月凪あゆむ

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1/17/2025, 4:31:00 AM

透明な涙

 今日は天気が良くない。
 店の前の花に水をやりなから、空を仰ぎ見た。
 直に、雨が降るだろうなと思いはするも、花への栄養は欠かさない。それがたとえ、ただの水道水でも。

 程無くして、雨だ。
 恵みの雨が降ってきた。

 ふと、おかしなことを思った。

 花が落とす水を「涙」としたなら、どちらの水が多く、土に善いのか。また、それはどんな味だろう、と。

 花弁は、語ることなんてない。
 落ちる水は、ただただ透明な色だ。

1/6/2025, 3:40:50 AM

冬晴れ

 生命の誕生は、いつになっても「神秘」だと思う。
 この子で三人目。だというのに、いや。
 きっとどれだけの子を迎えても、こんな感じだろう。
 子供二人のほうが、落ち着きさえ感じていて。自分が父親だというのに、これでは示しがつかないような。けれど「慣れる」気はしない。
まったく、なんと言えば良いやら。

 だって。
 早くに産まれることで未熟児どころか「超」の未熟児になるでしょう。
 そんなことを言いわたされたのが数時間前。妻の、苦しむ声の先。

 長く、永く感じた時間の末に。
 ――おめでとうございます、女の子ですよ。
 声は、なかった。そのまますぐ、どこかへ連れていかれてしまった。今腕に抱くには、あまりに小さすぎるから、と。

 一瞬見えた。小さい。とっても。手のひらサイズもいいところだ。
 名前は、決めていた。
 冬の晴れまと書いて「冬晴れ」、今日のような日に。
 ――ひより、と。

9/28/2024, 11:19:15 PM

別れ際に

 私の幼なじみは、とっても鈍い。
 だってこれまで、いくつもの「ラブレター」という名の「差し入れ」をもらっていることか。


 ほら、今日もバスケの練習中に、女の子からの差し入れが。

「ありがとう! これからも応援よろしく!」

 いや、「応援」というよりも「好きです」って感じの眼だから、あれは。
 ……言いたいけど、言いたくない。           だって
「俺もあの子、気になってたんだ」
なんて言われた日には、へこむのはこっちだ。


 私の幼なじみは、ちょっと寂しがりだ。
「一緒に帰ろ」
 部活終わりに一緒に道を歩くのは、もうお決まりのようなこと。
 その日の私は、いつもとちょっと違った。
「ねえ、差し入れに込められてるメッセージって、なんだと思う?」
「ん? そりゃ「頑張って」だろ?」
「……それだけ?」
「ん?」
 本当に、鈍い。
「私、思うんだけど。差し入れって、ラブレターに似てない?」
「ラブレター? なんで?」
「なんで、って……」

 あぁ、ダメだ。これじゃあ伝わらない。
そうこう言ってる間に、別れ道になる。
「……やっぱ、なんでもない。忘れて」

「――おまえ今、「こいつ鈍いな」って思っただろ」
「え?」
 彼は、なんだかとても真剣な顔つきをしていた。
「確かに俺は鈍いとこあるけどさ。おまえも、それなりに鈍いと思うよ」
「? なんの話?」

「――俺は、おまえが好きだから、一緒に帰ろうっていつも誘ってるんだけど」

「――――え」
 じゃあな、と。
 そんな、爆弾発言を別れ際に残していった。
「…………」

 私の幼なじみは、とっても鈍い。けど。
 私も、もしかしたら鈍いところがある、のかもしれないと。
 はじめて、そんなことを思った。

9/25/2024, 5:52:58 AM

形の無いもの

 僕には、「形の無いもの」が視える。

 こころ。
 身体のなかの血の巡り。
 亡くなった魂。

 挙げたらきりがないくらい。
 でも、いつからか言わなくなった。
 何故か。

 ――気味が悪い。

 そう、言われたからだ。自分でも、色々思うことはある。
 でも、ふたりが。

『ありがとう』
『優しい力じゃないですか』

 そう、言ってくれたひとがいる。
 二年前に事故で亡くなった、僕の弟と、その彼女さんだ。
 
 弟は言う。
『世の中、形のないものなんて、ごまんとある。兄さんにはそれが見える。それは、すごく優しいことだよ。きっと』
 弟の彼女さんも、こう言った。
『気味が悪い、って言うひとの言葉なんて、気にしないでください。お兄さんのおかげで、私は家族へ遺言が伝えられたんですから』

 そう、遺言。
 僕は、彼女さんの言葉をご家族に伝えた。『視える』ことを話してから。
 最初はやっぱり、信じてもらえなかった。でも、何度も伝えたんだ。本人の想いを見て。その遺言を聞いて。

 そしてある時。
「ずっと、頭が混乱してるけど……。それらが全部、本当なら」
「――教えてくれて、ありがとう」


 形の無いもの。
 僕は今日も、色んなものと向き合う。
 いつか、本当に視えなくなる日がくるだろう、魂だけの僕の弟とその彼女さん。

 二人の形なき言葉を、心に抱えながら。

9/23/2024, 10:55:32 PM

ジャングルジム

「ねえねえママ! あたしもジャングルのジム、いきたい!」

 ん?
 ジャングル「の」ジム?
「あなたにはまだ、はやいかなー」
「はやい? なんで?」
 なんで? はこちらが聞きたい。
「ね、ジャングルのジムって、誰から聞いたの?」

「おにいちゃん!」

 あぁ、なるほど。
「なら、お兄ちゃんにお願いしてみたら? お兄ちゃんなら、知ってるから」
「! ほんと?」
「うん、本当」
 それはもう、にっこりと笑ってみせた。
「わかった! おにいちゃんにきいてくるね!」
 嵐のようにやってきて、嵐のようにとたとたと、いなくなる娘。きっと息子は困るだろうが、まあ自業自得だ。
 なんたって、まだまだ若き4歳児にあんな嘘を教えるんだから。

「あれは、違うって!」
「だっていってたよね、『ジャングルのジムは、スリルがあっていいんだ』って」
「いや、あれはさ……!」

 ほら、12歳児が4歳児に負けてる。
 どのあたりで割って入ろうか。またはもう少し傍観するか。
 さっきとはまたちょっと種の違う、笑いがこみ上げてくる。我ながら、悪いなぁ。

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