええっと。あのー。……十年後にここで会おう、なんて約束を、してはいませんか?」
「……きみ、変わってないな」
 髪も染めてない。まなざしにも面影がある。声も、なんとなく聞き覚えがあるような気がする。
 そこにいたのは、正真正銘の「きみ」だった。
「……やっぱり! あなたは、かなり変わったね。髪も染めてるし、やっぱり声変わりしてるし。……でも、わかるよちゃんと。大丈夫!」

 これもこれで。あまり「感動的な再会」かはわからないけど。まあ、現実はそんなものだろう。

 別れが突然なら、再会も突然だ。

5/17/2024, 10:01:12 PM

真夜中

 夏のサンタクロースほど、暇な者はいないだろう。
 そりゃ、だって。
 彼らの仕事は、正直夏にはないも等しい。

 そんなこんなで。
 今日も今日とて、サンタクロースは真夜中に宴を開いていた。
 とはいえ、サンタクロースは年齢的にも「おじいさん」にあたる。酒もほどほどにせねば、命も縮むというもの。

「いやー、最近のノンアルコールは、すごいのう」
「いやいや、やっぱり本物の酒が一番じゃよ」
「しかし、これならいくらでも飲めそうではないか」
「まあ、今季は暇じゃから、二日酔いをしても、バチは当たらんじゃろう」
「ほぉっほぉっほぉ。それもそうですな」

 その姿を、トナカイたちは小さな隙間から眺める。
「また、サンタのじいさんたち、お酒飲んでるよ」
「子供たちは、到底想像もしてないだろうね、サンタクロースの泥酔姿なんて」
「あれ、でもあれって、ノンアルなんだよね? なんで二日酔いとか言ったり、ほんとに酔っ払ってるの?」
「そりゃ、キブンってやつじゃないかな」
 トナカイたちは、思う。
 
 なんと、ロマンのないことか。

5/15/2024, 10:39:38 PM

後悔

 僕は今日、余命宣告を受けた。
 一年だ。
 なんてことだ。

 僕には、好きな人がいる。
 明日、告白しようと思っていたところなのに。親友に付き合ってもらって、シュミレーションなんてことすらしたのに。

 余命一年の僕じゃ、もしも付き合えても、最後には彼女を悲しませることしか残らないのに。
 だから。

「……で、告白は諦める、って?」
 親友に伝えると、なぜか呆れられた。
「それでお前、後悔しないのか?」
「……」
「こっ恥ずかしいシュミレーションまでしたのに?」
「……」

 親友は、ため息のあとに。こんなことを話した。
「俺の彼女が、そうだった」
「え?」
「――俺の好きになった相手も、余命宣告を受けてた」
「…………え」
「でも、彼女は俺に告白してくれたんだ」

「たとえ、自分がひとより長くは生きられないとしても。自分の感情に、嘘はつきたくなかった、って」

「……そんな、話は」
「ああ、いま初めて言った。報告の前に、彼女は亡くなったからな」 
「亡くなった……」

「いいか? 余命宣告を受けて。気持ちを伝えるのは、そりゃ勇気がいる。相手の気持ちも考えると、踏み出せなくなるのもわかる。……けどさ」

「俺は、告白されて、ちゃんと好きになって。先に逝かれても、後悔はしてない。それは、彼女が悔いのない生き方をしたから、だ」

 悔いのない、生き方。
「お前は、気持ちを伝えないで終わって、後悔はしないって言えるのか?」
「……言え、ないな」
「だろう?」
 そこでやっと、今日のなかで初めて、親友は笑った。


 僕は彼女に告白した。余命宣告のことも含めて。
 それから。彼女との交際は、今二年目になる。余命宣告よりも、長く生きれている。まあ、油断はできないけれど。
 きっと、そう遠くない未来、僕は親友の恋人と同じところへ逝く。
 そうしたら、どうしようか。せっかくだから親友のこと、聞いてみたい。

 でも、まだ先であってほしい。
 彼女や親友、大切なひとたちとの「今」を。
 今日も、生きよう。

5/14/2024, 11:33:11 AM

風に身をまかせ

 ――空を駆ける。
 そんなことができたら、どんなに楽しいだろう。
 そう、思っていたのは、いつだったろうか。

 とある所に、ある森が存在する。とても、奇妙な森だ。そのなかでだけは、空と陸が逆転するらしい。だから、「空を駆ける」ことも可能な森。
 迷うと、帰ってはこれない。でも、楽しい場所らしい。

 ラビリンス・ワープ
 またの名を、空鳴る迷宮。



「ソラのコトリ」
 似たような意味でいうなら、「探検家」とか「冒険者」なんて呼ぶ。迷宮に入れる人たちはそう呼ばれている。なんともヘンテコな機関だ。
 ――今日、私はソラのコトリの一員となった。

「君には、迷宮のなかにいるカゼビトを、捕まえてもらおう」
 迷宮の住人を、こちらでは「カゼビト」と呼んでいる。ここでは、「命令」は絶対だ。疑問も持つことは許されない。

 私は命令のもとに、空を駆け、迷宮へと、踏み込んだ。
 そして、みたのは。

 炎が荒ぶり、水が枯れ、風がなぶられる。
 それは、平穏と対極にある。もはや戦場でもない、虐殺だ。
 私に与えられた命令は、「人を捕らえる」こと、言い換えるなら、捕虜を連れて戻れ、ということか。
「おい! あそこにカゼビトがいるぞ!」
「早く捕まえろ! 風になる前に!」

 ――風に、なる?

 ふと、気付いた。
 炎になぶられているのは、きっと人だ。それが、風になる。それは、つまり。
 カゼビトが、自らの死を選ぶこと。
 そこまで気づいて、「カゼビト」の意味を知るなんて。もう遅い。……でも。

「まって! あっちには水があるから、そこへ逃げて! ……お願い、風にならないで!!」
「……!?」
 眼を背くことが、できなかった。

 ああ、私は反逆罪になる。でも、いい。
 確かに、空を駆けたかった。自由に、飛びたかった。けど。

 ――血だらけの空なんて、嫌だ。

 私の声に従い、カゼビトがいなくなっていく。そして私は捕まった。きっと反逆罪で死刑だろう。
 せめて、もっと晴れやかに、空を駆けたかったなあ。
 でも、誰かの命で成り立つ「ソラのコトリ」はもう嫌い、大嫌いだ。悔いはない。

 そう、思っていたら。
「――! おい、なんだ! なっ――……!?」
 なにやら、騒がしい。なんなのだ、私はさっさと、終わらせてほしいのに。

「――ソラのコトリの、貴女が、そう?」

 突然、目の前に青年が現れた。
「? 誰……?」
「あ、やっぱり。あのときの声のひと、だね」
「…………。あなた、は?」
「ついさっき、貴女の声のおかげで、「風」にならずに済んだ、ただのカゼビトだよ」
 確かに、青年らしきカゼビトも、いたかもしれない。でも、ならなおさら、なぜここに?

「――ねえ、お嬢さん。ちょっと、貴女の命、救わせてくれない?」

「……はい?」
「あ、時間はないから、話は後でね」
 そして。
 いきなりひゅうっと、風が頬を叩いてきたような感覚。
「え? ……えっ?」
 なぜやら私は、空を飛んでいた。ものすごい速度で。
「そんなに驚くこと? 自分が助けたひとに、恩を返されるのは」
「え、なんで。えっと……?」
「……まあ、いいや。貴女はただ、風に身をまかせていたら、それでいいよ」


 ――そうして私は、意図せずに。カゼビトたちの住まう森にて。
 彼らから「勇者」なんて呼ばれることになるとは、この時はまだ。まだまだ、考えてもいなかった。

5/12/2024, 9:37:02 PM

子供のままで

 私たちは、いつまでが「子ども」でいられるのか。

 この世には、子供を大人にさせてしまう現象がある。

ヤングケアラー。

 想像できるだろうか。
小学生、幼稚園児、もしかしたらそれ以下の年齢で
「大人の手をわずらわせない子ども」
であるとともに
「家族のお世話をする子ども」
 に、なっている子どもが多いことを。

 私は、幼稚園を卒業する頃には、とっくに自分の髪を自分で結べるようになっていた。
 小学生で、兄の送迎バスの迎えに出向いていた。

「自分でできるもん」

 それが、私の幼いころからの、自立心。
 そこに加えて。
 兄妹は「兄」なのだが、まるで「弟」のように、扱っていた。


 でも、本来は「子供」なのだ。
 本当は大人に甘えたいし、自分のことを見てほしい。身も心も、子供のままでいたい。
 でも、何らかの理由で、そう有れなかった。

 これらはきっと、氷山の一角でしかない。
 ――闇は、もっともっと、深いところにある。

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