月凪あゆむ

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7/9/2024, 10:38:50 AM

私の当たり前

 私のなかの「当たり前」は、だいたいの人には通用、というか共感されない。
 子どもの頃、「どうしてだろう」と思っていたことはたくさんある。

 例えば。
街中や乗り物で、車椅子の人を、遠巻きに眺める健常者の眼に。
(そんなに珍しかったりするもの?)
と、思っていること。
 人眼を引きやすいのはわかるけど、じろじろ見るのは違うと思う。

 ただまあ。大人になって考えると、「そういう人種」もいるのは理解できる。
 自分を強者だと思い込み、弱者と見定めたものを嘲笑う人。それか、ただの「物珍し」なのか。
 
 本来、弱者も強者もない。でも強者のほうが、なぜ偉そうな振る舞いをするのだろう。
 なんていうときっと
「弱者と強者はいるものだ」
という声が挙がることも解っている。

 それでも。
「ひとはひと」であり、そこにそれほど差異はない。それが、誰がなんと言おうと、「私の当たり前」なのだ。
 それはきっと、これからも変わらない。

6/14/2024, 3:56:29 AM

あじさい

 ――君の作ってくれる弁当よりも、たぶん、俺のほうが、料理旨いんだ。

 思い出すたび、ああ悔しい。
 あの、弁当屋の交際3ヶ月男が。そいつの、あの一言が。

 だって、料理なんてこれまでそんなにしたことないなかで。こっちだって頑張って毎日作ってきたのに!
 それくらい、「いいな」と思えた相手だ。これくらいで、フってもフラれてもやるもんか。
 
 そう思いながら、今日もお弁当を作ってきた。
 彼が見えた。 
「あの――」

「悪かった!!」

「……え?」
 なぜか、ピンクと白のあじさいを抱えて、彼は顔を赤くして、謝ってきた。
「その、あの後みんなに叱られた。思い出すと、俺も無神経なこと言った!」
「え、……え?」
 さっと、ピンクと白のあじさいを渡される。 
「あじさいの花言葉。ピンクは元気な女性。白は寛容、だって」

「ん? え?」

「だから、その。君の元気と、俺の、その。寛容?を……えっと……掛け合わせ……?」
 
 仲直りしたい、と。
 つまりは、そういうことらしい。

 なんだか、おかしくなってきた。
「なに、ちょっと馬鹿じゃないの」
「えぇ……?」

 まあ、いいか。
「今度、お料理のやり方、指南してよね」
「え、え、あぁ…………。もちろん! 君ならきっと、旨いのがつくれる! ……と思う」
「ちょっと! もっとはっきり褒めてよ!」

 とりあえず、やってみよう。3ヶ月男との日々は、案外悪くなかったから、これからもきっと、なんとかなる、だろう。




過去のお題「正直」の続きだったりします

6/10/2024, 3:49:30 AM

朝日の温もり

 今、私は家出を決行した。
 ……なんにも、これといって考えというものはないけど。
 
 だって、あんまりだ。
 「私の将来」の話なのに、私の感情は無視したお父さんの主張。その主張に「私」の希望は全く入ってないなんて!


「ねえどう思う!?」
「いやー、だからってうちに来られても」
 なんとなく、親友に話したくなり、家も知ってるしで。
 親友が一人暮らしする家に、押し入ってみた。
「だってー」
「えーっとさ。……正直、おまえはまだ恵まれてるって、うちは思うけども」
「うぅ……」
 彼女が一人暮らしなのは、家族がいないからだ。そんな相手に「恵まれてる」と言われたら、ぐうの音もでないというもの。
 それでも。
「今日だけでいいから、ちょっと大目に見てよ! お願い!」
「……今日だけ、だかんな」
「ありがとう!」
 この親友は、私にちょっと甘いところがある。
 彼女の見た目と口調は、ちょっと悪い。もっというと、男っぽいとこがある。
学生時代は、そのせいでたくさん、周りから避けられたり、イビられていた。
 
 でも、そんなの私は気にしない。
 だって、ただの通りすがりながら自分もずぶ濡れなのに、雨の中で、初めての家出をした私を、心配して追いかけてくれた。それを「お人好し」と言わずなんと呼ぶのか。
 あの時から、私から彼女への信頼度はMAXなのだ。
 彼女的にも、懐かれることに慣れていないからなのか、なんだかんだこうして、甘やかしてくれる。
 私は、そんなところにつけ込む悪い友だ。自覚はある。でも、改めるのは、また今度。

 明日のことは、また明日になってから、考えよう。
 そう思い、彼女の布団の中に遠慮なく入る。
「おめえは犬か」
 でもきっと、そんなに悪い気でもない。声でわかる。
「ふふふ、ねえ」
「なんだよ」

「朝日、大好き!」
 彼女の名を呼び、ごろんと寝転ぶ。
 この温もりは、なんとも言いがたいくらい、心地よい。

6/3/2024, 3:28:25 AM

正直

 今日は。今日こそは言おう、と意気込み、前を向く。前にいるのは付き合って3ヶ月の彼女だ。

「あの、さ……」
「うん? あ、今日も用意してきたからね、お弁当!」
「あ、あぁ……、ありがとう」

 頑張れ俺! 先延ばしにして、何が良いことがある? さあ!

「ちょっと、正直なことを懺悔してもいい?」
「? いいけど、懺悔って?」


「俺の家、弁当屋なんだ」

「…………え?」
「だから、その。……君の作ってくれる弁当よりも、たぶん、俺のほうが、料理旨いんだ」
「…………」


 その後。
「サイテー!」と、青空に響いた、女子の甲高い声。


「あ、またあいつカミングアウトしちゃったんだ?」
「もうちょい、言い方が違えば、まだマシなのにねえ」
「あんなだから、あいつはすぐにフラれるんだろ」
 俺をよく知る友人たちが、そんな風に呆れているだろう。だがしかし、それなりに自分でも分かっているのだ、が。
 どうしても、弁当屋の息子としては、黙ってはいられないのだ。我ながら、変なプライドだとは思う。
 友人からのお小言は、この後に改めて聞くことになるのだった。

5/31/2024, 3:46:04 AM

終わりなき旅

「ねえねえ、『終わりなき旅』って曲、いいよね!」
「ん? 死後のセカイの話?」
「なんでそうなる!?」

 あたしの幼なじみは、こういうとこが変わってる。
 なんで、素敵な曲のタイトルに、死後の世界とか、ぶつけてくるかな。
 でも、ちょっと気になるから、話に乗ってみる。
「死後の世界って。なんでそう思うの?」
 幼なじみは、『何を当たり前のことを聞くんだ』的な顔しながら、説明をくれる。
「だって、生きるのには必ず『終わり』はあるだろう? その点、死んだら、旅は終わらない」
「……は?」
 いや、なんで?? なんで旅するのを前提にして考えるの?
「あたし、ホントにあんたの考えることが分からないんだけど」
「そう? 人間はいつか、死ぬもので。そしたら必ず、旅に出るって。よくじいちゃんがいうんだ」

 なるほど。あんたの謎な考え方はあのお祖父さんの影響か。
「でも、よく魂って『生き返り』とかも言うけど、それはないの?」

「ない」

 なんで即答。

「だって、じいちゃんは一生、俺の『祖父ちゃん』だから。ほかの誰のでもなく、さ」
「うーん……。あのお祖父さんの理屈はよく分からないけど。……まあ、あんたがお祖父さんをすんごく慕ってるのだけは、よーくわかった」

 何故か始まりかけた、「終わりなき旅」説は論争にはならず。しかもその後も、幼なじみはお祖父さんのよく分からない理屈を、たっくさん話して聞かせてくる。

 旅じゃあないけど、この話は、いつ終わるのだろうか。
 こいつの、お祖父さんへの愛が強い、というか重い。

 でも、不思議と「聞かなきゃ良かった」とまでは思わない。まさかあたしも、感化された? いやいや、それはさすがに。

「――で、って。……聞いてる?」
「うんまあ、もちろん?」 
「なんで疑問系?」

 こいつの長い話は、はたして終わりはどこに着地するのだろうか。
 いやいや、だってそれは終わってくれないと、困るんだからね? 特にあたしが。 

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