月凪あゆむ

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1/25/2025, 11:55:18 AM

終わらない物語

 物語には、「終わり」がつきもの。それは本当のことだ。
 そのなかで、環境によっては「終わりに限りなく遠い命」と呼べるものがある。それは。
 
 ――大樹。

 それは、そのものにより何千、何万。もしかしたら何億後年と、その場所に在るもの。
 その場所が何らかの形で変化さえなければ。また、人々が大樹が在ることを望む限りは。
 この際、「植物に命があるのか」という論は置いておこう。

 そうして、大樹は見守る。人々の行いを、営みを。生と死の狭間を。
 それこそが、終わりのない物語、と言えるのかもしれない。


 そうそう。我が家にも、それに近く生きる命がある。玄関のアロエだ。
 暖かくなれば、外に出して生き生きと。しかし寒くなって、玄関の内にしまうのをうっかり忘れると、ほぼ枯れ果ててしまう……かのように見えるが。
 そこから一月もすると、枯れた茶色が、いつの間にか少しずつ、綺麗な緑へと変化していくではないか。
 きっと我が家のアロエも、自身が死の淵と生の狭間を彷徨い、毎年生還しているのだ。
 ああ、なんて強さだろう。申し訳ない。

1/20/2025, 3:39:26 AM

ただひとりの君へ

 それは、とある学校の、放課後の職員室にて。
「ちょっと! 見てくださいよこれ」
「ん~?」
「なんですか?」
 三年1組の担任の女性が、頭を抱えていた。
「あんの、問題児が~!」
 なんだなんだと、周りの職員も「それ」を見て。
「うわぁ……」
「また、ですか……」
「今日の、作文ですよね? 確かお題はこのページからとってて」
「そう」
 担任は、教科書の1文から、作文のお題をだした。それがこうだ。

「ただひとりの君へ」

「忠仁、理乃、喜美枝へ」

お分かりだろうか。
「ただひと、りの、きみえへ」
へと変換されていたのだ。
 しかも、その名前は実在していて、作者の数ある友人たちを指す。
 その下に続くのは、やたら大袈裟な友らへの感謝。
 友情自体は良い。だが、これでは作文などではなく、ただの「お手紙」だ。

「このやり方、今回で四度目よ? 信じらんない! これで、テストではなんで満点になれるの!?」

 今日も今日とて、担任教師は頭を悩ませている。

1/17/2025, 4:31:00 AM

透明な涙

 今日は天気が良くない。
 店の前の花に水をやりなから、空を仰ぎ見た。
 直に、雨が降るだろうなと思いはするも、花への栄養は欠かさない。それがたとえ、ただの水道水でも。

 程無くして、雨だ。
 恵みの雨が降ってきた。

 ふと、おかしなことを思った。

 花が落とす水を「涙」としたなら、どちらの水が多く、土に善いのか。また、それはどんな味だろう、と。

 花弁は、語ることなんてない。
 落ちる水は、ただただ透明な色だ。

1/6/2025, 3:40:50 AM

冬晴れ

 生命の誕生は、いつになっても「神秘」だと思う。
 この子で三人目。だというのに、いや。
 きっとどれだけの子を迎えても、こんな感じだろう。
 子供二人のほうが、落ち着きさえ感じていて。自分が父親だというのに、これでは示しがつかないような。けれど「慣れる」気はしない。
まったく、なんと言えば良いやら。

 だって。
 早くに産まれることで未熟児どころか「超」の未熟児になるでしょう。
 そんなことを言いわたされたのが数時間前。妻の、苦しむ声の先。

 長く、永く感じた時間の末に。
 ――おめでとうございます、女の子ですよ。
 声は、なかった。そのまますぐ、どこかへ連れていかれてしまった。今腕に抱くには、あまりに小さすぎるから、と。

 一瞬見えた。小さい。とっても。手のひらサイズもいいところだ。
 名前は、決めていた。
 冬の晴れまと書いて「冬晴れ」、今日のような日に。
 ――ひより、と。

9/28/2024, 11:19:15 PM

別れ際に

 私の幼なじみは、とっても鈍い。
 だってこれまで、いくつもの「ラブレター」という名の「差し入れ」をもらっていることか。


 ほら、今日もバスケの練習中に、女の子からの差し入れが。

「ありがとう! これからも応援よろしく!」

 いや、「応援」というよりも「好きです」って感じの眼だから、あれは。
 ……言いたいけど、言いたくない。           だって
「俺もあの子、気になってたんだ」
なんて言われた日には、へこむのはこっちだ。


 私の幼なじみは、ちょっと寂しがりだ。
「一緒に帰ろ」
 部活終わりに一緒に道を歩くのは、もうお決まりのようなこと。
 その日の私は、いつもとちょっと違った。
「ねえ、差し入れに込められてるメッセージって、なんだと思う?」
「ん? そりゃ「頑張って」だろ?」
「……それだけ?」
「ん?」
 本当に、鈍い。
「私、思うんだけど。差し入れって、ラブレターに似てない?」
「ラブレター? なんで?」
「なんで、って……」

 あぁ、ダメだ。これじゃあ伝わらない。
そうこう言ってる間に、別れ道になる。
「……やっぱ、なんでもない。忘れて」

「――おまえ今、「こいつ鈍いな」って思っただろ」
「え?」
 彼は、なんだかとても真剣な顔つきをしていた。
「確かに俺は鈍いとこあるけどさ。おまえも、それなりに鈍いと思うよ」
「? なんの話?」

「――俺は、おまえが好きだから、一緒に帰ろうっていつも誘ってるんだけど」

「――――え」
 じゃあな、と。
 そんな、爆弾発言を別れ際に残していった。
「…………」

 私の幼なじみは、とっても鈍い。けど。
 私も、もしかしたら鈍いところがある、のかもしれないと。
 はじめて、そんなことを思った。

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