月凪あゆむ

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9/28/2024, 11:19:15 PM

別れ際に

 私の幼なじみは、とっても鈍い。
 だってこれまで、いくつもの「ラブレター」という名の「差し入れ」をもらっていることか。


 ほら、今日もバスケの練習中に、女の子からの差し入れが。

「ありがとう! これからも応援よろしく!」

 いや、「応援」というよりも「好きです」って感じの眼だから、あれは。
 ……言いたいけど、言いたくない。           だって
「俺もあの子、気になってたんだ」
なんて言われた日には、へこむのはこっちだ。


 私の幼なじみは、ちょっと寂しがりだ。
「一緒に帰ろ」
 部活終わりに一緒に道を歩くのは、もうお決まりのようなこと。
 その日の私は、いつもとちょっと違った。
「ねえ、差し入れに込められてるメッセージって、なんだと思う?」
「ん? そりゃ「頑張って」だろ?」
「……それだけ?」
「ん?」
 本当に、鈍い。
「私、思うんだけど。差し入れって、ラブレターに似てない?」
「ラブレター? なんで?」
「なんで、って……」

 あぁ、ダメだ。これじゃあ伝わらない。
そうこう言ってる間に、別れ道になる。
「……やっぱ、なんでもない。忘れて」

「――おまえ今、「こいつ鈍いな」って思っただろ」
「え?」
 彼は、なんだかとても真剣な顔つきをしていた。
「確かに俺は鈍いとこあるけどさ。おまえも、それなりに鈍いと思うよ」
「? なんの話?」

「――俺は、おまえが好きだから、一緒に帰ろうっていつも誘ってるんだけど」

「――――え」
 じゃあな、と。
 そんな、爆弾発言を別れ際に残していった。
「…………」

 私の幼なじみは、とっても鈍い。けど。
 私も、もしかしたら鈍いところがある、のかもしれないと。
 はじめて、そんなことを思った。

9/25/2024, 5:52:58 AM

形の無いもの

 僕には、「形の無いもの」が視える。

 こころ。
 身体のなかの血の巡り。
 亡くなった魂。

 挙げたらきりがないくらい。
 でも、いつからか言わなくなった。
 何故か。

 ――気味が悪い。

 そう、言われたからだ。自分でも、色々思うことはある。
 でも、ふたりが。

『ありがとう』
『優しい力じゃないですか』

 そう、言ってくれたひとがいる。
 二年前に事故で亡くなった、僕の弟と、その彼女さんだ。
 
 弟は言う。
『世の中、形のないものなんて、ごまんとある。兄さんにはそれが見える。それは、すごく優しいことだよ。きっと』
 弟の彼女さんも、こう言った。
『気味が悪い、って言うひとの言葉なんて、気にしないでください。お兄さんのおかげで、私は家族へ遺言が伝えられたんですから』

 そう、遺言。
 僕は、彼女さんの言葉をご家族に伝えた。『視える』ことを話してから。
 最初はやっぱり、信じてもらえなかった。でも、何度も伝えたんだ。本人の想いを見て。その遺言を聞いて。

 そしてある時。
「ずっと、頭が混乱してるけど……。それらが全部、本当なら」
「――教えてくれて、ありがとう」


 形の無いもの。
 僕は今日も、色んなものと向き合う。
 いつか、本当に視えなくなる日がくるだろう、魂だけの僕の弟とその彼女さん。

 二人の形なき言葉を、心に抱えながら。

9/23/2024, 10:55:32 PM

ジャングルジム

「ねえねえママ! あたしもジャングルのジム、いきたい!」

 ん?
 ジャングル「の」ジム?
「あなたにはまだ、はやいかなー」
「はやい? なんで?」
 なんで? はこちらが聞きたい。
「ね、ジャングルのジムって、誰から聞いたの?」

「おにいちゃん!」

 あぁ、なるほど。
「なら、お兄ちゃんにお願いしてみたら? お兄ちゃんなら、知ってるから」
「! ほんと?」
「うん、本当」
 それはもう、にっこりと笑ってみせた。
「わかった! おにいちゃんにきいてくるね!」
 嵐のようにやってきて、嵐のようにとたとたと、いなくなる娘。きっと息子は困るだろうが、まあ自業自得だ。
 なんたって、まだまだ若き4歳児にあんな嘘を教えるんだから。

「あれは、違うって!」
「だっていってたよね、『ジャングルのジムは、スリルがあっていいんだ』って」
「いや、あれはさ……!」

 ほら、12歳児が4歳児に負けてる。
 どのあたりで割って入ろうか。またはもう少し傍観するか。
 さっきとはまたちょっと種の違う、笑いがこみ上げてくる。我ながら、悪いなぁ。

7/9/2024, 10:38:50 AM

私の当たり前

 私のなかの「当たり前」は、だいたいの人には通用、というか共感されない。
 子どもの頃、「どうしてだろう」と思っていたことはたくさんある。

 例えば。
街中や乗り物で、車椅子の人を、遠巻きに眺める健常者の眼に。
(そんなに珍しかったりするもの?)
と、思っていること。
 人眼を引きやすいのはわかるけど、じろじろ見るのは違うと思う。

 ただまあ。大人になって考えると、「そういう人種」もいるのは理解できる。
 自分を強者だと思い込み、弱者と見定めたものを嘲笑う人。それか、ただの「物珍し」なのか。
 
 本来、弱者も強者もない。でも強者のほうが、なぜ偉そうな振る舞いをするのだろう。
 なんていうときっと
「弱者と強者はいるものだ」
という声が挙がることも解っている。

 それでも。
「ひとはひと」であり、そこにそれほど差異はない。それが、誰がなんと言おうと、「私の当たり前」なのだ。
 それはきっと、これからも変わらない。

6/14/2024, 3:56:29 AM

あじさい

 ――君の作ってくれる弁当よりも、たぶん、俺のほうが、料理旨いんだ。

 思い出すたび、ああ悔しい。
 あの、弁当屋の交際3ヶ月男が。そいつの、あの一言が。

 だって、料理なんてこれまでそんなにしたことないなかで。こっちだって頑張って毎日作ってきたのに!
 それくらい、「いいな」と思えた相手だ。これくらいで、フってもフラれてもやるもんか。
 
 そう思いながら、今日もお弁当を作ってきた。
 彼が見えた。 
「あの――」

「悪かった!!」

「……え?」
 なぜか、ピンクと白のあじさいを抱えて、彼は顔を赤くして、謝ってきた。
「その、あの後みんなに叱られた。思い出すと、俺も無神経なこと言った!」
「え、……え?」
 さっと、ピンクと白のあじさいを渡される。 
「あじさいの花言葉。ピンクは元気な女性。白は寛容、だって」

「ん? え?」

「だから、その。君の元気と、俺の、その。寛容?を……えっと……掛け合わせ……?」
 
 仲直りしたい、と。
 つまりは、そういうことらしい。

 なんだか、おかしくなってきた。
「なに、ちょっと馬鹿じゃないの」
「えぇ……?」

 まあ、いいか。
「今度、お料理のやり方、指南してよね」
「え、え、あぁ…………。もちろん! 君ならきっと、旨いのがつくれる! ……と思う」
「ちょっと! もっとはっきり褒めてよ!」

 とりあえず、やってみよう。3ヶ月男との日々は、案外悪くなかったから、これからもきっと、なんとかなる、だろう。




過去のお題「正直」の続きだったりします

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